近所に住む同級生の“のびさん”。価値観が似ている彼女と僕は、自然と仲良くなる/片岡健太(sumika)『凡者の合奏』

文芸・カルチャー

更新日:2022/7/20

 あなたは、身近にいる人との縁や繋がりのきっかけを考えたことはありますか?

 今回ご紹介する書籍は、人気バンドsumikaの片岡健太さんと、彼と関わる人々との記録を綴った人間賛歌エッセイ『凡者の合奏』。

 多くの絶望や数々の挫折を経験してきたなかでも、それ以上に人との関わりに救われた片岡さん。

「さまざまな人にとっての“sumika(住処)”のような場所になって欲しい」バンド名の由来にもあるように、sumikaの音楽はとにかく優しく、人への愛にあふれている。

 彼が織り成す、そっと背中を押してくれるような優しい言葉の源とは――?

「特別な才能があるわけじゃない」「1人では何もできない」「昔も今も常にあがいている」、凡者・片岡健太さんのすべてをさらけ出した一冊。オール本人書き下ろしに加えて、故郷の川崎市や思い出の地を巡った撮り下ろし写真も多数収録。また、『凡者の合奏』未収録写真を、ダ・ヴィンチWebにて特別公開いたします!

 近所に“のびさん”というクールな雰囲気の女の子が住んでいた。彼女は年の離れた兄と姉の影響で、周りの同級生とは好みがだいぶ違っていた。

※本作品は片岡健太著の書籍『凡者の合奏』から一部抜粋・編集しました

凡者の合奏
『凡者の合奏』(片岡健太/KADOKAWA)

凡者の合奏
写真=ヤオタケシ

推し活のススメ

 自身のラジオ番組のお悩み相談で、「男女間の友情は存在すると思いますか?」という質問がくるのだが、その度に僕は「存在するんじゃないかな」と答える。

 近所に〝のびさん〟という、同級生が住んでいた。高身長で痩身、髪の毛はショートカット。整った顔立ちで、小学生とは思えないような、クールな雰囲気の女の子だった。男女ともに人気がありそうな感じ。

 接点を持つことはないだろうなと僕は思っていたのだが、ある日たまたま下校が一緒になり、僕らの家が、徒歩1分ほどの近所であることが発覚。その際にのびさんが、「こんな近所に友だちが住んでいるなんて知らなかったから、すごく嬉しい!」と、屈託のない笑顔で言ってくれた。ほとんど話したこともないのに、自分を〝知り合い〟ではなく〝友だち〟と言ってくれたことが、僕はとても嬉しかった。

 今思い返せば、ただ単に、小学生の語彙力として〝知り合い〟がなかっただけで、手近な〝友だち〟を使っただけなのかもしれないが、クールビューティーなのびさんと〝友だち〟だというステータスに、僕の心は大層浮かれた。

 のびさんと仲良くなり、色々な話をするようになった。すると、彼女の好みが、当時の同級生たちとはだいぶ異なっていることが分かった。たとえば、まわりの同級生が持っていたゲーム機といえば、大体スーパーファミコンかプレイステーションだったのだが、のびさんはメガドライブかPCエンジンという、かなりニッチなゲーム機を愛好していた。周囲の女子生徒が少女漫画でときめいている中、のびさんは、凜としてボーイズラブにときめいていたし、学校の学芸会の出し物を決める際にも、一人だけスプラッターホラー系の出し物を提案していた。

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