身近にある「七つの機会」に注目! ドラッカーの“イノベーション思考”を学べる『もしドラ』の続編

ビジネス

公開日:2022/5/12

ロングセラーや話題の1冊の「読みどころ」は? ダ・ヴィンチWeb編集部がセレクトした『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』(岩崎夏海/ダイヤモンド社)をご紹介します。

こんな人にオススメ

・会社などでチームマネジメントに関心のある人

・ビジネスパーソンとしての教養を身につけたい人

・新しい発想を手に入れたい人

3つのポイント

要点1 ドラッカーはイノベーションを「意識的かつ組織的に変化を探すこと」と定義した。

要点2 イノベーション実現のためには身近にある「七つの機会」に注目することが必要。

要点3 信頼性と確実性の大きい順番に並ぶ「七つの機会」は、順序を問わず重なるときもある。

(著者プロフィール)
岩崎夏海(いわさき・なつみ)
1968年生まれ。東京都日野市出身。東京藝術大学建築学科卒。大学卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』等、テレビ番組の制作に参加。その後、アイドルグループAKB48のプロデュースなどにも携わる。
2009年12月、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社)を著し、ベストセラーに。他の著書に『エースの系譜』(講談社)、『小説の読み方の教科書』(潮出版社)、『チャボとウサギの事件簿』(文藝春秋)、『宇宙って面白いの?』(講談社)、『まずいラーメン屋はどこへ消えた?―「椅子取りゲーム社会」で生き残る方法』(小学館)、『部屋を活かせば人生が変わる』(部屋を考える会/夜間飛行)、『『もしドラ』はなぜ売れたのか』(東洋経済新報社)、『競争心』(心交社)などがある。ドワンゴ・夜間飛行にて有料メルマガ『ハックルベリーに会いに行く』を配信中。YouTubeチャンネル『ハックルテレビ』を運営。2015年から岩崎書店の社外取締役となり、児童書のプロデュースにも携わる。他に、「岩崎夏海クリエイター塾」の講師を2014年から務めている。

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イノベーション達成のために必要な変化を捉える「七つの機会」

 作品の舞台は、かつて野球部が存在していた私立浅川学園高校。主人公の女子高生・夢が校内で『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(以下、『もしドラ』)を拾うところから、物語は展開していく。

 浅川学園高校にはかつて、甲子園出場も果たした「幻の野球部」があった。休部中の野球部を再建しようという真実の“夢”に共感した夢、もう一人のマネージャーである男子高校生・公平は、真実からドラッカーの著書『イノベーションと企業家精神』を読んでくるようすすめられる。

 かつてドラッカーは、イノベーションについて「意識的かつ組織的に変化を探すこと」と定義した。変化を探すとは「身の回りに起きている『これまでとは違うこと』を、注意深く見つけていくこと」だと、夢や公平に伝える真実。さらにドラッカーは、その変化を以下の「七つの機会」に分けた。

第一 予期せぬことの生起
第二 ギャップの存在
第三 ニーズの存在
第四 産業構造の変化
第五 人口構造の変化
第六 認識の変化
第七 新しい知識の出現

 ドラッカーは「七つの機会の順番には意味がある。信頼性と確実性の大きい順に並べてある」と唱えたという。真実からそう教えられた公平は「どれからやっていくのがいいのかな?」と、彼女に尋ねた。

想像していなかった成功を人間は「拒否してしまう」

 第一の機会「予期せぬことの生起」とは、成功か失敗かを問わず「予期せぬ出来事が起こること」を表している。その一例として、ドラッカーは自著でニューヨークの高級百貨店・メイシーでの事例を取り上げた。

 1950年代、婦人服を主力商品とするメイシーでは、予想外に家電が売れ始めることがあった。しかし、当時の経営者はその事態を喜ばなかった。そう思った理由について、経営者は以下の言葉を残していた。

予期せぬ成功をマネジメントが認めないのは、人間誰しも、長く続いてきたものが正常であって、永久に続くべきものと考えるからである。自然の法則のように受け入れてきたものに反するものは、すべて異常、不健全、不健康として拒否してしまう。

 この事例を取り上げたドラッカーは「予期せぬ成功は気づかれさえしない。注意もされない。利用されないまま放っておかれる」と説いた。

 この教えについて「人間って『成功』には鈍感なものよね。みんなやっぱり基準を高く持っているから、成功しても『当たり前』と思っちゃうんだわ」と達観する真実。しかし、視点を変えれば成功に気が付ける。この時点で、再建をめざす野球部には五人のマネージャーが集まっていたが、真実の言葉を受けて自分たちの現状を振り返る公平は、すでにそれ自体が「予期せぬ成功」と気が付いた。

「ギャップ」と「ニーズ」に気が付くのは絶好の機会

 イノベーションの第二の機会は「ギャップの存在」だ。ドラッカーはこのギャップについて「現実にあるものと、あるべきものとの乖離、あるいは誰もがそうあるべきとしているものとの乖離であり、不一致である」と唱えていた。

 ギャップ自体が「イノベーションの機会」だと話す真実は、マネージャー志望の同級生・洋子の動機に注目する。洋子は「マネジメントの勉強をしたいけど、高校にはそれをできる場がない」と考え、マネージャーとして野球部への入部を決めた。その欲求こそが「イノベーションの機会」と力説する真実は、洋子の思いが第三の機会にあたる「ニーズの存在」でもあると彼女に伝えた。

 イノベーションにおけるニーズについて「限定されたニーズである。漠然とした一般的なニーズではない。具体的でなければならない。それは、予期せぬ成功や失敗、ギャップと同じように企業や産業の内部に存在する」とドラッカーは唱えた。

 そして、イノベーションの上では「七つの機会」が順序を問わず重なるときもある。マネージャーの一人、五月は、真実が「野球をしませんか?」ではなく「マネジメントをしませんか?」と訴えてきたこと自体が、イノベーションだったと気が付く。真実は「私たちの野球部はマネージャーが主役になるのです。そしてそのマネージャーが、マネジメントを学ぶための組織なのです!」と勢いよく宣言した。

変化を「脅威」と捉えるかどうかはイノベーションの分岐点

 浅川学園高校の新任教師・文乃は、ドラッカーの『マネジメント』を参考にマネージャーとして、弱小野球部を甲子園へ導いた経験があった。そして、当時のことを書いた彼女の著書こそが、物語中に登場するベストセラー本『もしドラ』だった。

 野球部を「マネジメントを学ぶための組織」にしようと奮闘する真実は、監督候補に文乃を挙げた。過去の実績はもちろん、「野球部がマネジメントを重視している」と周知するのにも役立つ。加えて、選手の経験がない文乃の存在に「魅力」を感じたのが理由だった。

 従来のイメージとは違う野球部を作りたいと願うマネージャー陣も共感。これは、イノベーションへの過程にある第四の機会「構造の変化」にもつながっていた。ドラッカーは、構造の変化を用いることには以下のメリットがあると唱えていた。

産業の外にいる者に例外的ともいうべき機会を与える。ところが、産業の内にいる者には同じ変化が脅威と映る。したがって、イノベーションを行う外部のものは、さしたるリスクを冒すことなく、急速に大きな勢力を得ることができる。

 しかし、彼女たちの熱意に関心を示したものの、文乃は思うところがあり監督の要請を断ってしまうが、代わりに甲子園へ出場した際に母校の程久保高校でキャプテンを務めていた正義を紹介した。

「認識」を変えれば異なる視点からの発見が生まれる

 マネージャー陣の努力で大会へ出場するまでになった浅川学園高校野球部。ある日、マネジメントチームのリーダーとなった夢は、野球戦略担当マネージャーの智明からピッチングマシン購入を提案された。

 智明にはねらいがあった。彼が注目したのは、プロ野球の「最優秀防御率」がここ10年ほどで「二点台」から「一点台」に下がっていたことだった。さらに彼は、プロ野球で防御率上位に位置する選手たちがスプリットやチェンジアップを駆使する「変化球の名手」であると分析していた。

 智明の考えに耳を傾けていた夢は、彼からの提案がドラッカーの提示した第七の機会「新しい知識の出現」だと気が付いた。新しい知識の活用について、ドラッカーは自著で「発見発明という新しい知識に基づくイノベーションは、いわば企業家精神のスーパースターである。たちまち有名になる。金にもなる。これが一般的にイノベーションといわれているものである」と述べていた。

 しかし、智明は第六の機会「認識の変化」をヒントにしたと話す。これについて、ドラッカーはかつて「コップに『半分入っている』と『半分空である』は、量的には同じである。だが、意味はまったく違う。とるべき行動も違う。世の中の認識が『半分入っている』から『半分空である』に変わるとき、イノベーションの機会が生まれる」と唱えていた。

 ピッチングマシンは本来、打者育成のために使われるのが一般的だ。しかし、智明は発想の転換を図り、ピッチャーが変化球を研究するためにピッチングマシンを導入しようと考えていた。そのアイデアを聞いた夢は「なるほど、面白い!」と賛成する。

 浅川学園高校野球部のサクセスストーリーは、けっして非現実的なことではない。誰しもイノベーションを起こせる可能性を持っている。ドラッカーは、私たちにそう教えてくれるのだ。

文=カネコシュウヘイ

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