AV女優本から徹底分析! なぜ、AV女優は大衆化したの?【後編】

更新日:2014/12/10

 

  

 【前編】ではAV女優本を「How to系」、「業界裏話系」に分類し、広く注目を集めつつあるAV業界の変遷について考察した。本稿ではさらに「外から分析系」「自分切り売り系」の関連本を読み解きながら“大衆化”したAV女優という職業について掘り下げたい。

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「外から分析系」。実際AV業界はどの程度、健全化したのか?

■書き手の興味を惹きつけるAV業界という特殊な世界

 ベールに包まれたAV業界は、今も昔もライターの関心の的だ。「パンツの色は?」などというお決まりの質問は古び、そもそもなぜ女性たちが「AV女優を目指すことになったのか」について関心を抱くようになる。ルポライター永沢光雄著『AV女優』は、1990年代に活躍した42人のAV女優へのインタビューをまとめている。

 養父に犯された少女もいれば、音大生から転身したお嬢さまもいるが、全体的には劣悪な家庭環境で育った人物が多い。いのうえせつこ氏も2002年に『AV産業』の中で、AV業界の実態について実際に撮影現場に潜入して分析を試み、女性を差別にしている現状を批判した。

 しかし、AV業界は次第に変化せざるを得なくなる。そのことに、インターネットの存在が強く影響しているのは明らかだろう。2006年『エロの敵 今、アダルトメディアに起こりつつあること 』の中で安田理央氏と雨宮まみ氏は「エロが、蛇口をひねれば出る水のような、ありふれた状況」が、AV業界をはじめとするアダルト業界を苦境に陥れていることを指摘している。

インターネットの出現によってエロは無料で提供されてしかるべき、という認識が定着してしまった。そのため、エロにお金を出す人が減少し、趣向も多様化しているため採算がとれなくなってきている。にも関わらず、求められるのは高いクオリティー。制作者は八方ふさがりの状況に追い詰められた。

■供給過多でギャラが下がり続ける“セクシー女優”の実態

 この現状は中村淳彦著『職業としてのAV女優』の中でさらに詳しく解説されている。本格的にAV女優の応募者が増したきっかけは、パソコンや携帯からアクセスできる『てぃんくる』など水商売系の求人媒体の創刊や、モデルプロダクションの女優募集サイトの開設などだ。かつては暴力性を秘め、危険な一面があったプロダクションは一般女性を獲得するために体質改善を行い、一般企業化を目指した。

 たとえば、AV撮影は法律的にはグレーな部分も多く、一歩間違えると、公然わいせつ罪や強姦罪に抵触する恐れがある。数年間の試行錯誤から現在では、王手から中小プロダクションまでコンプライアンスを守ろうという意識が浸透しているという。AV女優たちは口を揃えて、「先入観とはまったく違う安全な世界だった」と語る。

 以前は、多額の借金を抱えたり、精神的に問題を抱えている女性が多かったが、現在では、「好奇心から」「刺激を求めて」応募したり、田舎から上京し、生活費に苦しむ女性が小遣い稼ぎとして軽い気持ちで「パーツモデル」に応募して、AV出演へと繋がることもあるという。安い場合は日当3万円。決して景気の良い業界ではないが、人気は右肩あがり。業界が女性の働きやすい環境を目指したために、応募者は飽和状態となり、結果、女性たちの給与が下がっている現状があるほどだ。

 なお、2007年にはキス我慢選手権などで人気を集めたテレビ東京系『ゴッドタン』のレギュラー放送が開始し、番組から“セクシー女優”という造語が生まれた。AV女優が地上波で一世を風靡しているという現実が、ここまで述べてきた傾向に拍車をかけたことは否定できないだろう。

 
【本の紹介】

永沢光雄『AV女優』(1999年)

1991年から96年にかけて行われた、AV業界で働く少女たちへのインタビュー集。

いのうえせつこ『AV産業』(2002年)

AVを一つの産業としてとらえ、その社会的な影響について考察しているルポルタージュ。

中村淳彦『職業としてのAV女優』(2012年)

映画化もされた『名前のない女たち』の著者がAV女優という職業のリアルに迫った“職業案内”。

 

「自分切り売り系」。自分のことを語りたがるAV女優たち

■フツーっぽい女の子ほど、あっけらかんと自分をさらす

 AV女優たちは、自ら進んで、自分がなぜAV女優になったのかを語りたがる傾向にある。鈴木涼美著『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』では、その秘密に迫ろうとする。彼女の分析によれば、AV女優たちは、自分を売り込む必要性から、自らの物語を語るうちに、それを信じ込み、思い込むようになっているという。

 すると、たとえば「セックスが好きで仕方なくて、そしてそれが上手になりたくてこの仕事をはじめた」という物語を何度も語っているうちに、それが本当の動機のように思え、AV女優という仕事に取り組む上での支えとなるらしい。本書には触れられていないが、日経新聞記者であった彼女自身も元・AV女優であるのだから、この分析すらも、自己語りそのもの。その論は、AV女優自身が見出した解なのだ。

 AV女優の「自分切り売り系」の書籍は、時代が進むにつれて人気度の高いコンテンツとなったが、当初は、自身がおかれた環境の悲惨さを描いた作品が多く見られていた。たとえば、原紗央莉著本名、加藤まい ~私がAV女優になった理由では、2009年のAVデビュー作が驚異の10万本セールスを記録した人気絶頂の原が実名を告白し、生い立ちから家族、セックスの話まで、AV業界のタブーを破って自身の壮絶な半生を赤裸々に綴っている。アイドルを目指して田舎から上京するも仕事に恵まれずに、AV女優となった原のエピソードには悲壮感が漂っている。

 しかし、次第に、AV女優の仕事をあっけらかんと明るく語る女性たちが多く現れはじめる。その代表といえるのが『ぶっちゃけ蒼井そら』を上梓した蒼井そら。彼女は、普通の家庭で普通に育ち、高校卒業後は短大に通い保育士の資格を取得したフツーの女性だ。AVによって、世の中を知り、礼儀も知ったという彼女の文は明るい。AVという仕事に誇りをもって取り組んでいることが印象付けられる。

■多様化する自分語りが生んだスター作家・峰なゆか

 一方で、壮絶な日々を送りながらも明るく自らを語る作品もある。卯月妙子著『実録企画モノ』では、夫の会社が倒産後、借金返済のためにホステスやストリップ嬢、排泄物や嘔吐物、ミミズを食べるなどの過激なAV女優となった経験をコミカルに描いている。おまけにその後、夫は自殺、幼少の頃から悩まされていた統合失調症が悪化した卯月は、自傷行為や殺人欲求などの症状のため入退院を繰り返しながらも、女優として舞台などで活動を続けたというのだから、驚かされる。はたから見ると、とてつもなく荒れた生活だが、作品に悲壮感はない。

 このように、自らの人生を語るだけに留まらず、彼女たちは、AV女優としての生活も明らかにしていく。その代表例は、「みんなが気になるAVのすべてをこの一冊にまとめました!だからもう二度と私に質問するな!めんどくせーから!!」ということでまとめられた峰なゆかの『セクシー女優ちゃん ギリギリモザイク』。『アラサーちゃん』で大人気の峰がAV業界の裏側を読者にすべて暴露する漫画である。ギャラやAVの撮影方法、スカウトされやすい場所など、業界の裏をこれまで挙げた作品の比ではないほど明らかにしており、「ここまで見せて大丈夫なのか?」と思わされる。

 元々、「女優」として自己表現をしている彼女たちであるから、自らの経験について語りたくなるのは当然の流れかもしれない。倍率の高いAV業界で活躍した彼女たちの才能が文章や漫画で開花するのも驚くべきことではないだろう。だが、時代が進むにつれ彼女たちは、益々自分の思いをあっけらかんと語っていることがわかる。時代を追うごとに書かれる内容がより開放的になっている。AV業界がよりオープンな場となってきていることの表れともいえるのかもしれない。

 
【本の紹介】

原紗央莉『本名、加藤まい ~私がAV女優になった理由』(2009年)

当時人気絶頂のAV女優が本名を公開。上京してからの漂流人生について綴ったインパクトある一冊。

蒼井そら『ぶっちゃけ蒼井そら』(2009年)

業界のイメージを覆す悲壮感なき自伝。フツーの女の子が人気女優の地位を確立するまでの道のりとは。

鈴木涼美『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』(2013年)

慶應SFC、東大大学院を修了した元AV女優が、自身の経験も踏まえ分析的に業界を考察。

 

【結論】どうしてAV女優は大衆化したのか

 以上からどうして、AV女優が大衆化したのかを再び考えてみると、複雑なAV業界を取り囲む世の中の様子が見えてくる。
・『女医が教える本当は気持ちいいセックス』や『an・an』のセックス特集など。女性が性に関心を持つこと自体にオープンな流れが生まれる
・セクシー女優という造語の誕生、『ゴッドタン』『おねだりマスカット』など地上波への進出
・インターネットの隆盛によるエロの大衆化、AV業界の情報の流布
・テレビや雑誌、書籍などで、AV業界関係者の“哲学”が明らかにされることによる女性のファンの増加
・AV業界の健全化
・AV応募者過多、倍率増大の中で才能豊かな人材の登場

 これらが複雑に絡み合い、循環を生み出して、AV業界のイメージを変えているのだろう。現在ではテレビ、雑誌にAV女優が登場することが当たり前となり、それを見る側の抵抗感も少なくなってきている(10年前には考えられないことだ)。

 彼女たちの活動の場はどこまで広がっていくのだろう。筆者自身女性であるが、今後の活動が気になるばかりだ。

文=アサトーミナミ

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