中堅出版9社合併、ドワンゴと経営統合!巨大なメディアミックス企業化を図るKADOKAWAの狙い

更新日:2015/2/28

   

 例年、学生の人気企業ランキングでも上位に複数がランクインする「出版社」。とはいえ、一般的には本離れが絶賛進行中であり、業界事情はかなり厳しいのは現実だ。
 そんな中、複数の中堅出版社や映画会社などをグループ企業化、ついにはニコニコ動画を運営するドワンゴとも経営統合、出版社から巨大メディアミックス企業へと進もうとする(株)KADOKAWAの動きは、出版業界の最前線であり、ひとつの未来の形ともいえるのかもしれない。
 というわけで出版業界の就職実態に迫りたいダヴィンチ・ニュースでは、これからの出版社を考えるためにも、(株)KADOKAWAの人事部に直撃取材。果たして未来指向型の出版業界において、必要とされるのはどんな人材なのか? 気になる本音にズバリ迫ってみた。

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変化する企業姿勢を学生側も理解

――本日は大手の中で最も積極的に変化していく出版社であるKADOKAWAに、出版業界の未来と採用を考えるべくお話をうかがいたいと思っております。よろしくお願いします!

 こちらこそ。しかしながら弊社は書籍出版以外の事業も多いので、出版社らしいお話かどうかはわかりませんが…。また、3月の解禁前ですので、具体的な今年の採用についてなどはお話できないので、実績からお話する感じになりますが、そこはお許しください。詳細は3月にオープン予定の採用ページをご覧いただければ。

――とはいえ、今年からインターンシップを始められるんですよね

 はい。現在エントリーを受付中で、実施は3月になります。開催は弊社単独ではなく、スクウェアエニックスさんと共同なんです。グループ企業ではありませんが、それぞれの作品をメディアミックスする際に、協力関係にあったり、学生の嗜好性も共通している面がありますので。どちらかの企業を入り口にしながらも、多方面の魅力を感じてもらえるとよいなと。

――なるほど。同業他社な存在とあえて組むとは面白い試みですね。KADOKAWAというと、合併を繰り返し、激しく変化していく(*)出版社というイメージがありますが、学生に向けてどう企業の目指す方向性を説明していますか?

*2013年10月の9社合併(アスキー・メディアワークス、エンターブレイン、角川学芸出版、角川書店、角川プロダクション、角川マガジンズ、中経出版、富士見書房、メディアファクトリー)を経て、2014年10月にドワンゴと経営統合。

 たしかに変化が激しいですし、利益構造が異なる事業を多く抱えていますが、働く上では最終的にどんな商品にするのかなど、あまり形に拘りすぎずに、いろんな形で作品を世に送り出そうという気持ちが大事な企業だと伝えています。事実、我々自身が変化をおそれずに新しいものを吸収していかなければいけませんし。学生さんは弊社に対して「出版社」という認識を持っていますし、我々の中にもそうした意識はあるものの、同じグループ内でも角川書店なら文芸と映画や映像、学芸出版ならば辞書、俳句、エンターブレインならゲームに強いなど、既にジャンルは多岐に渡っていますが、最終的にはエンターテインメントに関する何かを作るというのは共通しています。これからはよりお互いに試行錯誤して新しい商品やビジネスモデルを作るのがKADOKAWAなのかと考えます。

――学生側にもそうした認識は共通しているのでしょうか

先日、現在1年目の社員の振り返り研修があったのですが、彼らは入社前に「今後の業界予測は厳しい」「労働時間が長い」「不安定かもしれない」と業界イメージを持っていたにも関わらず、「それでもやってみたい」と入社したと話していました。「新しい創り方をする作家を探してみたい」「映画産業を立て直したい」などそれぞれに夢を持っていて、今の変化にキャッチアップしてがんばっていこうという意志の強さを感じますね。また、今年の春に入社予定の内定者によれば、KADOKAWAのイメージは「伝統があるけど新しい」「窓をたくさん持っている」といった感じで、割とこちらが描いている企業姿勢に共感してくれていたと思います。

いまどきの求める人材は「主体的なオタク」

――昨年からKADOKAWAオールということで、採用を一本化されたそうですね

 はい。それまではグループ企業毎にやっていましたが、昨年から一本化しました。弊社を志望してくる学生さんは、「出版希望なのでKADOKAWAを受ける」というより、「コミックをやりたい」とか「映画をやりたい」と希望をはっきり持っている印象がありましたが、そこは変わりませんでした。こちらとしても、メディアミックス型の企業だからと拡散型指向の学生だけを求めているのではありません。まずはひとつのジャンルにぐっと入っていくタイプを求めています。また、出版だからといって老舗大手3社と学生を奪い合うことは少なく、採用一本化の前はアスキー・メディアワークスに内定した学生がメディアファクトリーの最終選考に残っていたりと、同じグループ内で欲しい人材が競合したこともあったくらいです(笑)。他の出版社とは少し違うみたいですね。

――今後はさらにドワンゴを志望してくる学生もいると思います。出版とは違う世界になりますが、ふさわしい人材を選ぶ難しさはありそうですか?

 たしかに、「本を全く読まない」という学生が志望してくる可能性はありますね。やはり出版社としては、「本」は読んでほしいところですが(苦笑)。ただ求める人材像については、既に進化していますので、あまり変わらないと思いますし、今までのような選考手法でも十分活躍できると思っています。実際、 今の内定者たちもニコニコ動画を見たり自分でも動画をアップしたりと、濃いユーザーとして楽しんでいるようです。また、選考途中で聞いた彼らの新規事業提案では、必ず書籍を紙以外のメディアとセットした企画でした。次の世代のそのような新しい業態への切り替えの早さに期待もしています。かつ、無料ではなくいかにマネタイズしていくかが肝なので、面白さのコアへの理解とマネタイズ、両方に意識のある子がほしいというのはありますね。

――ぶっちゃけ、「オタク」な志願者も増えていきそうな予感がしますが

はい。今も多いですよ。こちらも求めていますし(笑)。

――やはりそうでしたか。しかし、採用される「オタク」と採用されない「オタク」の違いは何ですか?

 たとえばオタク的な楽しみ方もただ「漫然と好き」というのではなく、自分なり「好き」という軸があると、新たなジャンルに対しても強いのではないかと思います。また、こういうものを作りたいという思いを自分の外に広く伝えていかないと実現できませんから、その「好き」の軸だけでなく、コミュニケーション能力と行動力が違うのかもしれませんね。

――オタクというと、深い知識を競い合う面もありますが、そのあたりは就職に関係あるんでしょうか?

 ありますね。深い知識があったほうが、当然、面接官とも話が弾みます。実際、面接官自体が相当深い知識を持っているので、生半可な知識だと太刀打ちできないですから。もちろん勝つ必要はないですが(笑)、知識をひけらかすのではなく、自然体で自分の言葉で盛り上がれば一緒に働きたい気持ちは高まりますね。

――つまりオタクも武器になるわけですね!

はい。オタクの極め方も主体的に極めているかによって全然違います。我々はミーハーな人材より欲しいのはコア人材ですから、むしろ何かしらオタクじゃないと困るんですよ。

配属はどうなる?気になる入社後のハナシ

――出版希望というと「編集職」の人気が高い印象がありますが、実際の配属はどうですか?

 2014年度には15名入社(男女比はたまたま4:6。例年はほぼ半々)しましたが、いわゆる書籍編集職への配属は半分くらいですね。編集希望者でも、まずはマーケットに近い宣伝、営業、商品開発に配属される場合もあります。その時の事業の状況と本人とのマッチング次第ですね。ライトノベルの原作をベースにしたキャラクターグッズ開発や、イベントプロモーションといったように、なるべく若いうちに編集の周辺のマーケットに近いところを体験させたいという思いもあります。ただ、弊社の場合は、そこまで志望者が書籍編集に拘ることもなく、映画やアニメ事業など志望がばらけている印象はありますね。

――人材育成としてどんなことをされていますか?

 現在はまだ固定化されている体制ではありませんが、2014年度は書店での店舗研修や、制作や印刷、流通の現場での研修を受けてもらい、6月から配属となりました。その後、半年ほどたってから振り返り研修を実施し、入社時の長期的な目標を再確認しつつ、同期から相互に刺激を受けて、今直面している目標をよりステップアップしてもらうのが狙いです。今後はよりスキルを向上させるための研修も計画したいとは思っています。

――部門によりカラーも違いますから、統一研修も難しそうですね

 そうですね。たとえば商品もマーケットもターゲットが若い部門では即戦力になってほしいですが、一方で新書や文芸になるとじっくり育てたいというのもあります。また、経済的な規模にしても、書籍と映画ではかなり異なりますので、新入社員として任せられる範囲にも差があります。ただ、最初のうちは学ぶ機会を平等に与えたいと思いますし、早めに成功体験を持ってほしいと考えています。まずは何でもやってみることから始まって、段々にスキルをあげていく。人事部は、研修なりでフォローするという形ですね。早く自分でやりたい! と現場に飛び込んでいく学生を採用することも多いですね。

 

 KADOKAWAのような、萌え領域をカバーしたエンタメ性でメディアミックスを追求する出版社では、「オタクが武器になる!」は大きな発見だ。さらに人事部からは「最近は面接の練習をたくさんしてくる学生が多いので、自分を作りすぎてしまい本音が聞けないのではないかと思うことがあります。定型文のようなキレイな受け答えをしようとせず、大いにオタクを語ってほしい!」とのこと。自分の棚卸しをして、自分らしさに自覚的になっておいたほうがよさそうだ。

 さて、次回は社長・副社長以外のメンバーは全員フリーランスという異色の出版社である(株)星海社を直撃。会社規模にとらわれない、いまどきの出版業界の裾野の広さを探っていきます。乞うご期待!

取材・文=荒井理恵

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