華やか? 泥臭い? マンガ・小説から探る、出版のせかい【後編】

マンガ家

2015/2/27

   

 【前編】では、出版業界の就活の実態、辞書や小説、雑誌の編集の仕事について紹介した。【後編】では、特に漫画を取りまく仕事やそのやりがいに迫りたい。

描き手になるのも難しい…恩師に支えられた日々を綴った東村アキコのデビュー秘話

かくかくしかじか』(東村アキコ/新潮社)

 出版業界を目指すといっても、実は「編集者ではなく、描き手になりたい!」という者も多いかもしれない。描き手になるのは、編集者になる以上に倍率の高い世界だ。『かくかくしかじか』は『ママはテンパリスト』や『海月姫』などの著作で知られる東村アキコ氏が漫画家になった経緯を描いた自伝的漫画。宮崎でのびのび育ち、自らを絵の天才だと思い込んでいた日々を赤裸々に描き出している。

 主人公・明子は、美大受験のために日高絵画教室に入るが、ジャージ姿に竹刀を持った強面の日高健三先生のスパルタに打ちのめされる。「何も見んでも完璧に描けるようになるまで描くんじゃ!」。足掛け8年通った日高先生の教室は、厳しくも温かい。だが、明子は、漫画家を目指していることをなかなか日高先生に伝えることができない。漫画家を目指した日々を振り返って、東村氏はこんな言葉を書き綴っている。

 「私は、これを読んでいる若人達に声を大にして言いたい!人は!もうどうにもなく疲れた状態の時こそ!ストレスで極限まで追い詰められて肉体的にも精神的にも追い詰められた時にこそ!夢への第一歩を踏み出す事が出来るんだ!」。並大抵の努力や覚悟では、夢を実現することはできない。「漫画家として生きる」という強い決意と、一番感謝を伝えたい相手への思いがこの作品には溢れている。

編集者を支えに頂点を目指す…漫画雑誌の世界を赤裸々に描いた『バクマン。』

バクマン。』(大場つぐみ:著、小畑 健 :イラスト/集英社)

 運良く描き手としてデビューできたとしても、それからが本当の勝負だ。原作・大場つぐみ、作画・小畑健による『バクマン。』は、漫画家の叔父を持つ真城最高と、優等生で作家志望の高木秋人が2人で合作漫画を書き、『ジャンプ』の連載を持つようになる物語。この作品は、漫画業界に身を置く者たちの厳しい現実を赤裸々に描いている。たとえば、漫画雑誌では読者アンケートの結果を元に、人気の低下した作品はすぐに連載終了となる。同世代のライバルに負け、連載終了が言い渡させることだってあり得るのだ。

 そんな厳しい世界で大きな支えとなるのが、編集者の存在だ。最高と秋人の最初の担当となった編集者・服部哲は、早くから彼らの才能を見抜き、親身にアドバイスを送る。時にはシビアな意見もいうが、服部は常に2人の味方。高校生の彼らに連載を任せられるかが社内で問題になった時には、編集長相手にそれをどうにか認めさせようと躍起になるし、2人が探偵モノを書こうとした時には、資料として段ボール6箱もの書籍やDVDを用意した。最高たちが読者アンケートで1位を獲得した時には、「デパートで鯛と赤飯買ってた」という服部を見ていると、作品は作者だけが作るものではなく、編集者など、周りの支えがあって作られるものであることが分かる。

作家は周りに振り回される?!爆笑ギャグ漫画『明日にはあがります。』

明日にはあがります。』(水口尚樹/小学館)

 『バクマン。』からもわかるように、編集者の仕事は、作家の良さを引き出し、より良い作品を作る手助けをすることだ。作家はよくも悪くも周りの人間に左右されやすい。それをサポートし、良い方向へ導く舵取りが必要となるのである。だが、水口尚樹氏著のギャグ漫画『明日にはあがります。』に登場する編集者は異色の存在だ。

 主人公は、『ときめき堕天使モモカ』を連載中の漫画家・小光栗夫。「真の作家は己の作品のキャラクターと会話することができる」といわれるが、彼も自身が生み出した漫画のキャラクター「モモカ」と会話できるという特殊な能力を持っている。だが、才能ある小光も、編集者に振り回されてばかりいる。たとえば、小光の作品は萌え系漫画なのに、以前は雑誌『月刊大阪ホステス』を担当していた編集者は、次回は大人の男女の情愛を描くべきだという。ここまでズレた編集者は現実世界にはいないだろうが、編集者には担当ごとにそれぞれのスタイルがあることを痛感させられる。もしかしたら、水口氏の周りにも、モデルとなったユニークな人がいるのかもしれない。

利益ばかり追求する出版社に喝!元プロボクサーの編集への情熱

編集王』(土田世紀/小学館)

 書籍は、編集者の情熱によって出来るといっても決して過言ではない。しかし、出版社とて一企業に過ぎないのだから、当然、利益は追求しなくてはならない。土田世紀氏著の『編集王』では、元プロボクサーの新人編集者・桃井環八が漫画編集をめぐる業界の裏側を暴き出す。

 人気コミック誌「週刊ヤングシャウト」の編集者となった桃井は最初の仕事として巨匠漫画家のマンボ好塚の原稿を受け取りに行く。しかし、その原稿の質は素人同然の桃井から見ても低かった。出版社にとって漫画が売れるか否かは大きな賭けだ。人気に左右されず固定ファンに売ることができる巨匠漫画家は企業にとっては安定株。それに甘んじてしまう編集者もいるのかもしれない。

 だが、桃井はプロボクサーとして戦い抜いたリンクに出版の仕事を重ね合わせ、良い作品を生み出すために奮闘し続ける。ケンカ腰でマンボ好塚のマネージャーの家に上がり込み、熱心に心を解きほぐしていく。誰だって最初は情熱を持って仕事をしていたはずだ。しかし、気が付けば、馴れ合いになることもある。本当に良いものを作り上げることで利益を生み出そうとすること。描き手に時には喝を入れ、その心に寄り添うこと。桃井の情熱は、編集者ならば、誰もが忘れてはならないものだろう。

 

 「出版業界」には、さまざまな仕事がある。編集者と一口にいっても、小説、漫画、雑誌など、それぞれが担当するものによって、仕事内容は変わってくるし、取りまく仲間のカラーも変わる。どの職場だって、苦労は堪えないし、絶えず締め切りに追われるような生活だ。だが、自分が考えた企画や自分が目をかけていた作家の作品が形になった時、これ以上の喜びはない。プライベートを犠牲にしても良いと思えてしまう。一度この快感を味わってしまうと抜け出せなくなってしまうのではないだろうか。その覚悟があるならば、ぜひ足を踏み入れてみてはいかがだろう。紹介した作品の登場人物たちのように、否が応でも、刺激的な毎日を送ることになりそうだ。

 

文=アサトーミナミ

特集「出版業界就職事情」の関連記事
出版志望者必見!『就職四季報』編集長が語る、2016年の就活戦線
華やか? 泥臭い? マンガ・小説から探る、出版のせかい【前編】