現代の闇と光をあぶり出し 今を生きる全ての人にエールを贈る。『ソロモンの偽証』の宮部みゆき最新作『過ぎ去りし王国の城』

2015/5/7

 ベストセラー作家・宮部みゆきさんの最新作『過ぎ去りし王国の城』が発売された。『怪』に8回にわたって連載された冒険ファンタジーで、この春映画化された長編ミステリー『ソロモンの偽証』同様、主人公は中学生。スクールカーストやネグレクトなど、現在、思春期の少年少女たちの多くが直面している問題を扱い、厳しい現実に翻弄されながらも、必死に生きようとする人々を描いている。

 

 カバーデザインも印象的だ。人気のない教室。ひややかささえ感じられる黒板に、細部まで丁寧にチョークで描かれた古城のイラスト――。あまり幸せとはいえない学生生活を送っていた、主人公の真や珠美は、偶然拾った古城のデッサンの中を冒険するうちに、他人との絆や強さを手に入れ、現実と向き合って生きていく覚悟を決める。「教室の黒板に描かれた絵」はまさに、本作の世界観を端的に表しているといえるだろう。

 なお、イラストを描いたのは、「黒板アート」で一躍時の人となったれなれなさんだ。

れなれな●黒板に描いた『アナと雪の女王』の絵があまりにも凄いとSNSで話題になり、テレビ番組『月曜から夜ふかし』にて取り上げられる。そしてさらに評判は広がり、今や売れっ子アーティストとしてオファー殺到中。

 れなれなさんは語る。

「この本の表紙を手がけるにあたり、一番大切にしたかったのは宮部みゆき先生の思い描くものに限りなく近づけたいということでした。本を読んでいくとお城の雰囲気やまわりの空気感などが描写されていて、すごく情景がイメージしやすかったんです。まずはその印象を、そしてその絵の中にぐっと引き込まれていく感覚を、初めて表紙を見る人に伝えられるように努力しました。本を読み終えた後もう一度表紙を見ると、“重み”や“優しさ”が増し、いろいろな面が見えて面白い……そう感じていただけたらとても嬉しく思います」

 真たちは、古城のデッサンに手を触れることで、絵の世界にアクセスする。同様に、本作を手にした読者も、作品中のデッサンを具現化したかのようなこのカバーイラストに導かれ、一気に作品世界へ引き込まれるはずだ。

文=村本篤信 イラスト=れなれな 写真=帆刈一哉

 
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宮部みゆき
みやべ・みゆき●1960年東京生まれ。東京都立墨田川高校卒業。法律事務所等に勤務の後、87年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビュー。92年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞長編部門、『本所深川ふしぎ草紙』で吉川英治文学新人賞、93年『火車』で山本周五郎賞、97年『蒲生邸事件』で日本SF大賞、99年『理由』で直木賞、2001年『模倣犯』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。02年司馬遼太郎賞と芸術選奨文部科学大臣賞文学部門、07年『名もなき毒』で吉川英治文学賞、08年英訳版『BRAVE STORY』でThe Batchelder Award を受賞。近著に『ソロモンの偽証』『桜ほうさら』『泣き童子 三島屋変調百物語参之続』『ペテロの葬列』『荒神』『悲嘆の門』。
 

紙『過ぎ去りし王国の城』

宮部みゆき KADOKAWA 1600円(税別)

尾垣真は中学3年のある日、ひょんなことから中世ヨーロッパの古城のデッサンを手に入れる。やがて、絵の中にアバター(分身)を描くことで、自分もその世界に入り込めることがわかり、隣のクラスのハブられ女子で美術部員の珠美にアバターを依頼。冒険するうち、城の塔の中に、一人の少女が閉じ込められているのを発見する。それが10年前のとある失踪事件に関係していることを知った真は、珠美や探索仲間のパクさんとともに、少女を救出しようとするが――。