【総論】「オカルトは哲学」 三上丈晴『ムー』編集長インタビュー

公開日:2015/4/29

 いつからだろう、わたしたちがUFOや心霊写真に心の底からドキドキできなくなったのは。

 いつからだろう、オカルトに関するあれこれがネットニュースで目にする「面白ネタ」でしかなくなったのは。

 UFO、心霊、UMA、超能力、超古代文明――。一般にオカルトと呼ばれるこれらの事象は、エンターテインメントの一ジャンルとして、現代の日本で広く受け入れられている。しかしその一方で、ちゃんとした大人が真剣に語ってはいけないもの、という空気が漂っているのもがまた事実だ。

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なぜなのだろう。所詮オカルトはインチキで、子供だましに過ぎないのだろうか。そんな疑問を胸に、老舗オカルト誌『ムー』編集長・三上丈晴さんを訪ねた。

『ムー』はオカルト雑誌じゃなかった!?

 インタビュー冒頭、三上編集長の口から「『ムー』はオカルト雑誌ではありません」という驚きの一言が飛び出した。日本のオカルトシーンを35年以上にわたって牽引してきた『ムー』が、オカルト雑誌じゃなかった? じゃあ、いったいオカルトって何なのだろうか。

「そもそもオカルトはドイツ語で『覆い隠されたもの』を意味する言葉です。神はいるのか、魂はあるのか、死んだらどうなるのか、といった世界の根本的な問いを探求するのがオカルティズム。たとえば古代ギリシャの哲学がそうです」(三上さん)

 つまり、本来の定義でいうならは『ムー』はオカルト専門誌ではない、ということだ。では、わたしたちが一般にオカルトと呼んでいる宇宙人やスプーン曲げやネッシーはなんと総称したらいいのだろうか。

「実はうまい日本語がないんです。『ムー』では苦し紛れに『ムー的な』という呼び方をしています。最近は『都市伝説』と呼ばれたりもしていますが、しっくり来ませんよね。ネッシーやツチノコはさすがに都市伝説じゃないだろう、という気がする」

 本特集ではとりあえず通例にしたがい、三上さんの言う「ムー的」なものを、オカルトと呼ばせてもらうことにしよう。

月刊『ムー』5月号(学研)

『ムー』最新号の目次には「古代エジプト文明が解く日本神道の謎」「UFO着陸事件と幻の文明島ハイブラシル」「名古屋にチュパカブラが出現!!」「若返りの秘薬NMN」「最新ピラミッド・パワー活用法」などの記事が並んでいる。

 神道とUFOとチュパカブラ……。冷静に考えてみると何のつながりもないテーマが、しっかりと共存してしまえるのが、オカルトというジャンルの面白いところだ。

「共通しているのは全部あやしい(笑)。それと何らかの形で、根本的な問いを含んでいるものが多いですよね。宇宙人について考えることは、そのまま人間とは何なのか、世界とは何なのかという問いにつながるし、心霊現象は魂の永続性に深く関わっている。さっきオカルト雑誌じゃないと言いましたが、根底にはやっぱり哲学があるんですよ」

節操がないと怒られて

 創刊以来、『ムー』が紹介してきた仮説は数知れない。当然、その中には互いに矛盾し合うものもある。

「節操がないと怒られるんですよ。先月号では『UFOに乗っているのは宇宙人だった!』と書いていたのに、今月号を読むと『未来人だった!』と書いてある。次の号を見ると『地底人だった!』とあって、おかしいじゃないか、と(笑)。しかし『ムー』はオピニオン雑誌ではありません。様々な仮説を紹介する媒体であって、編集部独自の見解というのは載せていないんです」

 といっても、『ムー』編集部が醒めた立場でオカルトに接しているわけではない。

「基本的にはマニア誌ですから、広く浅くやってもしょうがない。ひたむきにあやしく、本気で取り組む。この手のものは作り手側が醒めていると、読者もとたんにしらけちゃいますから。“ウソだろ!?”というような目次が並んでいる分、ちゃんと説得力のある記事を載せないと、というのもありますね」

ロウソクの炎が丸く見える

 存在が証明されていないものを扱うオカルトは、否定やバッシングに常にさらされてきた。非科学、非合理、いかがわしい。そんなオカルト否定派の意見に、『ムー』はどう応えるのか。

「たとえばUFOと一口にいっても、多くの現象の集合なんです。大槻義彦教授はUFOの正体をプラズマだと解明した。それは素晴らしい発見だと思う。でも、あくまでUFO現象の一部を解き明かしただけであって、全体の説明にはなっていないんです。少ないサンプルを取り出して、嘘だ、インチキだと全体を否定するのは乱暴だなと思いますね」

 さらに三上さんは、未知の現象に対してオープンな姿勢を取らない人に苦言を呈する。

「科学的じゃないと言うけど、果たして本当に先端科学を理解している人がどれだけいるのか。いないでしょ? 大学教授にだって分からないことが、世の中にはいっぱいあるんですよ。つい先日、恐竜のブロントサウルスという名称が復活しましたよね。それまでは“ブロントサウルスなんていないんだよ、アパトサウルスと同じなんだから”と学者は得意げに言ってた。定説とか常識って、簡単にひっくり返るものなんです」

 世の中は、眺める角度によって姿を変えることもある。三上さんはこんな例をあげてくれた。

「ある霊能者の方は、ロウソクの炎が丸く見えるっておっしゃってました。つまり通常肉眼ではとらえられない赤外線領域を、その方は見ているんですよ。わたしたちは誰しも見えている世界が違う。自分に見えないから存在しない、というのは言いがかりに近いですね」

政治家も『ムー』を読んでいた!?

『ムー』の記事は、そんな定説や常識にあきたらない人たちの受け皿になっているのではないか、と三上さんは言う。では『ムー』の読者とは具体的にどんな人たちなのだろう。

「UFOの正体はこれだとか、一家言ある方が多いですね。書かれたことを全部を受け入れるわけじゃなく、“こいつ分かってねえなあ”と苦笑しながら読んでるところもあると思う。それから、政治家や企業の社長もよく読んでいますよ」

 さらりととんでもない話が飛び出した。日本を動かすトップリーダーが、『ムー』からどんな情報を得ようというのだろう。

「他誌だと危なくて載せられないようなネタも、『ムー』なら載せることができるんです。周りに話したとしても“なんだ、『ムー」か”と半信半疑。でも、ある立場にいる人たちが読むと、何のことかちゃんと分かるようになっています。政治家がバックに超能力者や占い師を抱えているのは、よく知られた話ですしね」

 政治家と超能力者。思わず「マジですか!?」と言いたくなってしまう内容である。三上さんは他にも、「現首相のバックにいるという高僧」「進化論は間違っているかもしれない」「地球の重力は変化した」といったあやしい話を披露してくれたのだが……。

「まあ、偉そうなこと言ったって、結局飲み屋のネタみたいな話ですから(笑)。『ムー』の立場は基本的にエンターテインメント。色んな説が載っているのを楽しんでもらえればいい。世の中を斜めから眺める思考訓練にもなると思うんですよ」

 大人になった私たちはもはや、子供時代のように無邪気にオカルトを受け入れることはできないかもしれない。しかし、大人は大人なりに、世界を斜めに眺めることができるはず。本特集を通して、オカルトとの新しい付き合い方を探ってもらえたら幸いだ。

取材・文=朝宮運河