BLで大注目の大型新人! デビュー作『知ってるよ。』から人気騒然のひなこ氏を直撃!

更新日:2017/4/10

▲『Blue Lust

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 BLにもこんな時代が来たか……。ひなこ氏の作品を初めて読むとその世界に衝撃を受けるだろう。絵柄はまるで少女マンガのような今どきの美しい画面だ。けれども作品の中身は濃く深く“本格的”なBLの風味も味わえる。他にはない独特の世界に今、トリコになる人が続出している。このような唯一無二の作品を生み出す秘訣とはなにか。今回、ひなこ氏に直撃してみることに!

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少女マンガ好きが受けた中2ショック!

 友人が同性愛であることを、クラスに広めた主人公。高校に進学し、自分の過去を悔いる彼の前に、ゲイの同級生が現れる。シリアスタッチで描く『Blue Lust』(フロンティアワークス)。一方で、転校生を拉致し、突然のエッチをおっぱじめる、コミカルな『何かいいの見つけた!』(大洋図書)。この他にも、社会人SMもの、さわやかなBLものなど、ひなこ氏の作品は、バリエーションに富む。まず知りたいのは、いったいどのような作品に影響を受けてきたのか。

ひなこ「もともと少女マンガが大好きで、少女マンガ家になりたかったんです。種村有菜先生の作品など、『りぼん』の漫画に影響を受けました」

 そう自身のマンガ歴を振り返る。白いブラウスにフンワリとしたスカート姿。自らが描く作品に出てきそうなかわいらしさを持ちながらも、はきはきと答えるひなこ氏。リア充そうな人生に、変化が起きたのは中学2年生のころだという。

ひなこ「教室のうしろで、マンガを読んでいる子がいたんですよ。“何読んでるの?”ってのぞき込んだら……。男の人が束縛されてM字開脚して、バイブが突っ込んであるページを丁度開いていたんです! 衝撃的でしたね。ずっと頭のなかをその絵がグルグル回って忘れられなくて…。その絵を見た2、3日後には、BLの小説を手に入れてました。そこからマンガにまで手を広げ、ズルズルとこの世界にはまってしまいした」(ひなこ氏、以下同)

好きな属性は、ヤンデレや執着系

 刺激的な世界にショックを受けつつも、順応していったという、ひなこ氏。当初抱いていた少女マンガという道を反れ、BLマンガ家になることを決意したそうだ。決意を表すかのように、作品づくりには妥協がない。自身の好きな少女マンガテイストの絵柄。さらに、BLには不可欠な“肌色”シーンもしっかりと描きつつ、読み応えのあるストーリーを練っている。

イノセントラブ』(幻冬舎)では、純真無垢な少年に、性的な行為を教える近所のお兄さんが登場する。善良そうな表の顔と無知につけ込むギャップは、恐ろしくもありリアリティを与える設定だ。描かれる世界は、倒錯的でもあるが、幸せそうでもある。

 また、『自分勝手。』(ふゅーじょんぷろだくと)では、自分が好きな相手に彼女ができる度に邪魔をする男を描く。コミカルに描いてあるが、良く考えるととても悪意や狡猾さが感じられる登場人物もひなこ氏の作品の特徴だ。

ひなこ「メリーバッドエンドってやつです。完全なハッピーエンドではないけれど、登場人物のふたりは幸せ。たとえ周囲から見たらおかしな関係だとしても。私が描きたいのは、そんな世界です。好きな属性は、ヤンデレや執着系です」

 いつも描きたいシーンを着想し、ストーリーを膨らませるという。描きたいシーンもどこかに毒がある。

ひなこ「『自分勝手。』で描きたかったのは、股間をゲームのリモコンで殴打するシーンですね。描きたいものはたくさんあるのですが、私の希望は、商業誌的に難しいものが多いんです」

 兄弟同士、愛がない身体だけの関係……。ひなこ氏が描きたいという設定だけなら、BLではありえる。だが、出版社が尻ごみしてしまうアイディアとはいったいどのようなものだろうか……。

こだわりは、「ほぐす指」!

 描きたいシーンは、もちろん肌色シーンから着想することもある。

ひなこ「やっぱりBLを読む人は、そのシーンを読みたいと思うので、力を入れて描きますね。BLにおいてはエッチが終着点ではないかと。登場人物のふたりの関係性が最終的にはエッチにも現れると思うので」

 物語のなかの関係性は、肌色シーンにも無関係ではないのだ。BLや成人向けマンガなど、いわゆるセクシャルな表現を目的とした作品は多い。けれど、質の善し悪しを決めるのは、性的シーンの必然性だろう。しかし、ただエッチなシーンを描けば作品として成立するのではない。ひなこ氏の言うように、セックスにもそれまでの物語の積み重ねが見えなければ、深みは出ない。BLというジャンルをよく見抜いて作品を作っているのだ。

 その気合いを入れて描くという、肌色シーン。どこまで気合いを入れるかというと、次のようにである。

ひなこ「私は、身体では指が好きです。なので挿入前に、指でほぐす動きには、コマを割いて描いていますね。あと舐める行為も。例えば乳首を舐めるシーンなら、ちゃんと突起に触れているように描きます。以前読者さんから“ほぐすシーンが好きです”と言われたとき、自分のこだわりが“伝わっていた!”と思い嬉しかったです」

 さらにネタを仕入れることにも熱心だ。

ひなこ「BLの小説からアイディアを得る事もそうですが。よくある男女もののAVも参考にします。興奮する体位だ!って思うと、スクリーンショットを取って保存しておきます。次のネタに使えるようにです!」

BLには新しい扉を開く力がある

 人の身体や、そのいとなみを包み隠さず描くひなこ氏。作画の線はものすごく丁寧に描かれている。なぜなら、肌色シーンは読み手に刺激だけではない影響をもたらすからと語る。

ひなこ「エッチなシーンは、最高のエンターテインメントだと思います。関係性が萌えると “たまらない!”という気持ちになりますね。どうたまらないかというと……、ずっと登場人物のことを考え続けてしまうほどでしょうか。ほほの肉が緩みっぱなしになります」

 心地よい恍惚感に長く浸っていられる。そんな作品に出会えたなら幸せだろう。だがBLを食わず嫌いしている人が多い。それはもったいない話だ。

ひなこ「タイトルが気になる、という程度でもいいので、ぜひBL作品を手に取って欲しいですね。女性だったら秘めている扉が開くかもしれません。BLは、女性が“持っているはず”の感情を前面に出せると思います。だからBLを知ると“新しい世界”が見えてきますよ。中2の私のように!」

 知らなかった新しい自分に出会える。ひなこ氏の作品はまさにそうだろう。美しいなかにも、残酷さや暴力が秘められている。そして、それが最高に心地良い。BL界の新旋風に触れてみてはどうだろうか。

取材・文=武藤徉子