プレイ中を盗撮し脅迫する客、違法行為をする嬢…風俗業界のダークな問題を送迎ドライバーが処理!『デリバリー』

マンガ

公開日:2018/7/16

『デリバリー』(usi/芳文社)

 業界によって仕事量やトラブルの多さは変わってくる。その点、性を切り売りする風俗業界のトラブルの多さは比じゃない。風俗嬢同士がケンカする、悪質な客が本番を強要する、ストーカーが風俗嬢を追い求める、風俗嬢に金銭をせびりに親やホストが入れ代わり立ち代わり……。快楽と癒しを与える究極の仕事のはずが、その裏の世界はとても人間臭くドロドロしたものだ。

『デリバリー』(usi/芳文社)はそんな世界を、デリヘル嬢の送迎ドライバー、デリドラの視点から描いた作品だ。主人公は、きれいで腕っぷしが強く、仕事ができてクールな女性、桜坂。彼女と風俗嬢と客が織り成す、生々しくも人間味あふれる世界を少しだけご紹介したい。

 風俗は、世間体が悪いため絶対に知られたくない職業だ。それを逆手に取り、彼女たちを脅す客も存在する。プレイ中の様子を撮影し、その動画を家族や会社の同僚に見せるという卑劣な脅しだ。無抵抗な風俗嬢はそれに屈して金銭を払ったり本番を受け入れたりしてしまう。

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 しかし無敵のデリドラ・桜坂は違った。異変を察知した桜坂は風俗嬢から事情を聞いて、すぐさま客のいたホテルへ乗り込む。乗り込んできたのが女性だと安心した客は調子に乗って桜坂を殴打……が、返す拳に客が吹っ飛んでしまう! 桜坂は、きれいで細身で黒髪ロングヘアーでおっぱいが大きくて、めちゃめちゃケンカの強い女性なのだ。客が戦意喪失したところで、デリヘルのいかつい店長と従業員が部屋に到着。客の免許証と携帯電話のアドレス帳を写真に収め、きっちり脅し返して一件落着となった。

 この作品の魅力は、フィクションでありながらどのストーリーにもリアリティがあることだ。強いお姉さんが悪い奴らを殴り飛ばす勧善懲悪のストーリーといってもいい。だから読んでいてスカッとする。本物の風俗嬢がこの作品を読んだら、「こんなデリドラいてほしい~」と言うかもしれない。筆者もこんな女性とお知り合いになりたいな~……。

 一方で、風俗嬢がトラブルを起こすこともある。ある日、お店に新しい女の子・わかなが入ってきた。一見すると真面目そうな彼女は入店初日から即戦力になった。それからわずか2週間で彼女の指名率が上位に食い込み、店長も喜んでいたのだが……わかなはデリヘル嬢としてやってはいけないことをしていた。ウリ、つまり客に追加のお金を払わせることで本番をしていたのだ。

 わかなのウリによってランキングが下がってしまった嬢は大激怒。彼女をはたいてしまう。そこへ止めに入ったのが桜坂だった。

 ウリは売春、つまり犯罪だ。だからウリをやった当人は捕まるし、ウリに関与していない店も潰されてしまうことがある。たった1人の軽率な行動で真面目に働くみんなが迷惑を被る。そう諭す桜坂に、「そんなこと誰も教えてくれなかった……」と涙を流すわかな。

 この業界は特殊な世界なので、こういった当たり前のことを教える機会がないのかもしれない。彼女の涙に、なんとも言えない感情がわき上がって「う~む」と唸る筆者だったが、桜坂は違った。

甘ったれるな。金をもらってサービスしてる以上、プロだろ。誰かが教えてくれるのを待つな。自分で学べ。

 とても厳しい言葉を投げかけたのだ。風俗の世界は過酷だ。自分のことくらい自分でなんとかしなくては生きていけない。そんな厳しくも優しいメッセージが光る言葉に、またも筆者は「う~む」と唸ってしまった。この言葉は一般社会で働く私たちにとっても耳が痛いはずだ。簡単には聞き流せない……。

 この作品には桜坂の格言があふれている。風俗という厳しい世界に身を置く彼女だからこそ言える、とても芯を食った言葉の数々に読んでいて背筋が伸びる。

 このあと、桜坂は眉を寄せながら電話をかけた。店をクビになったわかなに風俗のイロハを教える講習を受けさせるため、知り合いに依頼の電話をかけたのだ。

 桜坂はとてもクールで辛口な女性だが、同時に正義感と思いやりにあふれている。だからきっとこの作品を読んだ人は、桜坂の人間性に心が引き寄せられるだろう。リアリティあふれる過酷な世界に咲く正義のドライバー。本物のデリドラもこんな人たちであることを願ってしまう。

 風俗にはトラブルがつきもの。どこまでも人間臭い人々が面倒事を当たり前のように起こす。そんな世界を生き抜いていけるのは、筋と仁義を心に宿した強い者だけだ。桜坂の生き方は読んでいて憧れる。この作品をただの風俗マンガと思って開くと、桜坂の拳に度肝を抜かれるかもしれない。

文=いのうえゆきひろ