街で見かけた女性との“妄想プレイ”で癒やされる!? フェティシズムに情熱を抱くサラリーマンの優雅(?)な日々

マンガ

更新日:2018/7/30

『癒されたい男』(日本文芸社)

 ギリギリセーフ、みたいな描き方しているけど、けっこう“アウト”だらけのような作品。

 たまに、「ああ、こいつ見てるな」とわかる瞬間がある。初対面の挨拶、頭から脚まで舐めるように見てくる男。しゃべっている最中に視線が胸元に落ちる男。飲み会の最中に巨乳の女性が現れると、途端に目が釘付けになる男。まあ仕方ないなあ、とは思いつつも、隠し通せているような表情には突っ込みたくなる。いや、もろバレですよ、と。

 その点、月島冬二が描く『癒されたい男』(日本文芸社)の主人公は、いっそ清々しい。彼は、自身のフェティシズムに異様なこだわりがあり(特に「脇」)、街行く女性を常にウォッチしているのだ。舞台は、ときによく行くコンビニ、ときに通勤中の電車、ときに大型スーパーと、かなり地味。はたから見れば、一介のサラリーマンが営業回りをしているだけの姿。しかし、彼の脳内は常に女性のことでいっぱいで、かなりハイテンション。

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 1話目は、お気に入りのコンビニに、異色のバイトが入った話(清楚系の店員ばかりだったのに、突然派手めなギャル店員が現れた)。彼は戸惑いつつも、ギャルがお釣りを渡すときに手をギュッと握ってくれた瞬間、完全に癒され、脳内でオクラホマミキサーが鳴り響く。「ほんと、男ってバカ」って、この作品を読んだ女性読者は(そして客観的に読んだ男性読者も)みな思うだろう。ちょろすぎる。

 しかし、そんな1話は可愛いもので、彼のフェティシズムへの情熱は、回を追うごとにどんどんエスカレートしていく。ウォーキングをしている最中に横切った、美尻のマラソン女子につられて全速力で追いかけたり、試飲販売をしている女性の谷間が見たいためにワインを買ってお辞儀させたり、書店で初恋の女の子に似た女子高生を背後からジッと見つめたり……これ、もはや不審者である。

 彼はまるで「完全犯罪」を成し遂げたかのような表情を浮かべているが、ふつうにヤバい男。あと一歩踏み込んだらセクハラ。しかし、なぜか、いやらしさみたいなものはあまり感じない。それは、彼が自分のフェティシズムと理性との戦いを、どこか冷静に捉えているからだろう。「このままだと不審者だと思われる」という思考ができるだけ、まだ救いがある。確かに、妄想するだけなら自由だし、それは男女問わずけっこうしていることだろう。

 とはいえ、セクハラ問題などが可視化されやすいこの時代に、よくこんな作品を出したなあ、と、ある意味作者の勇気を感じてしまう。一方で、抗いきれない男性のサガのようなものを赤裸々に描いたという点では、多くの男性の共感を得るのだろうか(私は女性なので、わからない)。酔って無防備に寝ている女性部下のパンチラを覗こうとしている主人公に、どうか一線を越えて捕まらないようにね、とヒヤヒヤしてしまう作品。

文=園田菜々