愛情が人を狂わせる……。狂気じみたヒロインの愛がすべてを壊していく、『異常者の愛』

マンガ

更新日:2018/11/5

『異常者の愛』(千田大輔/講談社)

 愛は人間を狂わせる、とはよく言ったものだ。愛情の裏に隠れた嫉妬や憎悪、執着、怨嗟は、文字通り人を狂わせ、異常にさせることがある。そして、狂ってしまった人間がなによりも怖いのは言わずもがな。それはたびたびホラー作品のテーマにもなるほどだ。

『異常者の愛』(千田大輔/講談社)も、そんな作品のひとつ。愛という不確かなものをトリガーに、狂ってしまった人間の顛末が描かれている。

 本作で狂っているのは、主人公・一之瀬一弥に迫る同級生の三堂三姫。まだ小学生であるにもかかわらず、三姫の行動はタガが外れてしまっており、理解の範疇を越えている。一弥が想いを寄せる二海二美香をカッターで切り刻み、「二美香がいなければ、私と付き合ってくれる?」と言いのける始末なのだ。

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 そこから始まる、一弥の転落人生。狂気的な人間に好かれてしまったがゆえに、彼はまっとうな人生を送ることができなくなってしまうのである。

 本作は、小学生時代、高校生時代、そして大人時代といくつもの時代設定を変えて描かれていく。しかし、いくら時が経っても、三姫の狂気性がおとなしくなることはなく、それがいつまでも一弥を苦しめていく。

 この展開だけでも非常に恐ろしいのがわかると思うが、本当に怖いのは、最終巻となる第6巻だ。いくつもの窮地を乗り越え、やっと三姫を追い詰めた一弥。その一弥が、いったいどんな手段に出るのか。狂っているのは三姫だけではないことが明示され、読者は絶望的な気持ちへと突き落とされるのではないだろうか。そして、後味の悪い結末が、さらに暗い気持ちにさせる。

 無論、それだけではない。傷だらけになった登場人物たちが、それでも前を向き歩き出そうとしている描写は、希望に満ちている。しかし、そんなシーンをもぶっ壊しにかかる三姫の最後の悪あがきには閉口するしかなかった。

 愛情とはなんなのか。人はどうしてそれにとらわれてしまうのか。ホラーでありながらも、そんな哲学じみたことを考えさせられる作品である。

文=五十嵐 大