「思い出すまで許さない…」目覚めると全裸で監禁状態――人間の“恐ろしさ”を描くサイコサスペンス『監禁嬢』

マンガ

更新日:2018/11/5

『監禁嬢』(河野那歩也/双葉社)

 自分の生命や社会的立場、家庭などが、誰かの手のひらで転がされることになってしまったら。他者に生殺与奪の権利を握られてしまったとき、人間は正常でいられるのだろうか。

『監禁嬢』(河野那歩也/双葉社)は、まさにそんな窮地を描くサイコホラーだ。

 主人公・岩野裕行は、人当たりが良く、人畜無害な高校教師。愛する妻子を持ち、平和な毎日を送る男だ。

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 そんな岩野の前に現れたのが、謎の女・カコ。彼女は岩野を監禁し、無理やりセックスを行う。岩野は教え子に救助され、一命を取り留めるが、カコの猛追は収まらない。彼女は岩野の周辺人物をも巻き込み、執拗に彼を追い詰めていく。

 昨日までの日々が突如として失われてしまう。そのときの絶望感は、想像に難くないだろう。どうして自分がこんな目にあうのか……。きっと誰もがそう思うに違いない。現に、岩野もそうだ。どうして俺がこんな目に。わけがわからない。無数の疑問が頭を駆け巡り、ただひたすらに許しを乞う。

 しかし、そこでカコは、「私は誰なのか?」「私の目的は?」と問いかける。どうやら岩野とカコは、過去に接点があったよう。そして、それがすべての元凶になっているというのだ。

 職を失い、家庭をもめちゃくちゃにされた岩野は、真実を求めて自分の過去の記憶を掘り起こしていく。そこに待っているものとは……?

 作中にちりばめられた、カコからのヒントの数々。読者はそれを手がかりに、岩野とともに真実を追求していくことになる。もちろん、その間もカコからの魔の手はやまない。それをかわしては窮地に追い込まれ、またそれを脱しては追い詰められる。そのジェットコースターのような展開は、読者を捕らえて離さない。

「監禁」という犯罪をテーマに、人間の恐ろしさを描く本作。サスペンスムービーを観ているかのような読書体験が、そこに待っているだろう。

文=五十嵐 大