絵本の目利きが選んだ「クリスマスに贈りたい絵本」おすすめ16選! 出版社編Part②

文芸・カルチャー

更新日:2020/12/12

『からすのパンやさん』や『ぐりとぐら』など、大人にとっては懐かしいロングセラーの名作絵本や、不動の人気、ヨシタケシンスケさんの哲学的な絵本など…子どもも大人も楽しめる絵本作品が数多くある中、 ダ・ヴィンチニュースは、本の目利きのみなさんに贈りたい人を想定して「クリスマスに贈りたい絵本」を選書してもらいました。お家時間が増えた2020年、会えない遠くの大切の人や、友人、自分へのプレゼントに絵本を! まだお子さんのクリスマスプレゼントが決まっていないという親御さんの参考になれば幸いです。

中学2年生の女の子へ

【選者】講談社 幼児図書・海外キャラクター出版部 部長 奈良部あゆみ

選んだ理由

 鹿児島在住の従兄の娘は、小学校に入る前から、東京で本や雑誌の仕事をしている私のことを友達に自慢して、滅多に会えないけれどなついてくれた。そんな彼女の父つまり従兄が突然亡くなって、でも今は思春期ど真ん中にいる彼女の心にあまり近寄れない。だから代わりにこの本をそばに置いてほしいと思った。表紙はきらきらのピンクの箔押しで見るだけでエネルギーをもらえるし、読んだらもっと力をもらえるはずだ。帯のコピー「あなたの未来のために読んでほしい一冊」はそのまま彼女へのメッセージである。

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絵本『世界のすごい女子伝記』の魅力は?

 子どもの頃からなぜか伝記が好きで、世界の偉人の生き方に魅せられた。男性の本はたくさんあるのに、女性の偉人はナイチンゲールとキュリー夫人の域を出ないことを歯がゆく感じていた。今年、アメリカ合衆国の次期副大統領は50代の女性になり、バイデン次期大統領の広報幹部はすべて女性になる。この本には、苦境にめげず、差別をはねかえし、信じた道をあきらめなかった50人の偉人が、美しいビジュアルと写真とともに見開き展開で掲載される。ここで興味を持ったら、もっと深く知りたくなるだろう。いくらでも検索し、調べるきっかけにしてほしい。

『世界のすごい女子伝記―未来への扉をひらいた、歴史にのこる50人―』
ジャンヌ・ダルクからマララ・ユフザイまで、今を生きる子どもたちへ、時代を越えて勇気と希望をもたらす女性たち50人の新しい伝記絵本。英国人イラストレーターによる美しい挿絵で彩られ、楽しく読み進められる一冊。贈り物にも最適です。

泣き虫と言われている子どもたちと、泣きたいのを我慢している大人の方へ

【選者】こぐま社・編集長・関谷裕子

選んだ理由

 我慢を強いられることの多い日々です。それがいつまで続くのか先が見えません。「泣いたらおしまい、崩れてしまう」と思って、我慢している人が、たくさんいることでしょう。でも、子どもだけでなく大人だって、こんなときは気持ちに蓋をせず、場合によっては、思いっきり泣いてもいいのではないか、散々泣いたら、立ち上がれるかもしれないと思って、この絵本を選びました。

絵本『ひとはなくもの』の魅力は?

 文章を書いたみやのすみれさんは、現在高校1年生。主人公のすみれちゃん、本人です。この絵本は、すみれさんが小学校一年の時に作った紙芝居を元に、絵本作家で紙芝居作家でもあるお祖父さんのやべみつのりさんが心を込めて絵を描いてできあがりました。

 小さい頃、本当によく泣く子だったすみれちゃんは、お母さんに「泣く子は嫌い!」と言われてしまいます。でも、怒られたから悲しくて、転んで痛くて、負けて悔しくて…と、泣くのにはいろんな意味があること、ひとは泣くものなんだということを、紙芝居にしました。7歳にして、自分の気持ちにしっかりと向き合っていることは、素晴らしいと思いました。

 子どもの尊厳を感じ、子どもとしっかり向き合いたいと思えてくる絵本ですし、こんなに手放しで泣ける子どもを羨ましくもなってきます。

小学3年生くらいの女の子へ

【選者】主婦の友社 育児・教育編集部 第5編集ユニット編集長 黒部幹子

選んだ理由

 小学3年生頃になると他人の目をとても気にするようになる女の子たち。“自分の好き”に自信が持てず、“他人の好き”に引っ張られることが増えてきます。「自分がいいと思うほうを選んでいいんだよ」と親がいくら伝えても、子どもの心に響くのは友達の声……。そんな親子のモヤモヤを吹き飛ばすお手伝いを、絵本『ディアガール』に託したいと思って選びました。「自分の色」を大切に、この先の人生を歩んでもらえますように。

絵本『ディアガール おんなのこたちへ』の魅力は?

 自分の気持ちに正直になれないとき。自信が持てないとき。選ぶべき道に迷ったとき。人生のさまざまな「壁」にぶつかったときに開きたい“女の子のための応援メッセージ”。どんなときでも“自分らしいよね!”と前向きな気持ちになれる、お守りのような存在の絵本です。米国で20万部突破、ニューヨーク・タイムズベストセラーにも選ばれたヒット作。翻訳はバンド・チャットモンチーのドラマー・作詞家を経て、作家・作詞家として活動する高橋久美子さん。日本の女の子たちに向けて紡いだ言葉が心に響きます。

初めて漫画を読むお子さんへ

【選者】小学館 ドラえもんルーム編集長 徳山雅記

選んだ理由

『ドラえもん』はずっと学年誌に連載され、それぞれの年齢に合わせて描かれた作品です。同じトキワ荘出身の漫画家が社会派作品や劇画を手掛ける中で、藤子・F・不二雄先生はブレることなくずっと児童漫画を描き続けた稀有な存在であり、そこに先生の矜持があります。漫画を初めて読むお子さん向けということ、そして『ドラえもん』の原点は児童漫画にある、ということをタイトルの「はじめての」という言葉に込めています。

絵本『はじめてのドラえもん』の魅力は?

 収められているお話は幼児向けの雑誌「よいこ」「幼稚園」ほかに掲載された作品で、例えばのび太が歯磨きをしているところを描き、ひみつ道具で磨くと宝石みたいにきれいになるなど幼児の生活に則した内容になっています。『ドラえもん』という作品は構成が論理的で無駄がないので、お子さんがひとりで読めると文脈を理解できるようになるんです。それよりも小さいお子さんには「めばえ」に載った『ぞうくんとりすちゃん』という言葉のない絵本もあります。藤子・F・不二雄先生は学年誌での連載が始まったときからずっと、こうした「漫画への入口」となる作品を描かれているんです。

おうち時間を過ごすご家族へ

【選者】白泉社『MOE』門野隆編集長

選んだ理由

 今年はどのご家庭も、家族でおうち時間を過ごす機会が増えたと思います。そんな時、ぜひ「絵本の読み聞かせ」をしてほしいのですが、せっかくなら「親子ってやっぱりいいものだな」って感じられる絵本をおすすめしたかったので選びました。ひとことで言うと「子どもがお母さんを思う気持ちがよく伝わる絵本」です。作者の酒井駒子さんは、初めて親に絵本を買ってもらったときの気持ち、お母さんの言葉、情景を覚えていて、そんな喜びの記憶が詰まってできたのがこの作品なのです。だからこそ、読むと心に響いてくるんですよね。親子で一緒に読んであたたかな幸せのひとときを過ごしてほしいです。

絵本『よるくま クリスマスのまえのよる』の魅力は?

 この絵本「よるくま」という真っ黒い子供のクマが登場する作品で、クリスマスイブの日のお話です。主人公の男の子が「悪い子にはサンタさんはこない」と聞き、心配で眠れないところに「よるくま」がやって来るところから始まります。作者の酒井駒子さんは、子どもを描かせたら日本でもトップクラスの絵本作家で、まずは男の子の表情やしぐさにぐっと惹きつけられます。さらにこの作品では、男の子にやさしく無邪気によりそう「よるくま」がめちゃくちゃ可愛い。その素晴らしい絵に、作者の思いが詰まった素敵なお話がベストにマッチングして完成されている傑作です。絵を見ているだけでも癒されるので実は大人の読者にもおすすめです。

親友の4歳の息子へ

【選者】福音館書店宣伝課 八巻伸子

選んだ理由

 我が子ではない親しい子どもに絵本をプレゼントするときは、気に入ってもらえるかな、とちょっとドキドキします。好きなものが出てくる絵本を選べば間違いないのはわかっていても、あえて、その子を未知の世界へ連れていってくれる絵本を贈るというのもよいのではないかと思います。私自身、子どもの頃に親以外の大人から贈られた絵本は、普段見ていた絵本とは違う雰囲気をまとっていたことを覚えていますし、今でもプレゼントしてくれた人の面影とともに思い出すことができます。いつか、おじさんになっても、この絵本を思い出してくれる日があるといいなと思いつつ選びました。

絵本『しんせつなともだち』の魅力は?

 1965年から読み継がれてきたロングセラー絵本です。雪がたくさんふって、野山が真っ白になったある日。食べ物を探しにでかけたこうさぎは、かぶを2つ見つけました。こうさぎは1つだけ食べて、もう1つはろばにあげようと家を訪ねます。ろばは留守でしたが、こうさぎはかぶをそっと置いてきました。帰ってきたろばは、かぶが1つ置いてあるのに気づきますが、自分で見つけてきたおいもを食べたので、雪がふって寒いから何も食べ物がないでしょう、とやぎに持っていってあげることに。1つのかぶが、うさぎからろば、ろばからやぎ、やぎからしかにと、友だちを思いやる気持ちとともに届けられていきます。さて、このかぶ、最後は誰に届けられるのでしょう。短いシンプルなお話ですが、いつ読んでも心がぬくもる絵本です。

自分の居場所がないような気持ちになっている子どもたちへ

【選者】ブロンズ新社 編集部 佐川祥子

選んだ理由

 クリスマスという日があることは、とてもすてきだと思います。本来の意味とはずれてしまっているかもしれないけれど、どんな人にも、どんな1年だったとしても、自分にも贈りものを考えてくれる誰かがいるということは、どんなにうれしいことでしょう。もうだめだ、というときですら、ちゃんと見ていてくれる存在がきっとあるのだよ、という希望をさしだしてくれる、クリスマスにこそぜひ届けたい絵本です。

絵本『ビロードのうさぎ』の魅力は?

 子ども部屋のすみっこでちいさくなっているおもちゃのうさぎに、ウマが語ります。「子ども部屋には、ときどき魔法がおこるものなのだ」。この言葉こそがこの絵本の魔法です。マージェリィ・ビアンコの原作を抄訳した酒井駒子さんの言葉と格調高い絵がひとつになって、本そのものがビロードで包まれたあたたかさと崇高さを醸し出しています。あんなに仲よしだったのに、あんなに大事だったのに‥‥と友だちやおもちゃを思い出し、愛情の深さと残酷さに胸がちくりと痛むことはありませんか。でも、心から愛し愛されたことが「ほんもの」であれば、それは言葉や時をこえて静かに伝わっている。そんな宝を心に秘めていることこそが贈りものなのです。

お世話になった絵本専門店の店長さんへ

【選者】ポプラ社 山科博司

選んだ理由

 地元である香川県に「ウーフ」という店名の絵本専門店がありました。店主が選んだ素敵な絵本や児童文学、海外製の木のおもちゃや文具が並んでいて、ときどき立ち寄っては、絵本やちょっと高い色鉛筆などを買っていました。人生で一番鬱屈としていた浪人生時代だったこともあり、日々の勉強ばかりの毎日のなかの唯一の彩りのある時間が、ここで過ごす時間でした。

 ときどきこのお店の主催で著名な作家の講演があり、「ゲド戦記」の訳者の清水真砂子さんや、「ともだちはみどりのにおい」や「のはらうた」の詩人・工藤直子さんが来られていました。本を書いた人が身近に感じられる人生で初めての経験でした。このお店が私にとって、出版業界への入り口だったと思います。

 店主の方と絵本や児童文学について雑談する時間が、本当に楽しかったのを覚えています。
本当に楽しそうに「本」のことを話される方でした。絵本専門店「ウーフ」があったから『くまの子ウーフ』を刊行しているポプラ社へとつながったと思います。店主に感謝を込めて、この11月に刊行になった『新装版くまの子ウーフ』をお贈りしたいと思います。(箱入りの3冊セットが、とんでもなく可愛いのです)あのときお世話になった鬱屈とした浪人生が、なんとか児童書出版社で頑張れていますと。

絵本『くまの子ウーフ』の魅力は?

「くまの子ウーフ」は50周年を迎えました。
教科書にも掲載され続けているので、読んだことあるという方も多いと思います。知ってはいるけど、どんな話だったっけ? という方も多いのではないでしょうか。ぜひ読み直してみてください。無垢で、素直で、まっすぐに世界の不可思議さと向き合う「ウーフ」。

「ウーフ」と一緒に「どうして?」と考えたり、感じたりしていると、今、生きている世界がちょっと違った風に思えてきます。

「ウーフ」はともだちのキツネのツネタから「ウーフはおしっこでできてる」と言われて、(可愛く)悩んでいますが、そういえば自分はなにでできているのかとふと考えます。読み直すたびに、世界のとらえ方や感じ方が変わる本だと思います。雨上がりに日が差して、樹々の水滴がきらりと光って、いつもの風景がなんだか違って見える、そんな読後感の本です。

・くまの子ウーフ新装版
・シュタイフ×くまの子ウーフ
https://www.poplar.co.jp/pr/uff-steiff/

イラスト:野瀬奈緒美