今月の特集 2012年7月号 第6回『幽』怪談文学賞大賞受賞作 『鳥のうた、魚のうた』小島水青インタビュー

更新日:2012/11/1

第6回『幽』怪談文学賞大賞受賞作
『鳥のうた、魚のうた』小島水青インタビュー

これまでに二度『幽』怪談文学賞の最終候補作に選ばれた小島水青さん。 三度目の正直となる今回、「鳥のうた、魚のうた」でついに大賞の栄冠を手にした。 各選考委員を瞠目させた異色の作品世界はどのようにして生まれたのか?  同名の短編集でデビューを果たす話題の実力派新人にインタビューする!
取材・文=朝宮運河  写真=首藤幹夫

鳥のうた、魚のうた

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小島青水 / メディアファクトリー / 1365円

死んだ姉に会いたい。少年の祈りは異様な形で聞きとどけられた――。孤独な少年と少女の顔をもつ鶏の交流を描いて第6回『幽』怪談文学賞大賞に輝いた表題作ほか、人魚伝説を下敷きにした「豊漁神」、死者の世界を描いた「アンのこめかみ」など全6編を収めた幻想怪談集。

こじま・みずお●1970年埼玉県生まれ。東京デザイナー学院編集デザイン科卒。2008年に「豊漁神」、09年に「明星と流星」がそれぞれ第3回、第4回の『幽』怪談文学賞最終候補作に選ばれる。2011年「鳥のうた、魚のうた」で第6回同賞短編部門大賞を受賞し、作家デビュー。

怖がったり、懐かしがったり、
自由に遊んで もらえたら嬉しい

 第3回、第4回と最終候補に残りながらも、惜しくも入選を逃してきた小島水青さん。自らの原風景を見つめなおしたという「鳥のうた、魚のうた」で今回ついに大賞に輝いた。
  「過去2回はちょっと気負っているところがありました。今回は恰好つけるのをやめて、自分がよく知っている風景を描いてみようと思ったんです。自分の子ども時代を舞台に、好きなものだけを詰めこみました。結果として、それが作品に奥行きを与えてくれたようです」
 物語の主人公・タカシは孤独を抱えた小学生。幼くして死んだ姉に会いたいと願った彼は、廃屋の神様に祈りを捧げる。しかし、彼の前に現れたのは鶏の身体に少女の顔をもった、世にも奇怪な生き物だった――。
  「突飛なものを書いたという意識は全然ありませんでした。昔からオウィディウスの『変身物語』のような世界が大好きで、人間が動物に変身することをそれほど奇妙と感じていないんです。人間と動物を区別していないのかもしれませんね」
 好物のチョココロネをついばみ、『木綿のハンカチーフ』を調子っぱずれの声で歌い、来るべき不幸を言いあてる人面鳥。その無邪気で異様な姿は、「死」そのものの隠喩として読者の胸をざわつかせる。
  「死生観を描いている、というご指摘は選考会リポートを読んで『なるほど』と思いました。自分では意識していなかったんです。この作品で描きたかったのは懐かしさ。僕にとって怪談は子ども時代の記憶と結びついています。怖いだけでなく、読んだら郷愁をそそる作品にしたいなと考えていました」
 初の作品集となる『鳥のうた、魚のうた』には、虫にまつわる不気味な記憶を描いた「安藤くんのプレゼント」、人魚伝説を下敷きにした「豊漁神」、鳥たちと死者の交わりを描いた「アンのこめかみ」など、さまざまな生き物が登場。さながら小島版・博物図鑑の趣がある。
  「荒俣宏さんや澁澤龍彥さんが書かれているような博物学の世界に憧れますね。この本のテーマは『子ども・動物・変身』。色々な動物を書くことができて楽しかった」
  『幽』怪談文学賞に応募するまでは、長年短歌に親しんできたという小島さん。豊かなイメージと変幻自在な物語展開には、短歌の影響があるという。
  「頭に浮かんだイメージをパズルのように組み合わせて、一編の物語に仕上げていきます。異質なものが並ぶことで、思いも寄らない効果が生まれることがある。そこは短歌の作り方とよく似ていますね」
 禽獣虫魚と死者へのまなざしにみちた全6編。今後の小島さんの活躍が楽しみだ。
  「読む人によって色んな楽しみ方ができる作品だと自負しています。怖がったり、懐かしがったり、この本のなかで自由に遊んでもらえたら嬉しい」