連載作家インタビュー 辻村深月「ミステリではできないことを試したい」

更新日:2012/10/26

 今年7月『鍵のない夢を見る』で第147回直木賞を受賞し、さらなる活躍が期待されている辻村深月さんですが、『Mei(冥)』で彼女の新連載がスタートしました!タイトルは『丘の上』。なんと怪談小説です。直木賞受賞作『鍵のない夢を見る』では、「犯罪」をモチーフに、普通の町に生きるありふれた人々にふと魔が差す瞬間、転がり落ちる奈落を巧みな心理描写を交えて綴った辻村さんですが、新作では何を描き出そうと考えているのか?また、今回チャレンジする「怪談」についてなど、いろいろと聞いてみました。

辻村深月
つじむら・みづき●1980年、山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』でデビュー。著書に『凍りのくじら』『ぼくのメジャースプーン』『ツナグ』などがある。『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞受賞。 写真=冨永智子

——怪談雑誌での連載が始まりました。女性向け、怪談ということで、何か意識された部分はありますか?

辻村 これまで愛読していた『幽』の“妹”雑誌という、かわいいコンセプトに触れて、では、『幽』で私が“兄上”たちに存分に読ませてもらった楽しさを、新しい読者にも怪談の入り口として妹なりにお届けできたら、と。偉大な兄の存在がプレッシャーでもありますが、お手伝いしていきたいです。

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——今回の作品について一言、お願いします。

辻村 怪談は、普段書いているミステリとは違う作法が試され、またミステリではできないことを可能にしてくれる場所だと思います。これを読んで「怖い」と思ってもらえる瞬間があったら、書き手としては幸せです。

——今回の作品は命がテーマの衝撃作品となりました。これまでの作品においてもそうですが、「死」もしくは「弱者」というものが辻村作品と切っても切れない関係にあるように思います。それについてのお考えをお聞かせください。

辻村 「死」を描きながらも、多くの怪談のテーマの向こうにはなんとなく「生まれる」ということの影が見え隠れしているように思っていて。その意味でも、象徴的な一編になったかもしれないと振り返ってみて思います。

——お好きな怪談作品を教えてください。

辻村 木原浩勝さん、中山市朗さんの『新耳袋』はやはり傑作だと思います。見えていたものがふっと姿を変えるような瞬間が、短い中にぎゅっと詰まっている。恩田陸セレクションの巻があって、それもとても素敵。最近だと、小野不由美さんの『鬼談百景』と『残穢』の、合わせて読んだ読後感に震えました。凄い!

——怪談が生まれる場所はどんなところでしょうか?

辻村 日常生活がぶれずにある中で、ふっと見慣れた景色がゆらいだり、足場をすくわれるようなところから生まれてくるのだと思います。

——『Mei(冥)』での連載は今後、どのようなものになっていくのでしょうか?

辻村 長いもの、短いものありながら、その時々の生活の「揺らぎ」を捕まえるような形だけは崩さず、怖いと思ってもらえる瞬間を引き続き、届けられたらよいな、と思います。

——お子さんが生まれてから作風に何か影響するものはありますか?

辻村 まだわからない、というのが正直なところですが、「死」や「生まれる」ということに関しても、きっともう影響は受け始めているのだろうなあ、と思います。小さい頃に怖かったけど、大人になって平気になってしまったこと、忘れてしまったことの追体験も、これからきっとしていくのだろうと思います。

——辻村さんの作家的日常を教えてください。可能な範囲でかまいません。

辻村 出産以降は、子供を保育園に送り出してから、お迎えまでの間に可能な限り動きます。限られた時間の中で、相変わらず〆切にきゅうきゅうとする毎日です。

——最近はまっているマイブームは何ですか?

辻村 出産してから、必要にかられて料理をよくするようになりました。好きな漫画やレシピ本の中に出てくるものをその通りに作ると、おいしい!といろんなメニューの再現に励んでいます。

——ありがとうございました。今後の連載を楽しみにしています。

紙 『鍵のない夢を見る』

辻村深月 / 文藝春秋 /1,470円

望むことは、罪ですか?彼氏が欲しい、結婚したい、ママになりたい、普通に幸せになりたい。そんな願いが転落を呼び込む。ささやかな夢を叶える鍵を求めて5人の女は岐路に立たされる。待望の最新短篇集。