今月の特集 2012年11月号 『男たちの怪談百物語』刊行記念 百物語レポート

更新日:2012/11/2

『男たちの怪談百物語』刊行記念
百物語レポート

怪談をこよなく愛する10人の男たちが集い、99話の怪談を一晩かけて語り合った恐怖の百物語怪談会。
そのすべてを収録した話題の一冊『男たちの怪談百物語』が10月5日ついに刊行された。
刊行を記念して当夜の模様を誌上レポート! 9時間近くに及んだ男たちの怪談合戦がここに蘇る!

構成・文=朝宮運河 写真=首藤幹夫

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男たちの怪談百物語

安曇潤平、紙舞、黒 史郎、黒木あるじ、小島水青、小原 猛、紗那、朱雀門 出、松村進吉、水沫流人/著 
東 雅夫/監修 京極夏彦/見届
メディアファクトリー 1365円

2012年5月、怪談シーンの次代を担う男性作家たちが一堂に会し、百物語会を開催した。本書はその戦慄の一夜を完全誌上再現。思わずゾッとする話、不条理で奇妙な話、本には書けなかった話、ローカル色の豊かな話など、ここでしか読むことのできない怪談実話99話を収録している。装幀は京極夏彦氏が担当した。

深川の商店街にたたずむ東屋の2階を借り切り、厳粛な空気の中で行われた男だらけの百物語。全国各地で活躍する、個性豊かな怪談作家10名が一堂に会し、夜を徹して99話の怪談を語り明かした。開会後は人の出入りを禁止し、外部との接触や通信が断たれる。一話語り終えるごとに、緊張感が増してゆく。

仁義なき怪談実話合戦が開幕!!

 2012年5月初旬——。怪談を愛してやまない男たちが百物語怪談会を開催する、という噂を聞きつけて、取材班は東京深川に向かった。時おりしもゴールデンウィーク。多くの人が海外旅行に出かけてゆくなか、本当にそんな物好きがいるものだろうか?
 そう疑念を覚えながら会場である民家の2階へと足を踏み入れる。しかし、噂は本当だった。そこには男たちが車座になって、怪談会の開始を今や遅しと待ち構えていたのである!
 この酔狂な男たちは何者なのか。ここでメンバー紹介をしておこう。まず東北からやって来た黒木あるじ。地元・関東勢として安曇潤平、黒史郎、小島、。関西からは怪談社の&と。四国から来た松村進吉。そして小原猛はなんと沖縄からの参加である。いずれも腕に覚えのある怪談猛者ばかりではないか。取材班は思わずゴクリと唾を呑む。
 さて、時計の針が21時半をまわった頃。ついに百物語が始まった。会の最中は外部との接触は一切禁止。携帯電話も電源を落とされ、厳重に保管される。99話完遂するまでは、誰もこの座敷から出ることができないのだ。トップバッターを務めたのは怪談社の紙舞。バレー部の夏合宿で起こったという奇怪な事件を、怪談ライブさながらの迫力で語り、集まった者たちを圧倒した。続いて安曇潤平が、鰻屋の天井に張りついた手形にまつわる怪談を披露。さっきまでのリラックスムードから一転、座敷には妖しい気配が立ちこめる。
 古い作法では一話語り終えるごとに灯心の火を消すことになっているが、この日は日本物怪観光の天野行雄が手がけた百物語マシーン「幽蛾灯」が登場。100の穴が穿たれた黒い行灯に、一本ずつ蛾をかたどった鋲を差しこんでゆく。
 夜が更けるにつれ、ひとつ、またひとつと増えてゆく行灯の蛾。男たちの顔に、疲労の色は見えない。「山の話といえば、こんな話があるんです」「話す予定はなかったんですが、思い出したのでこの話をしましょう」と、前の語り手を受けながら、軽々とハイクオリティな怪談をくり出してゆく男たち。ときには哄笑の声さえあがる。取材班は天狗の集会にでも紛れこんだような錯覚に陥っていた。
 やがて、暗幕に覆われた窓の外が白々と明けはじめた。時刻はすでに午前6時すぎ。黒木あるじが東北の被災地で取材したという哀しい怪談を語り終え、ついに99話に到達した。最後の蛾の一匹を、皆で「幽蛾灯」に差しこむと、行灯の先端に青い光が灯る。こうして男たちの怪談百物語会は、つつがなく終了したのである。
『幽』の姉妹誌として新雑誌『Mei(冥)』が創刊されるなど、女性作家たちによるガーリーな怪談がますます盛りあがりを見せている。そんな中、怪談に魅せられた男たちの壮挙を記録したこの『男たちの怪談百物語』はどう受けとめられるのか。未曾有の怪談ブームは多様化しつつ、さらなる変化を遂げようとしている。

後列右から、朱雀門出、小原猛、紙舞、紗那、松村進吉。前列右から、小島水青、黒史郎、黒木あるじ、安曇潤平、水沫流人。

東雅夫、京極夏彦両氏が会を見守る。

女たちの怪談百物語

伊藤三巳華、岩井志麻子、宇佐美まこと、勝山海百合、神狛しず、
加門七海、宍戸レイ、立原透耶、長島槇子、三輪チサ/著 
東雅夫/監修 京極夏彦/見届
メディアファクトリー 1365円

みずからもあまたの怪異を体験する女性怪談作家10人が集い、夜を徹して怪談を語り合った。風が通るはずのない密室で、蝋燭の火が揺れる。人の出入りを禁じた作法のはずが、廊下から誰かが覗く気配がある。心底怖ろしく、やがてもの悲しい百物語を完全再現。