いま話題の“青年向け”ライト文芸とは? 創刊まもない「ノクスノベルス」担当者を直撃

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15

 フロンティアワークスは2月12日、“青年向け”ライト文芸レーベル「ノクスノベルス」を創刊した。同社が展開している「MFブックス」や「アリアンローズ」と同じく“ウェブ発”小説の書籍化レーベルだが、大きな違いは「小説家になろう」の男性向け18禁小説サイトである「ノクターンノベルズ」「ミッドナイトノベルズ」に掲載中の作品を中心にしている点だ。

同レーベルでは、「MFブックス」「アリアンローズ」では描けなかった性表現や暴力表現にも踏み込みつつ、作品の世界観や主人公が置かれた状況など「物語」をしっかり楽しむことができる作品を目指している。対象読者は、ライトノベルを卒業した20代後半~50代の社会人男性だ。

今回、ダ・ヴィンチニュース編集部は、同レーベルの編集者たちにインタビューを行い、レーベル立ち上げの経緯や狙い、今後の展開などについて話をうかがった。

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フロンティアワークスの中田翔氏(右)と上田昌一郎氏(左)

性表現・暴力表現はメインじゃない

――まず、今回の新レーベル「ノクスノベルス」立ち上げの経緯をお聞かせください。

上田:市況が厳しくなる一方の出版業界で、私たちが手がけている「MFブックス」「アリアンローズ」のようなライト文芸レーベルには、新たに参入する出版社やタイトル数が増え続けています。フロンティアワークスとしては、そういった中で読者の奪い合いをするより、新しい価値、新しいジャンルを立ち上げ、確立させていくほうがいい、という判断をしたんです。

――「小説家になろう」の男性向け18禁小説サイトである「ノクターンノベルズ」と「ミッドナイトノベルズ」に掲載中の作品を中心に書籍化されるわけですよね。そういう意味では、ウェブ小説の系譜に連なる、これまでと同じ路線を踏襲している印象を受けました。

上田:そうですね。各レーベルの違いとしては、「MFブックス」は男性向け、「アリアンローズ」は女性向け、そして今回の「ノクスノベルス」は“青年向け”という位置づけになります。

――「ノクターンノベルズ」は男性向け18禁小説、「ミッドナイトノベルズ」は“官能を主目的としない”大人向けの小説が掲載されています。となると、やはり「ノクスノベルス」の作品には性表現や暴力表現が多いのでしょうか?

上田:多いか少ないかは、実は考慮していません。これはライト文芸全体に言えることなのですが、読者の方々に「主人公みたいな体験を自分もしてみたい!」と思っていただけるような物語の世界観が作品のメインになっています。世界観を描写するためのいち手段として、性表現や暴力表現にも踏み込んでいるだけですので、それらがメインになることはありません。

――「小説家になろう」で流行っている作品の世界観というと、異世界ファンタジーものですよね。今回の新レーベル「ノクスノベルス」も、そういう路線の作品が多くなるのでしょうか?

中田:確かに、全年齢向けの「小説家になろう」では、異世界ファンタジーが一大ジャンルとして確立しています。ところが「ノクターンノベルズ」「ミッドナイトノベルズ」では、まだそこまで人気ジャンルが固まっていないんですよ。例えば『ゾンビのあふれた世界で俺だけが襲われない』は「ノクターンノベルズ」で総合ランキング1位を取った作品ですが、舞台は現代です。読者のニーズが重要なので、ジャンルに固執するつもりはありません。

ライトノベルを卒業した人に帰ってきて欲しい

――ターゲットは「ライトノベルを卒業した20代後半~50代の男性」と、わりと年齢の幅が広いように感じたのですが。

中田:ちょっと乱暴な言い方をすると、エンターテイメントって必ずしも人にとって必要なものではないんですよね。使えるお金や時間には限りがありますから、すべてのエンターテイメントが競合になります。

――はい、可処分所得と可処分時間の奪い合いですね。

中田:現代人のライフスタイルって、非常に多岐にわたりますよね。コンテンツをプロデュースする立場としては、お客さんのライフスタイルを想像し、そこに適切なコンテンツを適切なメディアでお届けすることが必要だと思っています。

――なるほど。

中田:学生のころはアニメやコミックやライトノベルを楽しんでいたのに、社会人になってライフスタイルが変わったら、そういったコンテンツからいつのまにか離れてしまった。「ノクスノベルス」の想定ターゲットはそういった方々なんです。仕事にも慣れてきたころに、ふと書店へ行って「あ、なんか懐かしいな」と手に取ってもらえるような本。その入り口が20代後半から、30代前半くらいまでの方々だと捉えています。

――ではその上の年齢層は?

中田:上が50代というのは、実績ベースの話なんです。「MFブックス」「アリアンローズ」の読者アンケートはがきを集計すると、50代や60代もかなりの人数がいらっしゃるんですよ。

上田:嬉しいことに、熱心なファンの方がいらっしゃるんです。新刊が出るたび毎回、アンケートはがきを返してくれる60代の方とか。だから結果的に「年齢」としてのターゲットの幅が広くなってしまいますが、ターゲットの優先度としてはまず「性別」があり、その次は「ライフスタイル」があります。

夜は余暇を、非日常の世界で楽しんで欲しい

上田:装丁やキャッチコピーも、昔のライトノベルを思い起こさせる「ちょっと懐かしい感じ」にこだわってます。レジに持っていきやすいような。

――イラストも、ライトノベルで流行っているような絵柄ではないですよね。

上田:ライトノベルのカバーイラストは女性キャラしかいませんからね。男性主人公と女性キャラクターが、同じレイヤーに配置されている、ということをカバーイラストの制作では心がけてます。

――ライトノベルの表紙は、背景まで描き込まれたものは少ないですよね。

上田:おっしゃるとおりです。ライトノベルだと、背景はなく、ほとんどキャラクターだけですよね。「ノクスノベルス」では物語の世界観を伝えるため、カバーにはキャラクターだけではなく背景や小物などもしっかり描き込んでいます。

――素朴な疑問なのですが、「ミッドナイトノベルズ」「ノクターンノベルズ」は語尾が「ズ」ですが、今回の新レーベル「ノクスノベルス」は「ス」と濁らないですよね。なにか理由があるんでしょうか?

上田:韻を踏みたかったんです。「ス」のほうが響きが綺麗かな、と。

中田:レーベル名を決めるときには、かなり議論をしました。実は「ノクスノベルス」にするか「ノクスノベルズ」にするかだけで、小一時間くらい話し合ってます(笑)

――(笑)

中田:「ノクターン(nocturne)」は「夜想曲」ですが、「ノクス(nox)」はその語源となるラテン語で「夜」という意味です。イメージとしては昼が日常、夜が非日常。仕事で疲れて帰ってきたら、夜は余暇を非日常の世界で楽しんで欲しい、という願いを込めています。だから「ノクスノベルス」のキャッチコピーは「日常は終わり、刺激的な夜が始まる――」なんです。

持ち込み大歓迎! 原作を開発したい

――将来的にオリジナル作品も手がけたいとのことですが、作品・作家はどのように発掘するご予定でしょう?

上田:レーベルとして、新人賞の開催を検討しています。また、作家さんからの持ち込みも大歓迎です。私たちの部署は「クロスメディア事業部」と言いまして、一つのコンテンツをさまざまなメディアへ展開していくことに注力していますが、そういった中で「ノクスノベルス」でも将来的にはオリジナル企画をやっていきたいなと考えています。

中田:これは「原作開発」という意味合いなんですよね。しっかり原作を作った上で、クロスメディア展開をしていきたい。フロンティアワークスのコンテンツや商品は、他社から権利をお借りして展開する形が大多数を占めています。ところが最近、例えばアニメの原作が枯渇しつつある、みたいなことが話題になったりしていますよね。

――確かに。

上田:そういった状態になっていったときに、原作を持っていて自社でメディア展開もできる会社が、私たちのような他社へ作品の権利を貸し出していただけるのだろうか? というのは疑問です。

中田:やはり自社でもしっかり原作を持った上で、クロスメディア展開を自社だけでやるのか、他社と組んでやるのか、都度、適切なプロデュースの手法を考えたいです。お客さんに一番喜んでいただける方法を、普段から模索したいんですよね。

上田:幸いにして私たちのグループには、男性向けなら「ゲーマーズ」、女性向けなら「アニメイト」という販路があります。そこからの情報を集約した上で、原作開発ができるのは強みだと考えています。

――例えば、KADOKAWAがはてなと提携して「カクヨム」というサイトを立ち上げ、「小説家になろう」と同じようにユーザーが自由に投稿できる場を自社で運営するようになりました。フロンティアワークスでそういう計画は?

中田:自前では、やらないと思います。CGM(Consumer Generated Media:消費者生成メディア)を自社で持つと、どうしてもシビアに考えないといけなくなってしまいます。

上田:多くのCGMを運営していらっしゃる会社さんは、ユーザーさんに作品発表の場を提供しているポリシーだと思うんです。私たちも、ウェブに掲載されている作品は、あくまで「ウェブ向けの原作」だと考えています。だから私たちが書籍化する際は、必ず書籍向けに編集・改稿しています。また、仮にウェブでランキングが上位でも、アダルト要素だけで人気が高いものなら書籍化しようとは考えないと思います。

中田:もちろん原作を好きな方を裏切るような改変はできませんが、書籍で読んだほうがもっと面白いと思ってもらえるようにしたいですね。そうすることで、書店で初めて作品に出会った方々にも喜んでもらえると思っています。

――今日はどうもありがとうございました。

取材・文=鷹野凌

「ノクスノベルス」では今後、毎月1~2タイトルを、12日ごろ発売していく予定だ。

「ノクスノベルス」公式サイト