猫を看取る瞬間まで、飼い主ができることはなにか。『さよなら、ちょうじろう。』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15


『さよなら、ちょうじろう。』(小泉さよ/ベストセラーズ)

家族や周りに手間をかけさせないように「自分はぽっくり大往生したい」などと願う人は多かろうと思います。ちなみに、日本人の死因として最も多いのは、ご存じの通り「悪性新生物」。平成26年(2014年)の「人口動態統計」によれば、死亡総数に占める悪性新生物が死因となった割合は28.9%。いっぽう「老衰」は5.9%です。仮に「老衰=大往生」だったとしても、先代小さん師匠のように前日までいつもどおりご飯を食べて、就寝したらそのまま翌朝亡くなっている「ぽっくり大往生」は大変に難しく、2階で目薬をさして、その足でゴルフ場に赴き一打目でホールインワンを達成するくらいなんではないかと思います。

医療も発達し、それなりに健康管理を行える人間にとってさえ「ぽっくり大往生」は至難の業。自分で健康にいい食事を選んだり、体調に合わせて健康寿命を延ばす行動をしたりできない猫にとっては、なおさら難しいことです。でも人間はそんなこと 忘れてしまいがちです。死という永遠の別離を考えたくない気持ちがあるのも確かです。しかし必ずそれはやってきます。

さよなら、ちょうじろう。』で描かれるのは、オスの「ちょうじろう」とメスの「らく」の兄妹との出会いと暮らし、そしてちょうじろうに見つかった病気とその再発、闘病、そして別れ。かわいい姿だけを写した写真集からは見えづらい、猫との暮らしのなかにある避けられない一面をやわらかなイラストと文章でつづった一冊です。

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飼い猫の平均寿命が延びた今、多くの飼い主は長寿を願います。でも、長寿は病気と隣り合わせ。人間も猫も同じです。そして、猫を飼うことは、看取るところまで責任を持つことにほかなりません。猫の一挙手一投足に癒やされ、笑い、互いの愛情を感じる時間は、看取るその瞬間を迎えるためのプロローグにすぎないのかもしれません。飼い主として、猫からもらうばかりでなく、看取るときまでに何ができるのか。本書を読んだあとに、飼い猫の寝顔を見ると、そのような思いが巡ります。

別れは本当に辛く悲しいものだけれど、それ以上のものを、必ずわたしたちに与えてくれます。別れの辛さと、一緒に過ごす幸せを天秤にかけたら、きっと幸せが上回るのです
P107より

私もご多分に漏れず、飼い猫たちには、いろいろなものをもらってばかりですので、「目を閉じたあとも、ずっと一緒だよ。今までもそうだったように」と最後のその瞬間に信じてもらえるように、今という時間を大切に過ごしていきたいと思う次第です。

文=猫ジャーナル