いきなり「死の宣告」を突きつける、そんな女の子がかわいく思えるなんて!未来の死体が視える、新たなるミステリーヒロイン登場!
更新日:2017/11/15

「凪野(なぎの)くん、あなた死ぬわよ」。
突然、同級生の女の子にこんなことを言われたら、あなたはどうするだろうか?
『風見夜子の死体見聞』(半田畔/KADOKAWA)のヒロイン、風見夜子(かざみよるこ)には、不思議な能力がある。近い将来、死ぬ運命にある人の死体が視えること。
本書は、「わが身が一番かわいい」少年と「未来の死体が視える」少女の織りなす青春ライトミステリー小説だ。
いきなり死の宣告をされた少年、凪野陽太(なぎのようた)は、本書の主人公。高校2年生の彼は「他人が火に包まれていたら、持っている水を自分にかぶせるような男」だと自ら豪語する。
夜子はクラスメイトから「死神」とあだ名される、日本人形のような少女。一見、おしとやかで暗そうなイメージを受ける夜子だが、その行動はキテレツで不器用、嫌がらせも大の得意。淡々としながら下ネタもとばしてくる。
面倒事に巻き込まれるのを嫌う凪野は、幼馴染の夜子を遠ざけていたが、その命を救われたことから、夜子の「ひと助け」を手伝うことになってしまう。夜子は死体が視える能力を活用し、死体現場に遺された物や、その状況から謎をひもとき、「人の死の運命を変える」ことでその人の命を助けることができる。
しかし、実際に起こす行動はキテレツだ。小学生の少年少女を自宅に閉じ込めたり、円盤投げの授業でクラスメイトを骨折させて入院させたり、あまつさえ他人の家に不法侵入までしてしまう。
もちろん、そうすることで、対象を「死の現場」に近づかせないようにしているだけ。つまり、「人の命を救うための行為」なのだが、やり方が行き過ぎている。相手に向かって「あなた死ぬわよ」と直球で言ってしまうのも、「もう少しマシな言い方はないのか!」と凪野も読者も思ってしまう。
けれど、そんな夜子が、とてつもなく「かわいい」のだ。
彼女は自分の力を、死んだ両親が与えてくれたと信じている。目の前の死体から逃げたくない。負けたくない。だから彼女は「何がなんでも助けたくて、手段を選ばない」のだ。そんな夜子の一生懸命さと、とっぴな行動のアンバランスさが、まずかわいい。さらに、クールに見えて、全力で相手にぶつかっていく姿が、おかしくもあり、けなげにも思える。
もし自分に未来の死体が視えたとしても、夜子のように行動できるかと問われれば、できない、と思ってしまう。人が死ぬ現場には危険があふれている。下手をすれば自分が巻き込まれてしまうかもしれないのに、彼女は「ひと助け」をやめないのだ。「他人が火に包まれていたら、持っている水を自分にかぶせるような男」の凪野が、「普通の読者」には一番近い存在だと思う。
だが彼は、夜子に影響され、自分の価値観を改めていく。その様子が、読者にとって自分の成長に感じられ、読後感のカタルシスにつながっているのではないだろうか。
熱い心を持つ少女と成長をとげる少年。そこに本当の死神らしき男も現れて、物語はクライマックスへと進んでいく。
「人の死の運命」を回避させるべく、2人が奔走するライトミステリーは、一読の価値あり!
文=雨野裾