「創作は感染する」出版社が運営する投稿サイト「カクヨム」の狙いとは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16

「小説家になろう」や「エブリスタ」などの投稿サイトが、新たな才能が生まれてくる場として活況を呈している。そこに2月29日、株式会社KADOKAWAの「カクヨム」がローンチされる。出版社が運営する投稿サイト。その狙いを編集長・萩原猛さんに聞いた。

――かつては出版社を通して新たな作家が世に出てきましたが、いまは投稿サイトですぐに自分の作品を読んでもらえる。この違いはどのように捉えていますか?

音楽の世界にたとえると、大手事務所に最初から所属しているミュージシャンと、ライブハウス出身のバンド。レコード会社が売り出して、メディアにどんどん露出させていくミュージシャンがいる一方で、小さなライブハウスから演奏を始める人たちもいます。初めはコピーバンドだったり学園祭バンドだったりするかもしれない。でも、少数のお客さんの中から気に入ってくれる人が現れて、ライブを繰り返すうちにじわじわ人気が出てきて……というやり方もあるわけです。「へたくそ!」と野次を言う人もいるでしょう。でも、いっしょに盛り上がってくれる人もいる。

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それは出版には今までなかったスタイルです。出版社が新人賞を主催して、売り出すというやり方が主流でした。でも投稿サイトでは、本にする前に読者がいる。まだアルバムを出していないバンドのライブにお客さんがつくように、執筆中の状態で読者がいて、作家も読者の反応を見る。読者の反応が執筆の原動力になるのです。

従来の作家にもファンレターは届きましたし、感想をツイートしたりブログに書く人はいます。でもそれは本が出てから。執筆中に読者の声がダイレクトに届くというのは、書き手にとって励みになるし、創作の方向性についてもいろいろな示唆を得られる。

またこの状況は、読み手が書き手になる機会も増やしていると思います。自分の意見が作家によって作品に取り入れられ、作品が面白くなる。そんな経験があると、自分のアイデアを自分で作品にしてみたくなりますよね。“創作が感染していく”のです。

もちろん一人で書いて一般公募の賞に応募する才能もまだまだいるでしょう。これはどちらがよいという話ではなく、選択肢が広がったということだと考えています。

――その投稿サイトを、出版社が運営するのが「カクヨム」。他の投稿サイトとの違いは?

いちばんは、出版社が運営している、そのこと自体です。“本になる”という道筋が見えやすい。KADOKAWAですから、コミカライズや映像化といったメディアミックス展開まで見えてきます。そして、ここで書けば編集者が読んでいる確率は高いので、“自分の作品を本にしたい”という意欲の強い人が集まるはずです。当然、多くの作家が育ってくるでしょう。

また“多様性”を大事に考えています。通常の小説投稿とは別に、 7つのジャンルに分けてコンテストも行うのですが、これは流行のスタイルの作品ばかりが集まることを避ける狙いです。ランキングが1本しかないと、特定の方向性の作品が流行ればそればかりが上位になってしまいますが、「カクヨム」はジャンルごとのランキングをトップページに配置するということもあり、その数だけの多様性が担保されている。「カクヨム」だったらこういう作品も書けるかも、という書き手が集まるでしょう。マンガ雑誌にさまざまなテイストがあるように、投稿サイトごとにカラーがあって、書き手も読み手も棲み分けていく。そしてそれぞれがシーンを盛り上げていければいい。そんなイメージを持っています。

機能の面では、レビューに力を入れました。“書ける”“読める”に加えて“伝えられる”。自分の感想を付けて、他の人に作品をおすすめする機能です。ただ読むだけではなく、自分のレビューが感染源になる。“読み手が書き手を育てる”という投稿サイトの文化を、こんなかたちで機能にしてみました。

――読み手が育てた書き手の作品を、本にする。そのとき編集者の役割はどう変わってくるのでしょうか?

ヨコ書きの原稿をタテ書きにすれば本になるわけではありません。あるていど限られたページ数があり、装丁も含めたパッケージがある“紙の本”に、メディアミックスするくらいの意識が必要でしょう。しかも“本づくりが密室ではなくなる”。すでに大勢が読んでいるわけですから、どんな本になるのか注目されている中での本づくりになります。

そして人気作品には多くの編集者が集まってくる。となれば編集者は、こう作ってこう売り出す、という明確なビジョンがないと作家に選んでもらえません。作家も既についている読者の期待を裏切りたくないですから、編集者に求められるハードルはさらに上がります。

その結果、本の完成度は上がるはずです。編集者もサイトの読者の反応を見ながら、内容をこう直そう、こんなパッケージにしたら反響があるだろう、と考えながら取り組めますから。

――いよいよ2月29日に「カクヨム」ローンチとなります。すでに(2月26日時点)全ての登録ユーザー数が1万6000、全ての作品数が1万3000に達していますが、これからの書き手、読み手の方々にひとことお願いします。

われわれは「カクヨム」という場所を作りましたが、ここをどう使うか、面白くするかはユーザーにかかっています。書き手は自分の力で「カクヨム」を作る、変えるつもりで来てください。そして読み手は、書き手の原動力になる。いっしょに面白い場所を作っていきましょう。