男だってBLが好き! やおい研究家・金田淳子さんに、「男子に勧めたいBL」を聞いた!

BL

更新日:2016/1/15

やおい研究家・金田淳子さん

 少年向け、少女向け、エログロ、ミステリー…。マンガにはありとあらゆるジャンルが存在する。そのなかでも、ここ最近着目されるようになったのが、主に女性作家が女性向けに男同士の恋愛を描いた「BL=ボーイズラブ」というジャンルだ。それらの作品を愛する「腐女子」たちの存在が一般に知られるようになって、久しくもある。しかしながら、マンガ好きのなかには、「BLはちょっと…」と拒否反応を示す人がいるのも事実。でも、声を大にして言おう。それはもったいないのだ!

 BLのなかには、男子や初心者が読んでもおもしろい作品がわんさか存在する。お腹を抱えて笑えるものもあれば、ページをめくるごとに涙が浮んでくるものだってある。それを知らずして、マンガ好きと言えるのか…!けれど、「じゃあ、なにを読んだらいいのやら」と疑問に思うのも確か。ということで今回は、『オトコのカラダはキモチいい』(二村ヒトシ・岡田育・金田淳子の共著/KADOKAWA)のなかで腐女子の生き様を爆発させたことでも知られる、やおい・ボーイズラブ・同人誌研究家の金田淳子さんにインタビューを敢行。「男子に勧めたいBL」について聞いてみた!

――今回は「男子に勧めたいBL」がテーマですが、そもそも男でもBLって楽しく読めるんでしょうか?

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金田淳子さん(以下、金田)「もちろんです!わたしの周りにいる、女性しか恋愛の対象にならないと言っている男性でも、BLを楽しんでいる人は大勢いますよ。おそらく、よほどセックス描写が生々しくなければ、十分楽しめます」

――BLは絵が美麗で、男性も女性的に描かれるから、「異性愛」のように見える、というのも関係しているでしょうか?

金田「それもあると思います。いくらセリフで男の子らしさを出していても、やはり受け(セックスで挿入される役割)が女の子っぽく見える場合が多いんですよね。だから、そういった作品ならば、異性愛しか見たくないという人でも、嫌悪感は少ないと思います。ただし、『男同士に見えないから良いんだよ』なんて言われると、わたしとしてはカチンときます。だって、BLはあくまでも男性同士の恋愛を描いているものなんですから。その大前提を無視はしないでほしいです」

――なるほど。確かに、「男同士に見えないから良い」と言うのであれば、最初から異性同士の恋愛モノを読めば良いですもんね。では、それを踏まえて、金田さんが「男子に勧めたいBL」をいくつか紹介していただけますか?

金田「最初に推したいのは、『ふしぎなともだち』(新井煮干し子/茜新社/2013年刊)です。これはガチなオタク男子と、オタクではないけどオタクに偏見がなくて、先入観なくアニメ作品も見る男子との友情を描いた作品。これは傑作ですよ。読み進めていくと途中でBLだったことを忘れるくらい、2人の友情が育っていく過程について説得的に描かれていて、流れがすごく自然。2人は徐々に距離を縮めていき、セックスする関係に至るんだけど、そこで片方が『オレが攻めで良いのか?』と確認しているシーンがあります。他のたいていのBLでは、攻め受けの役割が決まってしまっている場合が多いんですが、個人的には「それは話し合って決めなくていいのか?」って思うことがあるので、この描写はツボでした。最後のほうで、オタクのメガネくんが髪を切ってかっこ良くなるところも個人的にツボ!

 次に挙げたいのは、『東京心中』(トウテムポール/茜新社/2013年刊、以後続刊)。この作品は、テレビ業界の裏側を支える、ディレクターやアシスタントディレクターといった制作陣を描いたお仕事マンガとしても楽しめると思います。主人公は憧れの上司に認めてもらいたい一心でガムシャラにがんばるんですけど、その気持ちって、働く若い男子の多くが共感できるはず。主人公が成長していく姿に自分を重ねて読めると思いますよ。それと、この作品は『このBLがやばい! 2014年度版』(NEXT編集部/宙出版/2013年刊)のマンガ部門でトップを獲ったので、腐女子の間ではよく知られた作品だと思います。でも、一般的にはまだまだ知られていないので推していきたいですね。

 また、腰乃さんが描く『鮫島くんと笹原くん』(東京漫画社/2011年刊)もオススメ。腰乃さんは、ある種のBLにありがちな――またそこが見どころでもある――『こんな男いねーわ!』というファンタジー的な要素を抑えめに描く作家さんで、男性キャラクターが見た目も性格も美化されておらず、非常にリアルに感じられるんです。描かれる男の子たちに、『隣にいそうな感じ』が漂っていると思います。セックスシーンもやけにモタモタしていて、そこがおもしろいし、かわいらしいし、リアルに感じられる。男性同士が恋に落ちる、互いに性欲を感じるという感情の動きも、説得的に描かれていると思います。女性ファンももちろん多いんですが、わたしの周囲の男性たちに、非常に人気のある作家さんですよ」

――なるほど。これらの3作品が男子にオススメの作品ということですね。ちなみに、これらを読んで「BLいいかも」と思った場合、今後はどういった基準で作品を選んでいけば良いでしょうか?

金田「BLの好みは、腐女子だけを見ても千差万別なので、一概には言えないのですが、まずは表紙を手に取って、その絵柄が自分に合うかどうかを基準にしてみてはどうでしょう。美麗な少女マンガのような絵柄を好む方もいるでしょうし、反対に、美化されすぎていない絵柄や作風が合う方もいると思います。それと、たいていのBLコミックでは、裏表紙や帯にでカップルの傾向が説明されています。そこで『年下攻め(カップルのうち年下のキャラのほうが、攻め役割である関係性)』『サラリーマン同士』といったカップリングをチェックして、自分がそれに抵抗がないかどうかを確認することも重要かと思います。絵柄とカップリング、この2点を基準にして、自分に合うBLを見つけてもらえればと」

 ということで、金田さんにオススメしていただいた3作品。早速だが、実際に読んでみることにした!

■『ふしぎなともだち』
 確かに本作は、途中で「友情モノ」を読んでいる気持ちにさせられた。オタクな由岐とリア充系の和の関係性は微笑ましく、そして非常にうらやましい。和が由岐に対し、「由岐の話、おもしろいから好きだわ」と言ってのけるシーンは、オタク憧れの名シーンだろう。自分のことを誰よりも理解してくれる人を好きになる。それは異性愛とか同性愛とかの垣根を越えて、ただただ素敵なことである。

■『東京心中』
 これは「このBLがやばい!」で大賞に選出されたときに読んだことがあったのだが、やはりおもしろい!テレビ業界を舞台に、ワンコ系の新米AD・宮坂と先輩ディレクター・矢野のすったもんだを描いた作品だ。最初はヘタレだった宮坂が徐々に成長していくさまは、一種のサクセスストーリーとしても読める。働く男子ならば、確かに共感必至。BLだということを忘れて、宮坂を応援している自分に気づくだろう。

■『鮫島くんと笹原くん』
 こちらは、大学生の鮫島くんと笹原くんの恋模様を描いた作品。どこにでもいそうな二人が繰り広げるドタバタ系の日常は、ギャグ要素もあり、笑いながら読み進めることができる。また、セックスシーンはやたらとモタモタしており、強いていうならば、チェリーボーイがあたふたする感じに似ているかも。そういう意味では、共感できる場面も多く、賑やかな2人の恋愛がこれからもうまくいきますように、と願わざるにはいられない読後感だった。

いずれの作品も、マンガ好きならばすんなりと読めるもの。むしろ、BLという線引きをして読まずにいるのはもったいないだろう。さあ、いまこそ新しい扉を開こうではないか!

取材・文・撮影=前田レゴ

金田淳子さんプロフィール】
社会学研究者。専門はやおい・ボーイズラブ・同人誌。ひげ・めがね・老人・武将・ヘタレ・年下攻が大好物。先日発売された『オトコのカラダはキモチいい』(二村ヒトシ・岡田育との共著)では、男性の性的な器官(アナルや乳首)がBLジャンルでどのように描かれてきたかに関して、独自の歴史観を提示した。