どう生きるか、そして、どう死ぬか――法律を使える「おひとりさま」になるために

暮らし

公開日:2016/5/5


『おひとりさまの法律』(中澤まゆみ/法研)

 突然ですが皆さん、手相占いは信じますか? 個人的な話で申し訳ありませんが、私、左手の生命線が異様に長いのです。手首の付け根から親指と人差し指の間まで、野球のボールの縫い目のように、ぐいっと立派なカーブを描いているのです。たまにしげしげと見つめては、自分は一体、何歳まで生きるつもりなのだろうと思ってしまうことも…。身内にも比較的長寿が多いので、自分はきっと周囲の人を見送ってから逝くのだろう、死ぬ時はひとりなのだろうという漠然とした覚悟を、思春期の頃から抱いていました。

 あなたは、ひとりで死ぬ覚悟はありますか?

おひとりさまの法律』(中澤まゆみ/法研)は、ベストセラーとなった上野千鶴子氏の『おひとりさまの老後』の、続編ともいえる1冊です。『~老後』がひとり暮らしの高齢期をどう生きるかという提案書であるとしたら、この『~法律』は、その案内書といったところでしょうか。自身も「おひとりさま」であるという小西輝子弁護士による監修の下、パートナーとの死別や離婚といった、おひとりさまになる際の注意点から、ひとりで老いるにあたってのお金の話や、病気になった時の手続きに関するポイント、果ては人生の終わり方にいたるまでの、さまざまなルールがまとめられています。

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 タイトルにこそ「法律」とありますが、それほど難解な内容ではありません。関連法を詳細に読み解くというよりも、ひとりで歳を重ねていくにあたって関係しそうな世の中の決まりごとを、ざっくり解説した本といったところでしょう。出版後の法改正により、一部内容については最新のものとは異なりますが、中高年のシングルライフにおける心構えを学ぶには、十分すぎるテキストです。

 ところで、本書を読み進めていくと、パートナーや家族を持たなくとも、大概のことはどうにかなるのだと気づかされます。例えば、病気で入院する際の保証人や身元引受人、手術の承諾書(同意書)へのサインなどは、身内でなくても可能であるということを、皆さんはご存じでしたか? 遠方の親戚をわざわざ呼び寄せなくとも、職場の上司や友人、あるいは、事前に契約したNPO法人などに依頼しても問題ないと、同書では説明されています。

 こうしたルールは、おひとりさまの当事者にとっては心強いもの。子どもやパートナーがいなくても、親戚との交流が途絶えていても、助けてくれる友人がいればどうにかなるものだと知っていれば、それだけで気持ちは楽になるはずです。まさに、遠くの親戚より、近くの他人。日頃の友人づくりの大切さについても、再考するきっかけになりそうですね。

 しかし逆にいえば、周囲のおひとりさまがそういった場面に出くわした時には、あなたが突然頼られる可能性もある、ということでもあります。これは入院時の諸々に限ったことではありません。時には、任意後見人のような責任の重い役目について、相談を持ちかけられることもあるでしょう。親しい間柄であれば引き受けるという選択もアリかもしれませんが、頼まれるがまま承諾してしまっては、後々思わぬトラブルに巻き込まれるケースも…。

「気乗りはしないけれど、親しい間柄なので無碍にすることもできない」「すべてをサポートすることはできないけれど、自分にできる範囲で助けてあげたい」――そんな時は、自分の代わりにその人の力になってくれそうな機関などを紹介し、専門家へ繋ぐというかたちでサポートするのも、ひとつの方法です。本書には、生活上の色々なトラブルに関する相談先や、支援をおこなう民間団体などの情報も掲載されていますから、そのような場面においても役立つことでしょう。

 非婚化・高齢化が一層進む今、自らが「おひとりさま」になる可能性、そして、親しい人が「おひとりさま」になる可能性は、日に日に増しているはずです。高齢期なんてまだ先だよと笑っていらっしゃる方も、本書に挙げられているようなトラブルの例を読めば、思わず背筋が伸びることでしょう。明日かもしれない「いつか」に備えて、ひとりで生きる心構えを、あなたも学んでみませんか?

文=神田はるよ