直木賞受賞・佐藤究の『テスカトリポカ』が重厚感ましましでコミカライズ。容赦ない生々しい表現に戦慄せよ…!【書評】

マンガ

PR 公開日:2026/4/14

テスカトリポカ
テスカトリポカ(佐藤究:原作、菊地昭夫:作画/KADOKAWA)

 人類の歴史を振り返ると、宗教と暴力は切り離せない関係にある。とりわけ古代の儀式は、残酷さが伴うことも少なくない。神へ捧げるために命を奪う。そんな行為と、現代の臓器売買が結びついたとしたら。『テスカトリポカ』(佐藤究:原作、菊地昭夫:作画/KADOKAWA)は、信仰と暴力、そして資本主義の闇が混じり合った、まさに怪作だ。

 メキシコの麻薬カルテルを牛耳るバルミロ・カサソラ。抗争で組織も家族も失い、ジャカルタへと逃亡した彼は、日本人の末永充嗣と出会う。かつては心臓血管外科医だった末永だが、今や臓器売買のコーディネーターとして裏社会に身を落としていた。利害の一致から行動を共にするようになった二人は、やがて「高品質の心臓」を商品とする臓器売買ビジネスに乗り出していく。

 原作は佐藤究による長編小説。第165回直木賞と第34回山本周五郎賞をダブル受賞し、選考委員に「真に傑作と言うほかない」と言わしめた話題作だ。作画を手がけるのは、重厚な描線と迫力ある人物描写で知られる菊地昭夫。本作を手に取った読者はまず、容赦ない暴力描写に目を奪われるだろう。麻薬カルテル同士の抗争、人体を破壊する拷問、息を飲む間もなく行われる殺人。その生々しさは、ページをめくる指から痛みが伝わってきそうなほど。だが、残酷さだけで終わらないところに、本作の魅力がある。

 主人公・バルミロの行為は、アステカの神へ捧げる「供犠」の作法をなぞっている。彼はアステカ戦士の血を引く者として、神話や儀式を教えられて育った。アステカにおいて心臓は、神に捧げるべき「赤く光る宝石」だ。その価値観が、バルミロには根付いている。無秩序で野蛮な暴力の内側に潜む信仰。この歪さが、得体のしれない不気味さとなって読者を襲う。

 心臓を「生贄」として見るバルミロ。そんな彼に心臓売買のビジネスを持ちかけた末永は、命を救うための技術を、命を解体するために使う人物だ。彼の登場により、相反する宗教と資本主義が、心臓という一点で交差する。

 メキシコから始まった物語は、インドネシアを経て、3巻で日本へと流れつく。舞台となるのは川崎。遠い異国の裏社会の話を読んでいたはずが、いつの間にか日常のすぐ隣へと侵食してくる。その感覚に、思わず背筋が冷えるだろう。

 日本で新たに登場するキーパーソンが、メキシコ人の母とヤクザの父を持つ少年・土方コシモだ。荒れた家庭環境で育ち、他者とのつながりをほとんど持たずに生きてきた彼は、盗みや暴力に対しても善悪の価値観を持たない。その無邪気さと危うさは、どこかバルミロと通じ合うものがある。

 印象的なのは、母親にわがままを言って強く叱られる場面。「ダメよ」と正面から向き合われたとき、コシモはどこか嬉しそうな表情を見せる。ほんの一瞬の描写だが、愛情を知らずに育った彼の孤独が、苦しいほど伝わってきた。そんな純粋かつ欠落した少年が、心臓売買のビジネスとどう結びついていくのか。

『テスカトリポカ』待望の第3巻は4月14日発売。読み進めるほどに、底なしの深淵へと一歩、また一歩と引きずり込まれていく。その没入感を、ぜひ味わってみてほしい。

文=倉本菜生

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