荒木飛呂彦の傑作デビュー作『魔少年ビーティー』のスピンオフを西尾維新×出水ぽすかが描く!『魔老紳士ビーティー』【書評】
更新日:2026/7/6

荒木飛呂彦の「週刊少年ジャンプ」初連載作『魔少年ビーティー』(集英社)は、1983年に発表された。平凡な小学生・麦刈公一の前に現れた不思議な転校生・ビーティーが巻き起こすピカレスクロマンだ。ビーティーの言動はいつも奇天烈で、トリックを使って無邪気に悪事を働いていたり、それゆえ公一を困らせたりしているようにも感じられる。しかし、そこには彼なりの熱い正義と厚い友情があり、スカッとした読後感を残してくれる。また、彼らの前に立ちふさがる不条理な出来事や、どこか憎めないヴィランたちの存在は、のちの荒木飛呂彦氏の代表作「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズ(以下、「ジョジョ」)の世界観を彷彿とさせ、今なお初期の傑作として多くのファンに愛されている。
この『魔少年ビーティー』を原案に、彼らのその後のエピソードを描いたスピンオフ作品『魔老紳士ビーティー』(西尾維新:原作、出水ぽすか:作画、原案:荒木飛呂彦/集英社)がまもなく発売される。手がけたのは、小説『JOJO’S BIZARRE ADVENTURE OVER HEAVEN』で「ジョジョ」ファンを狂喜させた西尾維新(原作)と、『約束のネバーランド』で知られる出水ぽすか(作画)。2人は2021年のウルトラジャンプでの掲載を皮切りに、これまでに幾話も読み切りを発表。本作はそれらをまとめた待望の一冊となる。
高鳴る気持ちを抑えてさっそく本を開いてみたところ、早くも1ページ目でやられた。そこには、原作の少年時代から60年が経ったビーティーの姿が描かれ、顔の横には〈我われはこの老人を知っている!〉の文字が。そう、「ジョジョ」の第2部第1話「ニューヨークのジョセフ・ジョースター その①」の1コマ目と同じ文言なのだ。さらには、石仮面や三角模様のバンダナなど見覚えのあるアイテムがちりばめられ、のっけからオマージュにあふれたカットに感涙しそうになる。

第1話「そばかすの不気味老害事件の巻」は、余生を過ごす公一が詐欺集団に騙され、無一文になったところから物語が始まる。なお、このタイトルは『魔少年ビーティー』の最終話「そばかすの不気味少年事件の巻」からの引用。かつてビーティーとの勝負に負けたそばかす少年との時を経ての再対決でもあり、2人の戦いは残りのエピソードでも連綿と描かれていく。
また、同じく第1話では、公一が35歳のときにビーティーをモデルにした小説『魔少年ビーティー』を出版していたことも明らかとなる。2人の友情を物語にしていた公一の姿にほっこりするも、その刹那、なんと彼の口から、小説の表紙を描いたのが岸辺露伴だという情報も飛び出す。驚くのはそれだけではない。公一が詐欺集団に法外な値段で買わされたボロ家の住所が杜王町(「ジョジョ」第4部・第8部の舞台)の郊外だったりと、作品を超えたなんとも心憎い演出が細部にわたって展開されている。
ほかにも、“魔好青年”と呼ばれていた若き日のビーティーがラスベガスのルーレットでイカサマを見破るエピソードや、荒木飛呂彦短編集『ゴージャス☆アイリン』のヒロインであるアイリン・ラポーナとの邂逅を描いた物語、さらには同じ『ゴージャス☆アイリン』内にある「バージニアによろしく」をもじった「婆シニアによろしく」など、さまざまな年代のビーティーの活躍を描いた短編を収録。

刺激的でユーモラスな物語たちを楽しむのはもちろん、ぜひとも荒木飛呂彦マニアの方々にはここで紹介しきれなかった数々の小ネタを見つけて、口元をニンマリとさせてもらいたい。
文=倉田モトキ
