「既婚者向けのマッチングアプリなんて、倫理的にどうなの?」登録者数増加中の「ヒールメイト」代表が語る、孤独な既婚者女性への思いとは【書評】
PR 公開日:2026/6/19

いまどき「結婚すれば幸せになれる」なんて幻想かもしれない。「結婚しているのに孤独を感じる」「妻で母だけなの? 私だってひとりの人間なのに」――そんな思いを抱えながら日々をやり過ごしている女性たちは決して少なくないという。実際、既婚者向けのマッチングアプリが急拡大中なのも、もしかすると「ひとりの人間としての自分」を取り戻したい女性たちの気持ちの表れなのかもしれない。
『46歳、妻、子ども2人。既婚者マッチングアプリをつくる』(講談社)は、そんな既婚者向けマッチングアプリのひとつ「Healmate(ヒールメイト)」の代表・磯野妙子さんが著者。看護師として10年働いたのちに結婚、家族のために懸命に生きてきたという彼女は、タイトルにもある通りお子さんもいる既婚者で、もともと結婚願望が強く、両親の教えもあって「結婚したら一生添い遂げるもの」と思っていたという。なぜそんな人が既婚者の出会いの場を作るにいたったのか。本書にはその舞台裏が正直につづられている。
磯野さんの人生に変化が訪れたのはお子さんの小学校受験がきっかけだった。よき母として「できることはなんでもやる」と受験対策に熱心に取り組んでいた熱意を、夫は「やりすぎ」と否定。意見の食い違いは次第に深刻化し、彼女は自分の存在意義まで見失ってしまう。ついには離婚を決意するが、経済的不安、子どもの将来、社会の目…なかなか実現するにはハードルが高かった。そんなときに磯野さんが出会ったのが「既婚者マッチングアプリ」だった。離婚前に精神的に頼れる相手と出会えるかもしれない――そんな切実な思いでアクセスした彼女を待っていたのは心をさらに傷つける欲望丸出しの地獄だった。
磯野さんのすごいところはそこで諦めないところだろう。マイナスの経験から「同じ境遇の人とつながりたい。誰かに理解してほしい」との思いをより強くした彼女は、自分と同じような悩みを抱える人が安心してつながれる場所を自分の手で作ることにした。それが「Healmate」なのだ。
既婚者向けのマッチングアプリなんて、倫理的にどうなのか――そんな言葉はこれまで何度も投げつけられてきたという。だが、かつての自分と同じように、結婚という制度に深く傷つきながらも先に進めない多くの女性たちがいることに気がついた磯野さんには、「彼女たちを救う」という強い思いがあるから揺るがない。センシティブな状況でも安心して利用できるにはどうすればいいか、細かいところまで配慮したアプリ設計の道のりも本書には詳しい。一般の婚活サービスでも珍しいほど豊富なプロフィール欄やメッセージ機能の充実といった設計面での工夫だけでなく、「安全な場所にする」「誰も傷つけない」覚悟で運営自らがルール違反、マナー違反にも徹底して厳しく対応してきた。実際に登録者数が増加の一途というのは、そうした配慮がリアルに必要とされていたということだろう。切実な心情を共有する場も自然に生まれ、同じ悩みを持つ者同士の交流も盛んに行われているという。
経済的にも離婚は無理。自分が我慢さえすればいい…そんなふうに自分の人生を諦めているとしたら、自ら傷つき苦しみながら未来を作ってきた磯野さんの生きる力が背中を押してくれることもあるだろう。「自分は本当はどうしたいのか」を見つめるきっかけにもなるかもしれない。
文=荒井理恵
