一歩踏み出す勇気をくれる物語。言葉を閉ざした男子高校生と、夢を描けなくなった女子大生の再起を描く『かくいう僕らは』【書評】

マンガ

PR 公開日:2026/8/10

かくいう僕らは
かくいう僕らは(佐月ハレ/スターツ出版)

「選択」はいつも少し怖い。とくに将来や進路に関する選択は、その先の未来に影響を及ぼすからだ。そして日常の中でも、私たちは常に選択をしている。どの言葉を選び、相手に伝えるかによって、その後の会話や関係性が変わることもあるだろう。一度でもその選択によって傷ついたり、傷つけてしまった経験があると、選ぶことへの恐怖は増すばかりだ。だが、選択は怖いだけのものではない。ふと選んだ言葉や、誰かとの関わりが、自分自身を大きく変えるきっかけになることもあるのだ。

かくいう僕らは』(佐月ハレ/スターツ出版)は、過去のトラウマから言葉を閉ざした男子高校生と、選択を迫られ夢を描けなくなった女子大生が、自分のための道を「選ぶ」物語だ。不器用なふたりだからこそ、対話がお互いに良い影響を及ぼし合い、それぞれにとっての最適な道を模索していく。

 高校1年の終わり。誰とも深く関わらずに過ごしてきた男子高校生・つむぐ。読書が好きで、言葉を大切にするからこそ、クラスメイトの軽口を受け流せず、それがトラウマになってしまった。

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 ある日つむぐは、公園で絵を描く女性・さとこと出会う。さとことの会話の中で、ふと自分の口から出た言葉に、過去のトラウマから「余計なことを言ってしまった」と後悔する。だが、さとこから返ってきたのは「君の言葉が嬉しかったんだよ」という言葉だった。自分の言葉を肯定してくれる人に出会ったことで、つむぐは俯いてばかりだった高校での生活を変えることを決意する。

 一方、さとこもまた、不安を抱えていた。美大3年生になるさとこは、将来について思い悩んでいる。つむぐや周りからすれば「大人」と呼ばれる年齢になったという事実が焦りを生むが、心が追いつかない。好きだったはずの「絵を描くこと」も、心から楽しめなくなっていた。そんなとき、高校生活に真摯に向き合うつむぐの姿が、さとこの心を揺さぶったのだ。

 自分の好きなことに向き合うこと、そして自分の言葉と向き合うこと。少しだけ前に進めたとしても、まだまだ悩みは尽きない。だが、つむぐとさとこは対話し、本当の気持ちを確認することで、それぞれが自分に最適な方向へ、少しずつ進んでいく。

 つむぐとさとこの言葉は、読者の心もそっと揺さぶる。誰しも、口に出せなかった思いや、見て見ぬふりをしてきた本音があるだろう。ふたりが目の前の壁に立ち向かう姿が、自分自身の隠れた本音と向き合うきっかけになるはずだ。

 自分の「選択」に迷ったとき、そして一歩前に進むことを怖いと感じたときに、ぜひ本作を手にとってほしい。迷いながら、ときに間違いながらも、真っ直ぐに自分の気持ちに向き合うつむぐとさとこの物語が、きっと優しく背中を押してくれるだろう。

文=ネゴト / くるみ

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