最強の剣士と最凶のイカサマ師――滅亡の未来を覆す凸凹バディの領地再建ファンタジー『厄病神の覇道戦略』【書評】
PR 公開日:2026/9/4

最強の剣士と、最凶のイカサマ師。まったく噛み合いそうにない二人が手を組んだとき、滅亡へ向かう国の未来はひっくり返せるのか。画面をスクロールすれば、悪党を出し抜く爽快感と、二人がふと見せる意外な優しさに、すぐに心をガシッとつかまれてしまった。
そんなコミックが『厄病神の覇道戦略』(武藤射手座:原作、軍鶏左衛門:キャラクターデザイン・構成、シブリンガル:線画、Whomor:制作/LINEマンガ)。剣士とギャンブラーの凸凹バディが、破産寸前の辺境伯家を立て直そうとする異色のファンタジーだ。
3年後、国は滅亡する――未来を知る使用人の選択
主人公は、レオニアス辺境伯の使用人・アルファ。実は、彼の前世は、闇カジノで「厄病神」と呼ばれたイカサマギャンブラー。荒稼ぎの末に恨みを買って命を落としたアルファは、転生後の刺激も争いもない生活を気に入っている。

だが、転生時から手元にある歴史書には、この国が3年後、隣国の侵攻を受けて滅亡するという未来が記されていた。主人のシグマも、やがて「大陸最強」と呼ばれる剣士になりながら、停戦のための生贄として処刑されてしまうらしい。アルファは、戦争が始まる前に他国へ逃げたいと考えていた。
ところがある日、アルファは、シグマが叔父・ミドから怪しげな儲け話と資金の貸し付けを持ちかけられ、借金の証文を交わそうとしているところに出くわす。シグマは「氷血の斬首伯」と恐れられ、単騎で千人を超える敵兵を倒した皇国屈指の剣士。しかし、領地経営や金の駆け引きにはまるで疎い、いわば「剣術バカ」だ。きな臭い話を簡単に受け入れようとするシグマを黙って見ていられず、アルファは思わず口を挟む。しかも、彼の前には、ゲーム画面のような謎の「ベットチップシステム」まで現れて……。

勝率96%でも勝てない? 相手の心理を操るイカサマ
借金を阻止するため、アルファはミドにある賭けを持ちかける。それは、アルファがマッチ箱ほどの小箱を5つ並べ、ミドがその中から銅貨入りの箱を選ぶというもの。4つが銅貨入りの当たりで、空箱は1つ。2回のうち一度でも当たりを引く確率は96%。2回とも外れなら借金の話は白紙になるが、1回でも当たりを引けば、アルファは左腕を切り落とされるという条件だ。
どう考えてもミドに有利なのに、アルファはどうしてこんなにも余裕ありげな表情を浮かべるのだろう。

目を見張るのは、アルファのイカサマの鮮やかさだ。箱を入れ替える手さばきも見事だが、彼が本当に操っているのは、箱ではなくミドの心。自尊心をくすぐり、数字で安心させ、わざと怪しい手の動きを見せる。ミドは空箱の位置を見抜いたつもりで、まんまとアルファが選ばせたい箱へ手を伸ばしてしまう。自分で考え、自分で選んだはずなのに、その判断まで仕組まれていたとは。相手の欲や傲慢さをここまで鮮やかに逆手に取る手口には、思わず唸ってしまう。
恐ろしい異名とは裏腹に――二人が見せる意外な優しさ
そして、この勝負をきっかけに、アルファはシグマの専属従者に任命される。そんな彼らは、どちらも意外なほど優しい。たとえば、「氷血の斬首伯」と呼ばれるシグマは、実は領民のことを第一に考える領主。彼の領地では、冷害が続き、農作物の収穫量は例年の半分にも満たず、食べるものに困る領民も少なくない。
だから、シグマは領民から税を取らず、皇国への上納金や軍の維持費も自分の蓄財で支払っていた。そのせいで辺境伯家は破産寸前なのだが、本人は「領民は家族なのだから助けて当然」と言い切る。冷徹な人物かと思いきや、実際はあまりにもまっすぐで、情に厚い。

一方、アルファもまた、面倒事は御免だと言いながら、領民の窮状を見過ごせない。ミドの商会が油や塩、薬などの生活必需品を法外な値段で売り、領民を苦しめていると知れば、それに対抗する方法を考える。前世では多くの人を破滅させたイカサマの腕が、今世では誰かを助けるために使われていく。その変化にどうしてこんなにもワクワクしてしまうのだろう。
シグマ×アルファ、凸凹バディの行く末は?
剣術では無敵でも策略に弱いシグマと、腕力はなくても人の欲や嘘を見抜くアルファ。できることがまるで違うからこそ、2人で組めば強い。それに、できることは正反対だが、自分を犠牲にしてでも目の前の人を放っておけないところは、彼らは本当によく似ている。何より気になるのは、国を救う気などなく、逃げるつもりだったアルファが、シグマや領民とどう関わっていくかということ。そして、アルファは、シグマを待ち受ける悲惨な運命まで変えられるのかということだ。

イカサマ勝負のドキドキ感、知恵で領地を立て直す痛快さ。さらに、この危なっかしい二人がどんな手で窮地を切り抜け、どんなコンビになっていくのかも楽しみでしかたない。歴史書に記された滅亡の未来を変えることはできるのか。あなたも、この凸凹バディの行く末をぜひとも追ってみてほしい。
文=アサトーミナミ
