「自分の物語が壊れてしまったら、僕たちはどうすればいいのだろう」『この世界にiをこめて』佐野徹夜インタビュー

マンガ

公開日:2017/11/11

第23回電撃小説大賞で大賞に輝いた『君は月夜に光り輝く』でデビュー。同作はみるまに20万部の大ヒットとなったメディアワークス文庫期待の新星・佐野徹夜、待望の最新作が刊行された。「物語を書くこと」を共通点として出会った少年少女を描く本作に込めた想いを伺った。

佐野徹夜さん

佐野徹夜
さの・てつや●1987年、京都出身。会社員を経て本格的に小説を執筆しはじめ、2016年、『君は月夜に光り輝く』が第23回電撃小説大賞《大賞》を受賞。同作は20万部を突破するベストセラーとなり、本作は待望の第2作目。

 

壊れた物語を立て直す方法を差し出すのが小説家の仕事

生きづらさを抱えて生きる〝僕〟が唯一、生を実感できるとき。それは夭折した作家にして女友だち、吉野紫苑にメールを送っているときだけだった。死んだはずの吉野からメールが返ってきて、それを境に平坦な日常が揺らぎはじめる……。

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「前作を上梓して、この先自分は作家としてどう生きていったらいいのだろうと考えました。人間は生きているとき、どこか物語を生きているようなところがあると思うのです。例えば仕事をバリバリしている自分の物語という具合に、人それぞれで色々な物語がある。だけどそれが壊れる瞬間というのもあって、そんなとき人はパニックに陥ったり壊れたりもします。そこで思いました。自分の物語が壊れてしまったら、僕たちはどうすればいいのだろう?と」

壊れた物語を立て直す方法―それを差し出すのが小説家の仕事であると語る。

「染井は小説を書くことを自分の使命としていますが、自分自身の物語も壊れている状態です。彼が自分の物語を見つけ直そうとする姿を書くことで、誰の心にも響く普遍的な悩みを描くことができるのではないかと考えました」

彼の心に消えない傷を刻んで死んだ早熟の天才作家・吉野。二人の関係は友情と羨望と嫉妬、愛憎が入り混じり、独特の緊張感が漲っている。

「天才が身近にいたら、その人と同じ分野でプロを目指している者にとってはきついですよね。僕自身ずっと作家志望者でしたが、大学時代に先にデビューを叶えた漫画家の友人を複雑な気分で眺めていました。プロを志す者同士だからこそ狎れ合ってはいけない時期というのは確かにあって、そんな実体験や感情が染井に反映されています」

一方、吉野もまた人を愛する感情が分からなくて苦しんでいた。物語は次第に愛を軸として、恋愛や青春というジャンル小説を逸脱し、メタフィクションの様相を呈してゆく。
「題名の〝i〟とは虚数、想像上の数なのですが、虚数があることで数学という学問体系は成り立っているところがあるんですね。それと同じように、小説があることによって僕たちの生きるこの現実世界は成り立っているのではないか。そんな思いを込めました」
本作は『君は月夜に光り輝く』の精神的な続編という。

「前作は女の子が死んでいく物語でした。本作は、大切な人に死なれた者がその死を乗り越えて生きていこうとする物語です。テーマ的にも自分自身にとっても、一歩前に進むことができたように感じます」

取材・文:皆川ちか 写真:高橋しのの

イラストレーター・loundraw氏、絶賛!
これは、創作という憧れに触れてしまった少年少女の物語です。関わり方はどうであれ、僕たちの人生を大きく変えうる力をこの小説は持っている。恐怖や焦りを感じても前に進んでしまうのは、まだ見ぬ美しさの幻影を追いかけているからなのかもしれません。
今まさに人生の岐路にたっている人、挑戦を決意した人、悩める全ての「創作者」に読んで欲しい物語です。

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