再び『Fate』とめぐり合い、確かめたものとは。新曲“ASH”を語る――LiSAインタビュー(前編)

エンタメ

2017/11/29

 2011年11月23日。LiSAはTVアニメ『Fate/Zero』のオープニング主題歌『oath sign』で、アーティストとしてデビューを果たした。セールスは10万枚に到達、ゴールドディスクを獲得し、1stシングルとしては破格の大ヒットなった。実際、今聴いても“oath sign”におけるLiSAの歌唱は圧倒的だし、映像や作品世界とのマッチングも含めて、アニソンに求められる条件を完璧に満たしているのだが、力強くも荘厳な曲調を持つ“oath sign”は、LiSAの音楽的ルーツとは趣きが異なることも事実で、本人いわく「自分のものにして歌えるまでに、時間がすごくかかった」楽曲でもある。しかし今、6年ぶりに『Fate』シリーズと邂逅した最新シングル『ASH』で、LiSAは楽曲を自然に自らの中に浸透させ、完全に「LiSAの歌」としてアウトプットすることができている。その違いとは何か――インタビュー前編では、“oath sign”を乗り越えた過程と、アニメタイアップ楽曲の芯をとらえるLiSAの、LiSAにしかできない、LiSAならではのアプローチに迫った。後編では、この秋行われたホールツアーと充実の2017年を振り返ってもらったので、あわせて読んでみてほしい。

『Fate』という作品にお土産を持って帰ってこられた感じは、すごくしてます

――新曲“ASH”、めちゃくちゃカッコいい曲になりましたね。すでにツアーでも歌って自分の中にも浸透してきてると思うんですけど、まずは曲が完成して、感じたことを話してもらえますか?

LiSA:『Fate』に関わるときって、どちらかというと自分を投影した楽曲というよりも、作品に寄り添う楽曲作りをしている気がしていて。それを“oath sign”でやったんですけど、6年経って――言葉はよくないんですけど、“oath”ってわたしにとってはけっこう鬼門だったんです。この曲をきちんと自分で昇華して、歌って、自分のものにして歌っていくまでに、時間がすごくかかっていて。その後に作っていった曲たちに自分を投影しすぎちゃってたこともあって、“oath”にはちょっとコンプレックスがありました。 “oath”を「ちゃんと自分の楽曲にできたなあ」って認識できたのは、ほんとにここ2年くらいで。

――けっこう最近ですねえ。

LiSA:そうでした。今は、作品のための楽曲を、ちゃんと自分の楽曲として歌うことができるようになったというか。曲の中から答えを見つけることは今までも得意だったけど、“oath sign”を他の楽曲と並べたときに、LiSAとして同じくらいの熱量で歌える自信がなかったんです。でも、それを昇華できるようになって、今だったら自分にすごく重ねることができるし、自分自身として歌える曲だなあ、と思います。“ASH”も、楽曲をもらったときに「すごくカッコいいな」と思いつつ、音符がめちゃくちゃ並んでる曲がわたしの強さだと思っているので、“ASH”のように音符があまり多くなくて歌詞も短い楽曲をどうやって歌おうかなあってすごく考えたんですけど、歌詞の中に《信じることでしか 強くなれない》っていうフレーズを見つけたときに、「この曲はLiSA自身として歌えるな」って思いました。

――『Fate』との関わりで言うと、2014年の『Fate/stay night』の挿入歌で“THIS ILLUSION”という曲を担当してたじゃないですか。この曲は、どういうものとして残ってるんですか。

LiSA:わたしにとって始まりの楽曲として『Fate/Zero』のアニメのオープニングっていう大役をいただいたんですけど、それまでにも『Fate』は一回アニメ化されていて(2006年放送のTVアニメ『Fate/stay night』)、“THIS ILLUSION”も『Fate』が好きな方からすると「お前よりも先に知ってるよ」っていう、象徴的な曲なんですよね。前作アニメのオープニングの“disillusion”へのリスペクトもたくさんある中で、「その大役をわたしが務めてもいいんでしょうか?」っていう気持ちもありつつ、『Fate/stay night』っていうみんなが好きな作品に自分が関わらせてもらえる、そして大事な曲を歌わせてもらえるっていう役目をもらえたことが、すごく嬉しかったです。

――“oath”は1stシングルであって、ある意味右も左もわからない状態として出てきて最初に歌った曲であり、2年前にようやく自分のものにできた、と。つまり4年活動してきて、ようやく自分の中に浸透したということになるわけですけど、ステージで歌うときの感覚はどう変わったんですか。

LiSA:楽曲を通して作品に関わらせてもらうときに、わたしにとっては関わる理由が必要なんです。嘘をついて歌うことができないので、『Fate』と関わるときも、もともと『Fate』が好きな人にちゃんと届けられる理由として、「わたしも、みんなほどの知識はないけど、愛情は一緒だよ」って思っていたし、『Fate』のことがすごく好きなんだっていう気持ちと、すごいんだっていう気持ちを大事にしようと思ってました。だけど当時は、“oath sign”という楽曲自体がそれまでに歌ったことがないタイプの曲だったので、「ほんとにわたしでいいんだろうか?」みたいな気持ちはすごくあって。もともとガルデモ(Girls Dead Monster)で積み重ねてきたものを評価していただいたっていう経歴があったので、違うタイプの曲を歌うのが怖かったんですね。ガルデモの曲はわたしの中でアヴリル・ラヴィーン的なポップな部分があると思ってたんですけど、“oath sign”はほんとに知らない世界の楽曲という感じで、最初はどう歌ったらいいのかわからなくて。「わたしはこういう楽曲が得意、不得意」って、決めつけてたんですね。“oath sign”は、楽曲として個人的に大好きだし、アニメにも合っていると思うし、それをたくさんの人が喜んでくれて、10万枚も売れるっていうすごいことが起きて。好きでいてくれる人がたくさんいるんだったら、わたしにはこの曲を歌う使命があるし、歌うことによって喜んでもらえたらいいなって思ってたのが、リリース直後の感じ方でした。でも、“oath sign”はやっぱり自分の中で得意な曲ではなかったので、初めての武道館(2014年1月。のどの不調により、思うように声が出せない曲があった)のときも、一番つらかったのが“oath sign”で。その後、しばらくの間“oath”をほとんど歌わなくなったんですよ。ほんとに怖くて。だけど……なんで吹っ切れることができたのか、明確な出来事として記憶があるわけではないんですけど、自分の中で乗り超えたときに、自分の得意分野ではない曲だったとしても、それも魅力のひとつなのかなって認められるようになったんです。自分が勝手に不得意だと思ってたけど、これはこれで自分に自信を持っていいのかもしれない、自分のひとつの得意分野としてあってもいいのかもしれないって。

――自信が持てるまでそれだけ時間がかかった曲って、たぶん“oath sign”くらいですよね。

LiSA:うん、“oath”しかないですね。

――ただ、今はしっかり乗り越えて、自分のものにしている。だからこそ、6年経ってまた巡り合えたんですよね。そもそも、ある曲でスタートした人が、同じシリーズのアニメで6年後にまたタイアップで関われるって、そうそうあることじゃないと思うんですよ。

LiSA:そうですね。まず、6年後も同じ作品がたくさん愛され続けていることも素晴らしいですし、わたしもずーっと活動を続けてきた中で、置いてかれないようにちゃんとステップアップできていて。こうしてまた関わることができているのは、すごいことだなって思います。

――この6年の間に、『Fate』っていうブランド自体はものすごく巨大化したと思うんですよね。だから、『Fate/Zero』のときに歌っていたアーティストが同じくらいの規模で活動していたり、勢いを失ったりしていたら、今はないわけで。でも、実際「『Fate』はあなたにお願いします」って6年後に言われている。“oath”の頃はLiSAというアーティストにとって『Fate』はとてもデカい存在だったかもしれないし、実際今もデカい作品だけど、今度は恐れずに向かっていくことができている、というか。

LiSA:そうですね。今、お話を聞いていて思ったんですけど、それこそTOTALFATさんと何かを一緒にやることとかと似てる気がします。地元の岐阜にいた頃はわたしが弱小すぎたので(笑)、「TOTALFATと一緒にやりたい!」なんで言える立場じゃなかったけど、でもTOTALFATの音楽はすごく好きで、わたしはわたしでアニメのフィールドで活動を頑張ってきたのちに楽曲を提供してもらうことができて、また同じステージに立つこともできて。そういう感覚と似てるかもしれないですね。

――今までのLiSAというアーティストは、楽曲を自分のものにすることで魅力を付加して届けてきたじゃないですか。で、当初は『Fate』とはそういう関係性を築けていなかったけれども、今は自分の歌として歌うことができるし、“ASH”はそれを感じさせる曲なんですよね。でも、それはたまたまそうなったのではなくて、6年間でやってきたことがすごくつながってる。つまり、これまでやってきたことが何も間違ってなかった、こういうふうにやってきてよかったんだっていう手応えを、この“ASH”を歌うとすごく感じられるんじゃないかって思うんですけども。

LiSA:そうですね。わたし自身も、それを意識的にはできてなかったですけど、感覚的にはそういうことを感じていて。“ASH”は「すごくカッコいいでしょ」って胸を張って言えるし、『Fate』という作品にも、お土産を持って帰ってこられた感じは、すごくしてます。

大事に作った大好きな楽曲を、大好きな作品を、大好きな人たちに楽しんでほしい。みんなも、それを信じてくれてる

――今回、“ASH”はLiSA本人作詞ではなく、内容的にも『Fate』感のある言葉が並んでるけど、聴きながら読んでいくと「LiSA的な歌詞だなあ」と思わせる箇所がいくつもあると思うんですよ。たとえば、《信じることにさえ 臆病になった》とか。

LiSA:そうそう。この《信じることにさえ 臆病になった》と《信じることでしか 強くなれない》っていうフレーズも、「この曲をLiSAとして歌えるな」と思った部分ですね。一方で、《欠片》とか《雨の雫》とか《黒い夜明け》っていうフレーズは、すごく『Fate』っぽい言葉だなあ、と思います。

――確かにそこは『Fate』っぽいけれども、聴けば聴くほど「LiSAっぽいな、この曲」ってすごく思うというか。逆に言うと、『Fate』でさえLiSAっぽい曲にしてしまうのか、という衝撃が(笑)。

LiSA:(笑)わたし、『Fate』のことがすごく好きなんだと思う。自分の中に持っているものの中に、『Fate』っぽいものもあって、だからすごく『Fate』っていう作品が好きなんだと思います。

――10月の川崎のライブで、『Fate』について説明したMCがあったじゃないですか。「誰もが手に入れたいものがあって、そのために頑張ってる」みたいな。でも実際、『Fate』って複雑な作品だし、『Fate』を解釈して歌に気持ちを乗せていくのは、本来的には簡単なことではないのかな、と思うんですよ。だけど川崎のMCを聞いていて、「やっぱりこの人は作品を解釈するのが上手いんだな」って思って。なんだろう、言葉を選ばずに言うと、「この複雑な作品を、よくこんなシンプルに考えられるな」みたいな(笑)。

LiSA:あはは! だから言ったじゃないですか、「『Fate』を好きな人には怒られるかも」って(笑)。

――(笑)でも、それもやっぱり、曲を自分のものにする力のひとつなんだろうなあって思うんですよね。で、その力を持ってるからこそ、今があるんだなっていう。

LiSA:なんか、人を好きになる感覚と似てるのかも。作品の共感性とか、自分と似た部分を探したり、自分にとって好きなところを探したり、人と関わる上でその人のことを好きになって仲良くなるのと、探し方は一緒なのかもしれないです。最近、いろんなことって実はシンプルなんだなって思うんです。側(ガワ)にある言葉選びも、すべてその人の世界観でしかなくて、大事なことや伝えたいことって、だいたいみんな同じなんじゃないかなあって。ジャンルが全然違っていても、言ってることはみんな一緒で、好きな世界観や好きな伝え方がどれなのか、ということなのかなって思います。

――“ASH”や『Fate』へのアプローチで言うと、伝え方はとてもシンプルだし、大事なことをしっかり作品から受け取って、曲に投影できている。そしてそれこそが、お客さんに浸透する一番の要素なんですよね。だけど、それは今始まったことじゃないのかな、とも思うんですよ。これまでの6年間で自然にやってきたこと、「こうしたらより曲が愛されるものになる」っていう伝え方を本能的に知っているからこそ、“ASH”もちゃんと伝わる曲にできたんじゃないかなっていう。

LiSA:うん、そうですね。やっぱり、わたしはライブの場で自分が作った曲をみんなに愛してほしいし、みんなに楽しんでほしいし、「こんなに楽しいんだよ」って教えてあげたいし、曲の素晴らしさを伝えたいです。自分が好きな人のいいところをいっぱい話したい、みたいな感じ。大事に作った大好きな楽曲を、大好きな作品を、大好きな人たちに楽しんでほしい。みんなも、それを信じてくれてるんだと思います。

――“ASH”を聴くと、作品のコアにある部分をちゃんと見つけて、その磨き方もより得意になった手応えはすごいあるんじゃないかなって感じはしますね。ずっと同じことをやってきているけれども、これだけ“ASH”を自分のものにできたことは自信につながるだろうし。

LiSA:そうですね。あとは、聴いてくれるみんなも楽しもうとしてくれてるし、楽しみ方だったり盛り上げ方を知ってくれてるので、それも心強いなって思います。

取材・文=清水大輔 撮影=中野敬久
スタイリング=久芳俊夫 ヘアメイク=田端千夏