超絶テクの動画が世界で拡散! ネイマールや日本代表選手と共演の“ドリブルデザイナー”の凄さに迫る

スポーツ・科学

2019/7/5

 超絶テクのドリブルを解説付きで披露するYouTubeチャンネルは、登録者数が約21万人。その動画は世界中に拡散され、原口元気選手、乾貴士選手からネイマール選手まで、日本や世界のスター選手たちと共演を果たしてきたドリブルデザイナー・岡部将和氏。世界でも例のない“ドリブル専門の指導者”という仕事を通じて、彼は何を行い、何を目指しているのか。初の著書『ドリブルデザイン 日本サッカーを変える「99%抜けるドリブル理論」』(東洋館出版社)の内容も交えたインタビューをお届けする。

体格に恵まれなかったからこそ生まれた
相手に触れられない「99%抜けるドリブル」

――初の著書『ドリブルデザイン』を読ませていただき、ドリブルをロジカルに解析する力が本当に凄いと感心しました。その力はどうやって身につけたものなのでしょうか?

岡部将和氏(以下、岡部):自分のひいおじいちゃんが棋士で、家が将棋家の家系だったのが大きいと思います。小さな頃から将棋を指していたので、物事をゴールから逆算して考えていくクセは、その頃から身についていましたね。

――その思考法がサッカーにも生かされたわけですね。

岡部:そうですね。あと僕は「学校でいちばん細い」というくらい痩せていて、体の面でのサッカーの才能が本当にありませんでした。そのぶん、ほかの人よりサッカーについてよく深く考えていたとも思います。

――岡部さんの「絶対に抜けるドリブル」の理論は、「ディフェンスが足を目一杯投げ出しても届かない距離」でプレーすることが前提になっていますよね。それも体の小ささと関係している気がします。

岡部:そうですね。「相手に触れられずに抜く」ということに、昔からずっと興味がありました。

岡部さんの「99%抜けるドリブル理論」では「ディフェンスが足を目一杯投げ出しても届かない距離」で相手を抜きにかかるため、理論上はボールを絶対取られない。勝負を仕掛けるための方法も書籍内では解説される【本書P.21より】

――岡部さんのドリブルの動画は世界中に拡散されていますが、YouTubeにはじめて動画をアップされたのは2014年8月ですね。

岡部:その少し前にFacebookに動画をアップしたのが、最初のSNSへの投稿でしたね。派手なドリブルのテクニックに反応してくれる人がたくさんいたことと、そのFacebookの動画の解説に、現役の日本代表選手が反応してくれたことが、僕の動画が広まるきっかけになったと思います。

――ネット上で著名人と繋がれてしまうというのは、今の時代ならではという気がします。

岡部:そうかもしれませんね。僕はこれまで10人以上の日本代表選手のドリブルデザインをしてきましたが、選手から連絡がくるのも、こちらから連絡をするのもSNS経由が多いです。

フットサルで鍛えた超絶テクと、ドリブルをロジカルに解析する力を併せ持った岡部さん。フットサルでは日本のFリーグほかスペイン2部のチームでもプレーした

――岡部さんはネイマール選手などの海外のスター選手とも共演を果たしていますが、なぜそれを実現できたのでしょうか。

岡部:僕が表明した夢に対して、協力をしてくれる方が増えたのが大きいと思います。僕の夢は3つあって、1つはバロンドール受賞選手のドリブルをサポートすること。2つめは世界196カ国の子どもたちと一緒にドリブルをして、チャレンジすることの大切さを伝えること。3つめは自分をバーチャル化し、3DのVRやARなどの世界でドリブルの指導を世界中に広めることです。ネイマール選手との共演については、1つめの夢を語ったときに、「じゃあ場を設けてあげるよ」と、ネイマール選手のスポンサー関係者が間を取り持ってくれて実現しました。

――やはり自分の夢を公言しておくのは大事なことなんですね。

岡部:今もそれは意識していますね。自分のやりたいことを常に話し続けることで、いろいろな方に助けてもらっています。

あのネイマールとも一緒にフットサルをプレーした岡部さん。ウェブ上でもっとも拡散された動画のひとつだ。

ネイマール選手は足技だけでなく
「いい意味での手癖の悪さ」も超一流?

――日本代表選手に指導されている動画では、岡部さんのドリブル理論について「すごく勉強になる」と選手たちが感心していたことが印象的でした。この本で紹介されているドリブル理論は、プロの選手は自然とプレーはできていても、自分では言語化できていないものなのでしょうか。

岡部:試合中に頭で考え続けていたらプレーができないので、「良くも悪くも感覚でプレーできてしまう」のがプロ選手です。ただ、本当に感覚だけでプレーを続けていると、「なぜ抜けたのか」「なぜボールを取られたのか」が自分で分からないので、成功したプレーの再現性が薄れますし、プレイヤーとしての成長も遅くなります。逆に自分のプレーを言語化できるようになれば、よりドリブルで抜きやすくなるし、ミスの質も上がります。

岡部さんが考える「絶対にドリブルで抜ける間合い」は「ディフェンスが足を目一杯投げ出しても届かない距離×ヨーイドンで勝てる角度」。勝てる角度は人により異なるが、90度なら振り切れる可能性大だそう【本書P.21より】

――本の中では原口選手のドリブルの凄さについて、「上半身の柔らかさ」も関係していると書かれていましたね。

岡部:元気くんは、ディフェンスに体を触れられても、そこをスッと抜けていけるんですよね。だから、ディフェンスがボールや体に触れられる間合いの「内側」でも勝負ができる。ディフェンスのブロックもすり抜けていく元気くんの上半身は、時にぐにゃぐにゃしているように見えますが、「外から受けた力をいなせる」というのが彼の強みなんです。

プロとしては比較的細身の体格ながら、ほかの選手よりも近い間合いでディフェンスと勝負ができる原口選手のドリブル。なお高速ドリブルと屈強なフィジカルを武器とするクリスティアーノ・ロナウド選手も、同様に「ディフェンスの届く範囲」の内側で勝負できるプレイヤーだそうだ【本書P.61より】

――本を読んで、「確かに原口選手のドリブルってそんな感じだな」と感心しました。ドリブルの本なのに上半身の話も多く、手の使い方も「テクニック」として紹介されているのもおもしろかったです。

岡部:ドリブルでは上半身も大事なんです。逆にボクシングについて、亀田和毅くんが「足のスポーツだ」と言っていたのもおもしろかったですね。ボクシングの世界で、レベルが高くなるほどに足使いが大事になるのと同じで、サッカーでもハイレベルになるほど上半身の使い方が大事になってきます。

――本の中で、ネイマール選手は腕の使い方も上手い選手だと書かれていましたね。

岡部:めちゃくちゃ上手いですね。いい意味で「手癖が悪い」選手なんです。

――堂安選手についても、「腕の使い方が上手くなればさらに上のレベルにいける」と書かれていました。

岡部:プレイヤーはレベルが上がり、重要な試合に出るようになるほど、ひとつのミスが命取りになる。「自分のミスで攻撃を終わらせたくない」という恐れが生まれ、ドリブルが得意なのに安全なプレーを選んでしまう選手も出てきます。そういうときに手を上手に使えると、ボールを簡単に失うリスクを減らせて、抜ける可能性も高くなる。よりチャレンジをしやすくなるんです。

――そういった腕の使い方を含めて、「抜けるロジック」を持っていると、それが自信にもつながり、プレーの質もさらに向上するわけですね。

岡部:それこそ僕が「99%抜けるドリブル理論」で実現してほしいことです。「このドリブルなら理論上は99%抜ける」と分かっていれば、抜けなかったときに「悪かったのは角度か? 距離か? それともテクニックか?」と自分で整理ができる。逆にそういった理論も、ドリブルで相手を抜いた経験もなければ、「僕はドリブルが苦手だから抜けない」と思いこんで、チャレンジすらしなくなってしまいます。

ドリブルで仕掛けた選手の
「チャレンジした勇気」を褒めてほしい

――よくサッカーでは「1対1になったら必ず仕掛けろ」という言葉を聞きますが、それは自信がないとできないわけですね。

岡部:そうですね。「抜ける根拠」がないと、人はドリブルを仕掛けられません。僕のドリブル理論でその根拠を持てるようになり、実際に抜いて自信もついたら、どんどん仕掛けられるようになると思います。

――ドリブルで仕掛けるということには、「抜ける根拠」も「勇気」も必要と言えそうですね。

岡部:そうですね。サッカーの試合では、チームの誰かが仕掛けなければいけない場面が必ずあります。そこでドリブルを仕掛けた選手がいたら、仮にボールを失ったとしても、「よく自分で責任を負ってチャレンジしたね」と褒め称える気持ちで僕は見ています。

――ボールを多く失うドリブラーは、試合を見ているファンの間で非難の対象になりがちですが、「チャレンジを続けること」も大事だと。

岡部:長い目で見ると特にそうですね。「1回だけ仕掛けて1回だけ抜けた選手」と、「10回仕掛けて3回抜けた選手」だと、最初は前者のほうが評価されるかもしれません。ただ、選手としてより成長できて、活躍を続けられるのは後者だったりしますから。

――その話は、ビジネスの世界などにも通じそうな気がします。

岡部:そうかもしれないですね。大きな成功を遂げている人は、その裏でものすごい数の失敗をしてきた…という話はよく聞くことですから。

メッシ選手の高速ドリブルと
武術の達人のパンチの共通点

――岡部さんはYouTubeやSNSを通して自身のドリブル理論を世界に広めてきましたが、書籍の発表は今回が初めてです。本という媒体を選んだ理由は何だったんでしょうか。

岡部:ウェブ上で僕のドリブルを見てくれる人とは、また違う人にも情報を届けられると思ったからですね。書店で気になって手にとってくれる方もいるでしょうし、本の形になっていればプレゼントなどに利用できるのもいいなと思いました。こういうことを言うと出版社に怒られそうですが、僕は本の売り上げに興味がないので、友人同士での本の回し読みも歓迎です(笑)。

岡部さんのドリブルの動画は世界中に拡散。エドガー・ダーヴィッツ選手(元オランダ代表)との共演は、同選手の息子が岡部さんの動画のファンだったことから実現した

――それは怒られそうですね(笑)。ウェブよりも長い文章で、ドリブルについて詳しく解説しているからこそ、ドリブルについて理解できることは動画以上に多いとも感じました。

岡部:映像で表現できないぶん、本のほうがドリブルについて深掘りした言葉が載っていると思います。Twitterでも「本を読んでから動画を見ると、より深い観点でドリブルについて見られるようになった」という感想を多くいただけていて、すごくうれしく思っています。

――僕もこれまで「メッシ選手のドリブルは凄い!」と思って見ていましたが、この本を読んでからは、何がどう凄いのか説明できる部分が増えた気がします。映像を見ているだけだと、あまりに速すぎて何が起こっているか分からなかったので(笑)。

岡部:確かに(笑)。この本のドリブル理論を掴むと、一瞬のすごく速い動きが、細切れな動きの連続に見えてくることもあるでしょうし、サッカーを見る目も肥えてくると思いますね。僕の動画を作成しているスタッフも、僕以上に細かな分析ができることがありますから(笑)。

――メッシ選手の「0→100ドリブル」など、実際に目にしていたプレーも多かったですし、この本は「サッカーを見るのが楽しくなる本」だとも感じました。

岡部:そう言っていただけるとうれしいですね。なおメッシ選手の「0→100ドリブル」は、ほぼ予備動作なしに一瞬でトップスピードに入るドリブルですが、そこでは目に見えない筋肉の動きが予備動作の役割を果たしています。その筋肉の動きは、武術の達人が予備動作なしに打つパンチと同じだそうなんです。武術のトレーニングでは、補助的に体に帯を巻いてパンチを打つことで、その筋肉の動きの感覚を掴めるそうなので、メッシ選手の「0→100ドリブル」も、同じようなトレーニングで掴めるものがあるかもしれませんね。

メッシ選手が試合で見せるドリブルテクニックも、岡部さんは動画で実演披露している

――この本ではメッシ選手のほかにもネイマール選手、ムバッペ選手、クリスティアーノ・ロナウド選手など、世界のスターの選手たちのドリブルの分析もされていました。岡部さんが「特にこの人のドリブルを見てほしい」と思うのは誰ですか?

岡部:「この人のドリブルはすごい!」と思うスイッチは人それぞれ違うので、自分が惹かれた選手を見ればいいと思います。僕の場合は、自分の体格やプレースタイルとも共通点を感じたアイマール(元アルゼンチン代表)という選手のドリブルが好きで、いつも参考にしていました。僕は「まねぶ」という言葉をよく子どもたちに伝えるんですが、サッカーをプレーしている人の場合は、「まねをして学ぶ」のが上達へのいちばんの早道だと思います。

米国代表選手への指導も決定
活動拠点も海外へ

――先ほど3つの夢として「バロンドール受賞選手のドリブルのサポート」「世界196カ国の子どもたちと一緒にドリブルをする」「自分をバーチャル化してドリブルの指導を世界中に広める」を挙げていましたが、その夢を持つようになった背景についても教えてください。

岡部:僕はドリブルの練習でも物事の考え方でも、「トップダウン」と「ボトムアップ」の両方向から進めることを大事にしていて、その両者が交わったときに、ひとつの目標が実現すると考えています。僕の夢については、そのトップダウンの方向がバロンドール選手のサポートで、ボトムアップが子供たちにドリブルでチャレンジの大切さを伝える草の根活動なんです。なお、いきなり世界での活動を目標としたわけではなく、最初は国内から活動をはじめて、2年のうちに47都道府県を回りました。

YouTubeの動画でも世界各国でドリブルする様子をレポートしている

――やはりゴールから逆算し、段階を踏んで物事を進めているわけですね。

岡部:そうですね。今は日本でやりたいことを形にできたから海外へ…という段階です。トップダウンの方向も同じ段階に入っていて、これまでに10名ほどの日本代表選手のサポートをさせていただいたので、今は世界への挑戦を進めています。実際にロスでアメリカ代表 U-20の選手の指導をすることも決まっていますし、海外でのより大きなプロジェクトも進行中です。

――「自分をバーチャル化してドリブルの指導を世界中に広める」という夢についても、思い描くようになった背景を聞かせてください。

岡部:世界中の人の5人に1人はサッカーをしていると言われているので、僕は世界の16億人にドリブルを通してチャレンジすることの大切さを伝えたいんです。それだけでも凄い人数ですし、今は毎日サッカーをする人が4万人生まれている状況なので、とてもじゃないけど僕ひとりじゃ追いつかないというのが理由です(笑)。

――ひとりでは限界がありますね(笑)。

岡部:なのでネットの世界や新しい技術を使って、僕のドリブルを届ける環境を作りたいと思いました。半年以上前から具体的な動きも始まっていて、筑波大学の研究員の方や、モーションキャプチャシステム「OptiTrack」の会社の方と一緒にプロジェクトが進行しています。また、今は海外移住も検討していて、移住先でも日本人選手のドリブルのデータ解析を行える環境を作ろうと思っています。

――本格的に世界で戦う段階に入ったわけですね。

岡部:そうですね。直近ではロサンゼルスとスペイン、ドイツに行く予定が決まっていますが、ドイツには子供4人を含めた家族で行く予定です。これからはより海外に軸足を置いて活動していきたいですね。

「ドリブルを通してチャレンジすることの大切さを伝えたい」と岡部さん

プロフィール
岡部将和 Okabe Masakazu
ドリブルデザイナー

1983年神奈川県生まれ。Fリーグ出身のドリブル専門の指導者(ドリブルデザイナー)。”誰でも抜ける”ドリブル理論を持ち、YouTubeをはじめさまざまなSNS上で配信する。ドリブル動画閲覧数は約1億PV。国内はもちろんアジア、ヨーロッパ、南米と世界各国からアクセスされ、現在は全国各地でドリブルクリニック開催中。また、日本代表選手を中心にサッカー界を代表する選手に個別で独自のドリブル理論を指導。ロナウジーニョ選手、本田圭佑選手、ジーコ選手、マテラッツィー選手、アドリアーノ選手、デルピエロ選手、ピルロ選手など世界のスター選手とのコラボレーションも達成した。

取材・文=古澤誠一郎、撮影=隼田大輔