尾上右近「『燃えよ剣』は、令和を代表する時代劇になると確信しています」

あの人と本の話 and more

2020/5/13

 司馬遼太郎の国民的ベストセラーを圧倒的スケールで活写した映画『燃えよ剣』で、悲劇の大名・松平容保役を演じた尾上右近さん。毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』に登場してくれました。映画初出演作となった本作への想い、歌舞伎の世界で生きてきたことによる役へのアプローチ、そして普段の読書スタイルなどを伺った。

尾上右近さん
尾上右近
おのえ・うこん●1992年、東京生まれ。7歳で初舞台を踏み、12歳で二代目尾上右近を襲名。2018年に家業である江戸浄瑠璃清元節の名跡「清元栄寿太夫」を襲名し、役者と清元唄方の両立を表明。主な出演作にスーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』、新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』など。7月にはミュージカル『ジャージー・ボーイズ』の出演が控えている。
ヘアメイク:白石義人(ima.) スタイリスト:三島和也(tatanca)

「激動の時代のなか、頑なに家訓や会津藩の伝統を貫いた松平容保は、僕自身の信念とリンクする人物だと感じました。移りゆく時のなかでも伝統を守る歌舞伎の世界に身を置いてきた自分の精神と。そういった部分でも容保役に必要としていただいたのかなと思いました」

「20代半ばくらいのタイミングで、映画に出るチャンスが来る」。“映画に出たい”と熱望し始めた10代半ばの頃から、そんなイメージを確固として持ち続けていたという。そしてそのイメージは本作で実体化した。役へのアプローチは、右近さんならではのものだ。

「歌舞伎には型があります。古典の役は先人がつくった型があり、それを教わり、演じるのですが、僕は容保公を演じるうえで、それに近いものを見つけたかった。そこで思いついたのは、実在の人物で、幕末の時代をしっかり生きた松平容保という人こそ、まさにその型ではないのかということ。そこから容保公の文献を数多く読み込んでいきました。その作業は、資料を読むというより、芸談を読む感覚に近かったですね。たとえば、その資料のなかで見つけた、容保公の唇はすごく赤かったという事実も、“あの先輩は、こんな風に演じていたらしい”ということと同じような感覚で捉えました」

 資料を芸談として読むという独自のスタイル。普段の読書にもそれがある。

「僕は、ちょっと調べものをするような感覚で本を読むことが多いんです。ゆえにいろいろ本を探すのですが、探すつもりのなかったものを、その過程で見つけたときがまた楽しくて。そういうときって、思いもよらぬ収穫がありますよね。それも本を読むことの、ひとつの楽しみであり、本や言葉との“縁”だなと思うんです」

 映画の原作、司馬遼太郎の『燃えよ剣』もひもといたという。

「土方歳三目線で書かれた物語は、自分がともにその時代を生きた感覚になる没入感がありました。最後の方になると、壬生の浪士だった頃の新選組の面々の姿を懐かしく思えるような、実体験感すら抱いた。松平容保は『燃えよ剣』原作には登場してきませんが、司馬先生が、同時代を描いた『王城の護衛者』で主人公として立っているんです。『燃えよ剣』を原作としたこの映画のなか、容保はイレギュラーな存在としての切り口。激動の時代を、違う立場、形で、信念を持って生き切った人々のコントラストも、この映画の見どころのひとつだと思います」

 開国か、倒幕か。世が乱れるなか、徳川慶喜に京都守護職を命ぜられ、新選組を預かる会津藩主・松平容保。時代の流れに翻弄されつつ、自身の守るべきものを懸命に守ろうとする人が抱え持つ深い憂いが、容保公の表情からは滲み出る。祈りにも似た願い、哀しみ、やるせなさ……形状しがたい想いがスクリーンからは押し寄せる。

「“自分が盆栽になろうと思ってもなかなかなれない。鋏を入れてくれる人がいて、初めて盆栽になるのだから思い切り、好きにやれ”という言葉が、歌舞伎の世界にはあるんです。容保のお芝居については、“もっとフィルターを差し引いて、もっとシンプルな表現で”と、原田監督に鋏を入れていただきました。そのとき感じたのは、表現や情報として、抱えている気持ちを前面に出すのではなく、その気持ちでいることが、伝わるかどうかということ。それを大事に、容保を“生きて”いきました」

 圧倒的スケールの戦闘シーン、世界遺産や国宝級建造物で撮影された荘厳で美しい画、2時間半に及ぶ本作は“大迫力”の連続だ。

「完成作を観て、集中力の結晶のような映画だと思いました。本作は、平成最後の3ヵ月に撮影されたんです。平成という時代が暮れゆくなか、幕末に生きた人を演じる、ということが、自分のなかで関係性を持って腑に落ちてきましたし、その作品が令和という新しい時代に公開されるということにすごく意味を感じました」

「令和を代表する時代劇」。試写を観て、そう確信したという。

「原田監督の作品は、画、迫力、美しさ、強さなど、エンターテイメントの要素が凝縮され、それらが圧倒的な存在感を放っています。けれど、その裏にあるメッセージがその倍くらい濃いんですよね。そのバランス感覚が、本当に素晴らしく、見た目で楽しくないと、内面追求できないような今の時代に、しっかり寄り添った作品でもあると思うんです。その内面性のなかに、ぜひ見ていただきたいのは、信念の強さを、この映画のなかを生きる人々が持っていること。こうした時代があり、こうした人たちが日本を作って来た、その流れのなかに現在があるということをぜひ感じ取っていただきたいですね」

(取材・文:河村道子 写真:山口宏之)

 

映画『燃えよ剣』

映画『燃えよ剣』

原作:司馬遼太郎(『燃えよ剣』新潮文庫刊) 監督・脚本:原田眞人 出演:岡田准一、柴咲コウ、鈴木亮平、山田涼介、尾上右近、山田裕貴、伊藤英明、ほか 配給:東宝、アスミックエース 近日公開予定 ●動乱の幕末でわずか6年だけ存在した史上最強の剣客集団・新選組と、その副長・土方歳三の知られざる真実とは─。司馬遼太郎、国民的ベストセラーを完全映画化した歴史スペクタクル超大作。