大手カジュアル衣料店を凌ぐ店舗数…「ブランドブック」が大ヒット! 宝島社×セブン-イレブンの“コラボアパレル”驚異の仕掛け力

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更新日:2020/10/13

 雑誌ばなれが進み、苦戦を強いられている雑誌業界では、読者の心をつかもうと「付録付き」の雑誌が定番になっている。とはいえ、そうした雑誌が増えるほど、逆に読者の奪い合いになる可能性もある。そんななか、宝島社とセブン-イレブン・ジャパンがタッグを組み付録雑誌で大成功しているとの情報を耳にした。一体何が起きているのか、ダ・ヴィンチニュース編集部が早速話をきいた。

(左)宝島社皆川祐実さん(右)セブン-イレブン・ジャパン高山優子さん
(左)宝島社皆川祐実さん(右)セブン-イレブン・ジャパン高山優子さん

透明パッケージで「ブランドブック」が大ヒット!

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 お話をうかがったのは、セブン-イレブン・ジャパンの商品開発担当の高山優子さんと宝島社マルチメディア局編集長の皆川祐実さん。「この商品がスタートでしたね…」とお二人がまず見せてくれたのは、2018年7月に出たセブン-イレブン限定の『moz(R) BIG BACKPACK BOOK special package』だった。書店でも大人気だった「ブランドブック」(A4サイズにおさめた付録がメインの商品)と同じものを、セブン-イレブン限定の透明パッケージに入れたところ大ヒット。全国に約2万1000店ある店舗のほとんどで展開し見事に完売。この商品だけで書店・コンビニあわせて累計40万部に到達したというから驚きだ。

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 この商品、実は両社がそれぞれに課題を抱えていたタイミングが一致して誕生したのだという。今では累計発行部数が7300万部を超えるほど人気の「ブランドブック」シリーズだが、当時はコンビニの店頭では苦戦を強いられていたという宝島社。一方のセブン-イレブンでは売り上げ構成比率の上位を占める女性誌の売り上げが落ち込んでおり、なんとかできないかと苦慮していた。

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セブン-イレブン高山さん「特に付録付きの女性誌がいまひとつ伸びていないところもあり、これは宝島社さんのお力を借りようとご相談に行きました。当初のお願いは、納品部数の増量と限定品を出せないかというものでしたが、現状が厳しい中ではなかなか難しいお話でもあり、滞店時間が3~5分と短いコンビニでも買いやすくできるよう〈付録の見える化〉を検討いただけないかとご提案したんです。ちょうど宝島社さんでも、コンビニにおけるブランドブックの商品内容の見直しとともに、パッケージの見える化の話があがっており、両社協力のもと開発が進んだんですね」

宝島社皆川さん「この商品は書店と同じものが透明パッケージになっているわけですが、書店はお客様の8割が女性なのに対し、コンビニでは半数くらいが男性でその違いに私たちもかなり驚きました。しかも若者向けブランドの商品ですが中高年層の方が買われたという話も聞きますし、セブンさんの販売力で全国のいろいろな方に届けることができました。この商品をきっかけに今はあらゆる商品を開発しています」

 ちなみに豪華な付録になればなるほど金額は上がっていくことになる。宝島社では定価ではなく、その号に合った価格をその都度設定することにしているというが、セブン-イレブン側には当初不安もあったという。セブン-イレブンの平均客単価が652円(2020年2月期)なのに対し、大ヒットしたとはいえ『moz(R) BIG BACKPACK BOOK special package』は1980円だ。

セブン-イレブン高山さん「ブランドブックの価格設定はコンビニの常識からいうと破格の設定で、正直ここまで売れるとは思っていませんでした。今はこの成功があるから価格もだいぶチャレンジしています。先日も4000円弱の日傘がありましたし、上限があるというよりは商品自体の値ごろ感をお客様に感じていただけるかどうかですね」

「限定商品」だからこそセブン-イレブンのスケールメリットが出る

『moz(R) BIG BACKPACK BOOK special package』が出た時の検証では、購入者の半数以上は過去半年間に雑誌売り場で雑誌を買った経験のない層、つまり新規購入者が大半という結果になった。実はこの新規購入者こそ宝島社が一番狙っている読者層だということにも注目だ。創刊から10年ほどたっている雑誌でも「この付録で初めて雑誌を知った」という読者の声が寄せられることもあり、逆に言えばまだまだ潜在的な読者がいる可能性は高いということになる。であれば「普段雑誌を読まない方に届けよう」というのはひとつの戦略であり、その意味で付録は大事なフックになるわけだ。結果的にブランドブックの成功以降は、セブン-イレブン側の当初の目標であった雑誌の付録の「見える化」にも着手。見開き型の透明パッケージに始まり、現在は「付録を表紙の前」に配置して透明のビニールでパッケージするスタイルに進化したという。

雑誌

 これまでの梱包方法だと厚みに限界があったが、透明パッケージにしたことでその制約がなくなり、水筒など付録の常識を超えるような商品が次々に登場しているという。「限定付録だからこそセブン-イレブンでしか買えないという『価値』になる」(セブン-イレブン担当者)。その価値を求めて2万1000店ある全国の店舗に客が足を運ぶというスケールメリットも出てくるわけだ。

 こうしたプラス要素を生かしてこの夏からより大きなチャレンジも始まった。その名も「コラボアパレル」。大手カジュアル衣料品メーカーに比べても格段に店舗数の多いセブン-イレブンの店頭を「タッチポイント」と考え、ブランドとコラボレーションした限定商品を送り出すというものだ。今年6月に「moz スーパーライトジャケットBOOK」(1990円)を、続く7月には「moz LOGO TシャツBOOK」(1490円)を発売。専用の什器のほかネットやSNSで着こなし方などの情報をフォローし、合わせて20万部を超える大成功をおさめた。

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 ところでmozにしても、プロパーの商品では1万円以上の価格帯が多いブランドであり、ブランド側には2000円を切るコンビニ商品の発売に抵抗はなかったのだろうか。

宝島社皆川さん「最初の頃はブランドさんに提案しても懐疑的なこともありましたが、人気のタレントさんをキャスティングしてプロパーの商品を紹介する弊社のクリエイティブ力も気に入っていただけていて、現在は『宣伝媒体』として捉えていただいている感じです。しかもセブンさんだと2ヶ月限定で、書店さんのようにずっと店頭にあることはありませんから、期間限定のPRという認識でいらっしゃるようです。実際に反響がすごいようで、ブランドの知名度が一気に上がったというお話もいただきますね」

ヒットを支える宝島社の付録開発力

 こうした成功の大きな要因は、やはり宝島社の開発力だろう。よく雑誌の付録は「おまけ」的に捉えられる向きもあるが、同社によれば通常の雑誌の付録開発は各編集部の編集者が担当し、コラボブランドさんに協力をいただきながら、メイン企画のひとつとして他の特集と同じ位置付けで作られているのだという。

 一方、ブランドブックの場合は専門部隊がいる。それこそが取材に応じてくださった皆川さんが所属するマルチメディア局。総勢30名ほどのメンバーが日夜街中をリサーチし、たとえば「どんなバッグが流行っているか、それが半年後に受けるのか」などを週一サイクルで検討しているという。

宝島社皆川さん「全員がぜんぶ見るというスタイルでいますね。担当分けすると凝り固まってしまう可能性もあるので。あらゆるランキングに目を通し、日々世の中を見てブランドさんと商品開発しています。実は延べでいうと1日に1冊くらいのペースで出していて、毎日入稿・校了がくる忙しさです(笑)。商品開発はブランドさんとディスカッションを繰り返し行いながら進めていますが、流行とブランドの特色、セブンさんの客層の特徴などマーケティング的にもいろいろな情報を得た状態でアウトプットしている感じですね。製作は宝島社が長年提携している工場が責任を持って行っています」

 なお、商品開発にあたってはベストの形をさぐるべく、社内のさまざまな体型&年代のメンバーに試着してもらい、ミリ単位の調整をしているとか。店頭での試着ができない分、そうした採寸には毎回かなりこだわっているという。

 今後は秋にウインドブレイカー、ダウンジャケット、ルームウェアなどの展開を予定。これまでの実績で「この価格で売れるのか?」が突破できたことで、「値段よりクオリティの部分で考えた」(宝島社担当者)と5000円近いものもあるという。

セブン-イレブン高山さん「これまでの取り組みを通じて価格はここまでというのはないと思っています。コンビニの使命はお客様のニーズにお応えすること。これからも宝島社さんの情報収集力や具現する力に期待して、カテゴリーにこだわらずにやっていきたいですね」

 こうした限定商品は店頭に出た途端にあっという間になくなってしまうことも珍しくない。最後に、気になる商品の発売情報はどう手に入れたらいいか聞いた。

セブン-イレブン高山さん「発売1ヶ月くらい前の情報解禁日のタイミングで、セブンネットショッピングのサイトで購入カートがあきます。そこからツイッター等のSMSでも発信します」

宝島社皆川さん「各雑誌の限定付録は次号予告で確認してみてください。ブランドブックの商品情報は宝島社マルチメディア編集部のInstagramYouTubeでいち早く告知します。是非チェックしてみてください!」

取材・文=荒井理恵