ラビットハウスの日常が帰ってきた!『ごちうさ』特集④・橋本裕之(監督)インタビュー

アニメ

公開日:2020/11/7

ご注文はうさぎですか? BLOOM
TVアニメ『ご注文はうさぎですか? BLOOM』
TOKYO MXほかにて毎週土曜22:00~放送中
(C)Koi・芳文社/ご注文はBLOOM製作委員会ですか?

 もう、何回でも口に出したい言葉である――ラビットハウスの日常が帰ってきた! 間にOVAの劇場上映などを挟み、TVアニメ3期の放送がスタートした、『ご注文はうさぎですか? BLOOM』。ココアやチノたち、ラビットハウスに集まる面々の楽しい会話、作り手の情熱が全編からにじみ出ているかのような素晴らしい映像、ポップにはじけているけどどこか切れ味鋭い音楽――アニメ『ごちうさ』には、たくさんのものが詰まっている。これから3ヶ月間、その世界に浸れるなんて、至福である。

 今回の特集では、キャスト・監督・音楽(作詞)、3つの視点から『ごちうさ』を語ってもらった。いずれも、『ごちうさ』への愛情がたっぷり詰まったインタビューとなっているので、毎週の放送後に、ぜひチェックしていただきたい。最終回となる第4弾は、TVアニメ1期から本作を手掛けている橋本裕之監督に、『ごちうさ』が長く、広く、深く愛される理由を尋ねてみた。

ご注文はうさぎですか? BLOOM

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改めて思うのは、自分自身が『ごちうさ』ファンである、ということ

――『ごちうさ』のTVアニメ3期を制作できることになったとき、どう感じましたか。

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橋本:素直に、TVシリーズができるのは嬉しいですね。もともとTVアニメの監督がやりたかったし、毎週視聴者の方から感想がもらえるのはモチベーションが上がります。同時に、1期、2期から観てくださってるたくさんのファンの皆さんがいるので、その人たちがどう思われるのかは、気になるところではありますね。「また大変なときが来たな」みたいな感じはあります(笑)。大変ではあるけど、やっぱり作っていったら楽しくて。シナリオ会議で脚本を作っていても、「早く観たいなあ、一番に観たいんだけど、誰か代わりに作ってくれないかなあ」みたいな(笑)。やっていて改めて思うのは、自分自身が『ごちうさ』ファンである、ということですね。それは再確認しました。

――TVアニメとしては久しぶりなわけで、長く待っていたファンも多いと思うんですけど、彼らの期待に応えるために意識したことはありますか。

橋本:もう、山ほどありますね。やっぱり、まずは1期、2期をずっと観てきてくれた人たちが、楽しめるものにしたい。3期から入ってきた方が、ちょっと観たら「面白かったな」と思って、1期から観たいと思ってもらいたい。1期、2期から観てきた人たちが、少し得意げになって新しい人に「そうなんだよ、そこがよかったんだよ」「ここを注目して観てほしいんだよ」って、つい言いたくなるような感じで作りたい、ということでした。TVシリーズが始まったのは、マンガを応援してくれてた人たちがいるからで、1期を支えた人たちがいたから2期が作れている。そこに自分がどう応えられるのか、視聴者が何を楽しみにしているのかを見極めていかなきゃいけないな、と。長く作っていると、作ってるほうが飽きてくることが稀に起きてくると思うんです。でも自分は、伝統の和菓子を作ってるみたいなもので、ここにくれば安心できる、帰ってこられる場所でありたいな、と思っていて。味自体は守っていかないといけないし、変わりすぎないように気をつけないといけない、かといって何の変化もないと残念な感じになってしまうので、変化をつけつつも変わらないところに持ってくる、みたいなところは、意識しています。

――なるほど。

橋本:今回はあえて、1羽の最初に青山ブルーマウンテンを出したんです。自分の中で、青山さんは別軸の主人公だと思っているんですよ。1期はココアから始まって、2期は「おかえりなさい」っていうところでチノから始まった。で、3期は自分の中で、1期と2期を合わせたところから、さらにもう一歩進むというところで、最初は青山さんかな、と。『ごちうさ』ではずっと家族がテーマになっていますけど、3期は親友と家族がくっついてる、みたいな感じなんです。誰から始まるのが一番いいんだろう、最初のカットに誰が映るのが一番いいのか。ずっと考えてました。

――以前監督にお話を伺ったときに、『ごちうさ』のユーザーさんは「スタッフさん、お疲れ様」と、スタッフにもお礼を言ってくれたのが嬉しかった、という話をされていて。1期、2期を観てくれた方からの言葉にどんなことを感じていたか、改めて聞かせていただけますか。

橋本:本当に、スタッフの人への感謝、『ごちうさ』に関わってるすべての人たちに感謝します、の反応が多いと感じますね。イベントがあったり、グッズ展開の多さも含めて、「『ごちうさ』が大切にされてる」と感じてくださっている方は多いんじゃないかな。自分も、この間の原画展を見たときに思ったんですよ。正直、原画展と言っても「貼ってあるだけなのかな」と思って行ってみたら、原画を選んでる人のこだわりがすごすぎて、一発でわかったんですよね、「これ、誰が展示したんですか!?」と思わず聞いてしまいました。それが自分にも伝わるということは、ファンの方にも伝わると思うんです。それって、やっぱりお金をいただいてイベントを制作する、それだけではできないことだと思います。 DJ Nightのときも、映像を観てビックリしましたし。作ってる人も観ている人も、みんな『ごちうさ』のファンで、一緒に共有できてるんでしょうね。だから、自分はいつもファンの方がうらやましいです(笑)。DJ Nightの後も、「みんなで飲み会してきました~」とか見ると、自分だけすぐ帰って仕事しなきゃいけないのか、そこ行きたかったなあ、と(笑)。

――(笑)隙あらばそっち側に回りたい、と。

橋本:そうそう。それくらい楽しそうにしてもらえてるって、やっぱりすごいことだな、と思います。本当に、ファンからの応援、スタッフに対する応援はありがたいですよね。アニメの仕事って、楽しいけど楽しいだけじゃないこともあって、それでもやっていきたい人たちが集まってると思うので、それをファンの人たちが観て、「ここの部分がよかった」って言ってもらえて、その上感謝もしてもらえたら、こんなにやりがいのある仕事はない、と思います。

ご注文はうさぎですか? BLOOM

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ココアがすごいのは、原作1巻の1話で出てきたときから、キャラクター性がまったく変わってないこと

――少し話がさかのぼりますけど、『ごちうさ』の監督をやることになったときに、映像化する上で一番のキモであると感じたこと、原作のKoi先生のクリエイティブに感銘を受けた点について伺いたいです。

橋本:最初に話をいただいたときは、「こんなかわいいの、いいんですか?」と。自分はもともとガンダムとかロボットものがやりたくて、サンライズ系統の下請けの会社に入ったので、「こんなにかわいいアニメ、自分でいいのかな」と。かわいいものが嫌いなわけではなく、むしろ好きなほうでしたが。ただ、それまでやってなかったから、大丈夫なのかな、と。そこからキャラクターデザインが奥田(陽介)さんに決まって――初監督、初キャラデで「大丈夫なの?」と(笑)。

――(笑)今考えると、チャレンジングですね。

橋本:そうなんです。自分も監督をやるのは初めてだから、右も左もわからないですよね。ただ、わからないって言ってるわけにはいかないから、とにかく頑張ろう!と。それでKoiさんと会わせてもらって話をしたんですけど、最初に自分が言ったのは「思ってることがあれば全部言ってほしい」ということでした。「あれを言っておけばよかった」はなくしたい、思ってることは全部言ってほしい、やれることは全部やります。そこで、シナリオ会議をしていく中で、Koiさんの演出に対する思いを知っていって――最初はマンガをアニメ化する、みたいな感じでしたが、途中からそれを少しずつ超え始めた感じはありました。

――ココアについて取り上げたいんですけども。ココア役の佐倉綾音さんに話を聞いて、考えれば考えるほどココアってすごいな、と。というのは、100パーセント前向きでポジティブ、明るいキャラクターって、逆に成立しづらいのかな、と思っていて、実際今のエンタメにおいては、闇とか陰を持ってる人間のほうが描きやすいと思うんですよ。全方向に対して明るい人って、フィクションでも成立しづらいし、あざとくなってしまったり、現実味がまったくなくなる。だけど、ココアは作り手にもファンにも愛されている。この造型は、もとはKoi先生によるもので、キャラクターを生み出す精度がすごいな、と感じます。

橋本:ココアがすごいのは、原作1巻の1話で出てきたときから、キャラクター性がまったく変わってないことなんですよ。他のキャラクターは、もちろん元から持ってるキャラ性はあるんですけど、少しずつ変化はしてるんですよね。でもココアは、最初から今まで何も変わってない。ということは、それだけココアは完成されたキャラなんだ、と思いますよね。主人公をうまく見せるって、意外と難しいことだと思うんです。主人公はどうしても特徴がなくなってしまうことがよくあるんですが、ココアって特徴ありまくりじゃないですか。すべてのキャラに絡むことができて、そこから話を広げていけるのは、Koiさんが持つキャラクターの作り方のセンスであって、やっぱりズバ抜けてるな、と感じます。

 アニメのスタッフにココアを理解してもらうのは、ちょっと時間がかかることがあるんです。ココアは、とにかく素直なんですね。裏表がない。だから泣きたいと思ったときは泣いてるし、悲しいと思ったら、もう次の瞬間には嬉しい。人間、生きてるとつらいこととかあったりするけど、ココアの場合は「ほんとはこう思ってるんじゃないの」がないんです。そういう部分は、散らして他のキャラクターに入れてあるんですよね。たとえばリゼだと、チノとココアが楽しくやってると、ちょっとわたしは寂しいぞ、みたいな感じにしたり。ココアは、全員を笑顔にするために生まれてきたようなキャラクターなので、そこはほんとにブレないですね。

 で、自分の中でもうひとり変わらないと思うのが、青山さんです。青山さんも最初から何も変わらず、ずっと同じ感じなんですよ。だから、裏主人公みたいな形で置いてあるんじゃないかな、と自分は思ってます。そう見えるくらい、キャラクターの配置能力が素晴らしいと思いますね。だからこそ、『ごちうさ』って、「好きじゃないキャラクター」というのがいなくて、キャラクターが増えれば増えるほど、全員平等にファンがついてくるんですよね。その分、画面が大変なことになるけど(笑)。全員に平等にファンがついちゃうと、出てこない話数を作るのはなかなか難しくなってくる。最初の5人にマメも入れたら7人、今は青山さんと凛も含めて、どんどんファンが広がっていくから、この先恐ろしい(笑)。

――ココアは、リアルな人間としては存在しないんだけど、実際にいてほしい人なんですよね。

橋本:ああ、わかります。友達としていてくれるとしたら、やっぱり一番はココアなんだろうと思いますね。だから佐倉さんも、最初はなんだかわからなかった部分もいっぱいあったと思うんですよ。なんでここまでポジティブになれるんだろうか、と。

――思考を考えたらわからなくなっちゃいますよね(笑)。

橋本:(笑)そうですね。でも、そうじゃないと思って。自分の理想の友達がここにいると思ったら理解ができる。チノは、感情を理解して積み重ねていく人だけど、ココアは少し違っていて、「好きだから!」の一言。なんで好きなのか理由はいらない、もちろん厳密にはありますが(笑)。「だって好きなものに嘘つく理由ある?」くらいのレベルで来る。核心を突かれてるみたいで、ビックリしますよね。でも、ココアがそういう人じゃないと、たぶんチノの心を開けられないし、みんなの心も開けないんだろう、と思うんですよね。しかもそれを、あまり説教臭く出してこないところが、ココアのすごさでもあって。回りくどい言い方は、ココアはしないですからね。

――ココアとチノの組み合わせも、革命的だなと思いますよね。ココアが全員に絡める人であると同時に、チノもそうじゃないですか。ただ、性質は真逆で。ココアは自分から光を放っていく、逆にチノは人の影響を受けて成長したり、自分の中で変化をしていったりするキャラクターである。これが同時に存在して、ふたりとも愛されるというのはすごいことだな、と。

橋本:そうですね。太陽と月なのかもしれないけど、両方とも基本にあるのは素直さなんです。だから、チノは素直に反射していける。ココアは、素直に光を発していける。素直であることって、たぶん誰にも否定できないことだと思うんですよ。だから受け入れやすいんじゃないかな、と思います。

――チノには「いいです」とか「要らないです」っていうセリフがあるじゃないですか。それがまったく冷たく聞こえないところも面白いですよね。実際、「要らないです」って言ってるときも、裏側には優しさしかないわけで。

橋本:『Sing For You』のときに思ったのが、『ごちうさ』は明るい世界、優しい世界でやっているけれども、本当は寂しいこともあって。チノが過去を振り返らなくていいのは、愛情をわかっていて、たくさん感じているから――観ている人たちにも、そこは伝わればいいな、と思いました。『Sing For You』では、そこにお父さんであるタカヒロの感情も入れたかったんですね。お父さんもお母さんのことが好きで、なぜ亡くなったのか理由はわからないけれども、それはもう全員が納得していることなんだ。納得しているから、「みんな頑張っていかなきゃね」ってなる気持ちにも、素直に応援できるんじゃないかな、と思います。

――世の中の人は、誰しもがビターな経験をしているわけじゃないですか。フィクションと接するにしても、現実とぶち当たりたいんじゃなくて、『ごちうさ』を観ている間はそれを忘れたい。でも、苦い経験、つらい経験をすることは知ってるわけですから、いかにフィクションだとしても、それを完全に置き去りにして物語を作り、人の心を動かすのは難しい。『ごちうさ』の場合はそこもちゃんと描かれていて、だけどハッピーな世界であるところが、我々を惹きつけるんだと思います。

橋本:そうですね。自分は、親子関係がすごく気になるんですよ。リゼとリゼのお父さんがどういう関係なのか、千夜と千夜のおばあちゃんがどういう関係なのか。ただの親子、ただのおばあちゃんと孫ではない何かが、ここにはあって。もちろん全部を描くわけにはいかないけど、リゼのお父さんの行動を見ていたら、リゼのことがどれだけ好きなのかがよくわかりますよね。わざわざタカヒロがいるバーに来てまでリゼの話をするって、そう簡単じゃないよね、みたいな(笑)。どちらかというと、お父さんたちはサブキャラなわけですけど、彼らにまでそういう背景があるのかと思うと、キャラクターたちの真理を考えていかないと『ごちうさ』は作れないかもしれないな、と思います(笑)。

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『ごちうさ』は人生です(笑)

――ちなみに、監督がコンテを描いていて思わず乗っちゃうキャラクターは誰ですか。

橋本:自分の性格と似てると思うのは、千夜ですね。シャロを見るとちょっといじめたくなるというか(笑)、楽しいだろうなあと思いますし。あんな幼馴染みがいて、あんなに真面目に受け取ってくれて、あんなに真面目にプリプリしてくれたら、ちょっとだけ意地悪したくなるのはわかります。で、千夜は楽しいことが大好きだから飛び込んでいっちゃうし、うらやましいと思います。千夜のおばあちゃんも好きだし。口が悪いのに、すごく優しいから(笑)。ただ、誰が好きかと言われると、ほんとに全員好きと言うしかない感じです。最近、凛の好き度もだんだん上がってきていて危ないですけど(笑)。

――凛が上がってきて危ない(笑)。

橋本:凛が危ないです(笑)。このままいくと、どんどんメインキャラが増えてきて、メインキャラが増えれば増えるほど、アニメ制作は大変になってくるので。アイドルものだと、10何人とかいたりするじゃないですか。同じように、10人以上を平等に扱わなきゃいけないときが、『ごちうさ』でも来るのかもしれない。そこは、嬉しい反面、大変だなって感じる部分もあります(笑)。

――(笑)橋本さんにとって、『ごちうさ』という作品はどんな存在ですか。

橋本:これは、「『ごちうさ』は人生です」と答えておくといいやつですね(笑)。まあでも、間違いなくアニメに関わってきた自分の人生を変えてくれた作品だと思います。もう、切り離せないですね。他の仕事でも、「『ごちうさ』をやってた人ですよね」みたいな感じで言っていただけることが多いので。

――切り離せない。

橋本:そう、切り離せないです。

――じゃあ、やっぱり人生ですね(笑)。

橋本:人生です(笑)。人生なので、まだ終わるわけにはいかないなあっていう。

――ずっとやってください(笑)。

橋本:(笑)それはもう、許してもらえる限りは、やりたいです。人生を生きてる最中に「自分ってどういう存在ですか」って考えることがないから、終わってみないと考えられないかもしれないですけど、作っている最中はもがき続けています。


『ご注文はうさぎですか? BLOOM』公式サイト

取材・文=清水大輔