『鬼滅の刃』我妻善逸を演じた声優・下野紘「僕自身、この事態に面食らっています」【BOTY2020今年の顔】

アニメ

公開日:2020/12/12

下野紘さん

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 2020年、注目を集めたアニメと言えば、『鬼滅の刃』が思い浮かぶのではないだろうか。中でも、その振れ幅の大きい演技でキャラクターの存在感を高めたのが、我妻善逸役を演じた声優・下野紘さんだ。そんな下野さんが2020年を振り返りつつ、「今年、一番印象に残った本」を選出。さらに、ダ・ヴィンチ公式YouTubeチャンネルでは朗読を披露!

新たな扉を開いた1年

「僕自身、この事態に面食らっています。」

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 劇場版は絶賛上映中、さらに注目を集めているアニメ『鬼滅の刃』。下野さんが演じる我妻善逸は、主人公・竈門炭治郎とともに鬼に立ち向かう「鬼殺隊」の一員だ。極度のヘタレで女性好き、コメディリリーフとして物語を彩る一方、戦闘では別人のような力を発揮。シリアスとギャグの落差が激しいキャラクターを、卓越した表現力で演じきっている。

「善逸は、自分が持つ力をすべて注ぎ込まないと演じきれないキャラクター。想像力、表現力、これまで演じたキャラの積み重ねを総動員して、なおかつ呼吸や息遣い、発声のテクニックもフル活用して臨みました」

 アニメの序盤では、炭治郎が鬼と化した妹・襧豆子を救おうと奮闘する姿が描かれており、善逸や「鬼殺隊」の仲間・嘴平伊之助が登場するあたりから、物語は一気に賑やかに。キャラクターの個性も際立っている。

「それまではシリアスな展開でしたし、炭治郎にとっては孤独な闘いが続いていたと思います。そこに、賑やかなヤツらが加わるわけですからね。ひとりじゃない、仲間がいるんだという思いが炭治郎の原動力になると思うし、さらなる成長にもつながったんじゃないかと思います」

 そう真剣な顔で語ったかと思えば、芝居がかった口調でひと言。

「そういう意味では、善逸も伊之助も功労者、ですよねぇ?」

 いかにも善逸らしいギャップを見せて、我々を笑わせる。だが、それはあくまでも冗談。「僕らの仕事は末端ですから」と、どこまでも謙虚な姿勢を崩さない。

「原作者の吾峠呼世晴先生やスタッフの皆さん、そして応援してくれる方々がいるからこそ、『鬼滅の刃』という作品も僕らの仕事も成り立つんですよね。もちろん声も作品の一部を担っているという自負はありますが、見てくれる方がいなければ、僕らの自己満足にしかならない。それを忘れてはいけないですし、だからこそ皆さんに楽しんでいただけるよう頑張らなきゃいけないと思います」

そんな下野さんに、2020年を振り返っていただくと……?

「ナレーションの仕事をいただくことが増え、声優として、新しい扉を少し開くことができたのかなと思っています。アニメ、洋画の吹き替え、ゲーム、朗読、ナレーションは、すべて似て非なるもの。呼吸や息遣い、アクセントのつけ方がまったく違うんです。アニメが短距離走だとしたら、一定のペースをキープして語るナレーションは長距離走。今まであまり経験がなかったので、その違いを楽しんでいます」

 さらに今年は、アーティストとして1stフルアルバム『WE GO!』をリリースした。

「4年前にアーティスト活動を始めたのは、殻を破る必要性を感じたから。自分の中で『下野紘はここまでだな。もうこれ以上成長できないかもしれない』と思ってしまった時期があったんです。それで、新しいことや苦手なことにトライしようと思い、本格的に歌を始めました。それから4年経ち、今度は『今の声優・下野紘に何ができるんだろう』ともう一度見極めたいという気持ちになって。そこで、今回のアルバム発売をもってアーティスト活動をいったん休止し、次のステージを目指すことにしました」

20年ぶりに朗読したあの作品と運命の再会!?

 下野さんが「今年、一番印象に残った本」に挙げたのは、『のぼうの城』と『暗殺教室』の2作。『のぼうの城』は、愚鈍なようで領民から慕われる「のぼう様」こと成田長親の奮闘を描いた歴史小説だ。石田三成率いる大軍勢に攻め込まれながらも、彼は驚きの戦術で敵軍を退けてみせる。

「大軍勢に対して、軍略や奇策を用いて一矢報いるなんて痛快じゃないですか。もう上下巻、一気読みでした。僕は今年、朗読劇『信長の犬』で軍師・野口多門を演じたのですが、僕の中で『のぼうの城』に登場する成田家の家老・正木丹波守利英と重なる部分があったんですよね。どちらも、ちょっとダメな上司を持ちながら、その才を信じる男。演じるうえで参考にしましたし、それも含めて印象に残っている作品です」

一方『暗殺教室』は、これまでに何度も読み返してきたマンガだという。

「暗殺コメディですけど、生きていくうえで心を軽くしてくれる言葉がちりばめられているんです。殺せんせーって、実はちゃんとした教師なんですよね。最近久しぶりに読んで、教育書としても優れているなと思いました」

 本と言えば、ダ・ヴィンチ公式YouTubeチャンネルでは『注文の多い料理店』の朗読も披露してくれた。実はこの短編、下野さんにとって思い出深い作品なのだという。

「声優の養成所に通っていた時、講師の方の前で最初に発表したのが『注文の多い料理店』だったんです。当時、僕が演じたのは紳士B(山猫軒に迷いこんだ紳士のひとり)。初めての経験だったので、演技はボロボロでしたけど(笑)。久々にこの作品を読んで感じたのは、音の面白さ。普通、目で読む時と声に出す時で、文章の印象って変わるじゃないですか。でも『注文の多い料理店』は、話し言葉に近いんですよね。宮沢賢治はすごく音を大切にしているんだなとあらためて気づきました」

 収録はスムーズに進んだが、ある箇所ではちょっとした読み間違いも。それを指摘された下野さん、「思い出した!」と独り言を漏らしていたようだが……?

「あ、聞こえちゃいました(笑)? 終盤に『二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました』という箇所があるじゃないですか。今回の収録で『泣いて』が1回少ないとご指摘を受けたのですが、養成所の練習でもまったく同じミスをしたなと思い出して(笑)。懐かしい記憶が蘇りました。でも、当時に比べれば、頭の中で『こう演じよう』とイメージを描くことはできるようになったかな。朗読をすると、声優という仕事が好きだな、自分は文字を声に出し、その声でいろいろ表現することが好きな人間なんだなと実感しますね」

 2021年には、キャリア20周年を迎える下野さん。記念すべき節目の年に、チャレンジしたいことは何だろうか。

「……どうしよう、何も考えてない(笑)。あ、でも富士登山にはチャレンジしたいです。本当は今年登りたかったのですが、コロナの影響で登れなくて……。声優の鈴村健一さん、石川界人くんが賛同してくれたので、来年こそ登りたいですね。あとは自衛隊入隊体験(笑)。昔の自分だったら、絶対にやらなかったようなことにも挑戦したいです」

しもの・ひろ●東京都出身。2001年、声優デビュー。02年、アニメ『ラーゼフォン』で主役の神名綾人に抜擢。『うたの☆プリンスさまっ♪』(来栖翔役)、『進撃の巨人』(コニー・スプリンガー役)など出演作多数。今年8月、アルバム『WE GO!』をリリース。

下野紘さんが朗読する『注文の多い料理店』
ダ・ヴィンチ公式YouTubeチャンネル「ダ・ヴィンチ放送部」にて配信中!

『のぼうの城』(上・下)

『のぼうの城』(上・下)
和田 竜 小学館文庫 各457円(税別)
天下統一を目指す豊臣秀吉が落とせなかった城、それは武州・忍城。領民から「のぼう様」と慕われる城主・成田長親には、智も仁も武もないが、人間臭い魅力が備わっていた。今までにない英雄像を示した、エンターテインメント歴史小説。

『暗殺教室』(全21巻)

『暗殺教室』(全21巻)
松井優征 集英社ジャンプC 各440円(税別)
月を破壊し、1年後には地球を爆破しようともくろむ超生物が、椚ヶ丘中学校3年E組の担任教師として就任した。その怪物「殺せんせー」を暗殺すれば、報奨金は100億円。かくして、生徒たちが先生の命を狙う異常な学校生活が幕を開ける!

取材・文:野本由起 写真:干川 修
ヘアメイク:小田桐由加里