原作コミックが内包する「力強さ」に惹かれて――『ホリミヤ』石浜真史(監督)インタビュー

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公開日:2021/1/16

ホリミヤ
TVアニメ『ホリミヤ』 TOKYO MXほかにて毎週土曜24:30より放送中 (C)HERO・萩原ダイスケ/SQUARE ENIX・「ホリミヤ」製作委員会

 現在放送中の、TVアニメ『ホリミヤ』。原作マンガの『ホリミヤ』は、WEBコミック『堀さんと宮村くん』から作画を新たにリメイクされた作品だ。メインキャラクターの堀と宮村を中心に、魅力的な登場人物たちの掛け合いと青春模様が楽しい映像作品に仕上がっている。ぜひ、たくさんの方に、この作品に触れてほしいと思う。ダ・ヴィンチニュースでは、先行して配信したコミック『ホリミヤ』の試し読み&原作者対談に続き、メインキャストたちの対談・座談会や監督の言葉を通して、TV『ホリミヤ』の楽しさをお届けしていきたい。

 前回の堀 京子役・戸松 遥&宮村伊澄役・内山昂輝の対談に続いてお届けするのは、石浜真史監督へのインタビューだ。映像化にあたり、大事にしようと考えた『ホリミヤ』に内包された「ある力」とは――? これまでの監督としてのキャリアも振り返りつつ、『ホリミヤ』の面白さを映像制作の視点から語ってもらった。

「原作を尊重」というレベルではなく、「絶対に外さないぞ」という気持ちで描いている

――TVアニメ『ホリミヤ』、今まさに制作中なわけですが、どのように手応えを感じていますか。

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石浜:現状でき上がっている部分を観る限りは、みんなですごく楽しんで作れている感じが、そのままフィルムに出ていると思います。全セクションがうまく噛み合っていて、気持ちがいい感じはありますね。それと、1話では役者さんに芝居づけをするわけですけど、彼らのお芝居がうまくハマってくれたので、全体的に気持ちよくシンクロしている感じがあります。

――制作前に監督が狙いとしていたものがハマった部分、想定通りではなかったけど作品によい影響をもたらしたこと、この2点について教えていただけますか。

石浜:まず、原作マンガが持っているテンポ感、時間の流れが、映像になったときにそのままうまくいくんだな、と。読者にマンガを読んでもらうテンポ感に力強さがあるんです。それがそのままアニメーションの映像に落とし込まれていないと、原作と同じように面白いと感じる感覚は共有できない。なので、原作を読ませる流れのテンポ感を意識していましたし、それは正しかったな、と感じてます。あとは、原作が持っている色彩の要素、ですかね。アニメーションでは、キャラクターや背景の色味を原作とはちょっと違う形で表現しようとしてるんですが、そこで多少新しさを感じてもらえて、「これも『ホリミヤ』だね」と言ってもらえてたりもするので、想定外の成功とは言わないまでも、新しい魅力としては提示できているのかな、と思います。

――原作コミックに触れた印象として、まずはそのテンポ感がキモである、と感じたんですか。

石浜:読んでいくうちにわかったというよりも、映像に落とし込むときに突然気づかされた感じがあります。読んでいるときは自然と、こちらのハートは取り込まれてしまっているので。なので、実際に絵コンテに落とし込むときにそのテンポ感の力強さを感じました。各話の演出さんにも、そのテンポ感を読み取ってほしい、と口酸っぱく伝えています。

 コミックを読んでいて「すごいなあ」と思ったのは、キャラクターのあり方ですね。あんなにキャラクターが登場するのに、まったくかぶらない。若い世代のコミュニティって、かぶってる人がいそうでまったくいなかったりしますけど、それを表現できていることがすごいな、と思いました。

――「これはいい作品になるぞ」と確信を得られたシーン、セリフはありましたか。

石浜:セリフの収録は大きかったです。各役者さんのキャラクターの受け取り方、原作の持つ魅力の受け止め方は、きちんとみんなを納得させる形で読み込んできてくださっていたな、と思います。『ホリミヤ』はある意味、声が入ったことによって大きく変化する作品ではないと思うんですよ。もともとのセリフにも重みがあるから、話し方によって解釈が変わるセリフは、ありそうでなかったりする。なので、役者さんそれぞれの個性が、そのキャラクターをより際立たせていく。そこからは、役者さんのスキルに寄り添うセリフや間を作るような形にシフトしました。役者さんをコントロールするのではなく、役者さんの一番いいところをもらえるために努力する。そういう形に、変化しましたね。

――『ホリミヤ』はとにかくキャラクターが魅力の作品ですが、彼らを描く上で大事にするべきポイントは何であると考えましたか。

石浜:原作と違うオリジナルの流れでセリフを作ると、違和感が出やすいんですよ。なので、原作から一切外れない形でのキャラクターの動き、言動が、必須ではありますね。表情についても、原作以外のものを模索し始めると、やっぱり違和感が生じる。「原作の正解感」がかなり強い作品なので、逆に言うと、原作どおりにきちんとやっていけばいいし、その答え合わせがすごくラクなんです。なので、オリジナルに入るようなストーリー展開の部分は、「原作だったらどうなるのかな」「原作だとこのシーンはこういう撮り方をするかな」と想像しますね。ストーリーを進めていく上での都合のよさは排除して、「マンガだとどうなるかな」「どうしゃべるかな」って考えています。

 マンガの中のキャラクターたちはしっかりとブレずに、違和感あるセリフがひとつもないまま進んでいきますし、話を進めるために都合のよいセリフも全然しゃべってくれない。アニメにするときのストーリーテラーみたいな役回りがひとりもいないので、ちょっと遠回りしないといけない作り方にはなるんですが、ご都合主義的なキャラクターがまったくいない状態で進められるのは魅力です。キャラクターに関しては、原作で言いそうにないセリフは一切言わせないし、「原作を尊重」というレベルではなく、「絶対に外さないぞ」という気持ちで描いています。

――コンテを描いたり、演出をつける中で、描いていて面白く感じるキャラクターと、逆に難しく感じるキャラクターについて教えてください。

石浜:コンテを描いていて楽しいのは、仙石とか石川です。マンガの中の雰囲気以上に、ちょっと幅を持って動ける部分があるので、絵を描いているだけでも楽しいです。たぶん、楽しい位置、そこそこ引いて俯瞰で見られる位置に立っているんでしょうね、あのふたりは。難しいのは、桜です。自身が、それなりに立ち位置を気にしながら動いているキャラクターなので、自由に動かすわけにはいかないですし、気を遣います。「どの位置にいて、どういう目線をしているか」が、すごく気にされちゃうキャラクターだし、そこにいてニコニコしているだけだと、もう桜ではなくなっちゃうので。そこは難しいですけど、気を遣って描いていくのも、楽しいです。

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『ホリミヤ』ロスみたいな状態に陥らせたい。そこに陥らせたら勝ち

――石浜さんが過去に監督を務められた作品を、それぞれ拝見してまして。

石浜:ああ~、それはありがとうございます。

――2012年の初監督作品は、正直途中でしんどくなりながらも映像として面白いから最後まで観たので、とても記憶に残ってます。作る側も大変だったんじゃないか、と想像していまして。

石浜:そうなんです。実は、やっている最中は、そこまで大変さを感じなかったんですけれども、終わって次の作品をやるにあたって、その作品の異常な重さを感じましたね。必死すぎて、夢中すぎて、大変と思うことすらできなかった、というか。当時は、監督としてのセオリーを知らないし、人脈もまったくない状態でした。今思い返すとまったく立ち回れていなかったし、現場をコントロールすることも、一切できていなくて。「よく各話でき上がったな」、振り返ると不思議に思うくらいの状態で進んでいましたね。俯瞰で見ると、自分かわいそうだなってちょっと思います(笑)。

――(笑)確かに。

石浜:ただ、恐ろしく魅力のある原作で、絵がないものの映像化という意味では、どんな作品よりもやりがいはあると思うんですよ。だから当然ラッキーでもありますし、監督としての立場の恐ろしさも知ることができました。ものすごい作品を経験させてもらったな、と思いますし、「今ならもっとうまくやれるのに」っていう悔しさもありますね。ビックリするくらい発見がありましたし、ほんとに勉強させられました。

――で、2018年に担当された作品は、普通にプレイしたら100時間くらいかかるゲームが原作じゃないですか。出てくるキャラクターも、避けて通れないエピソードも山ほどある一方で、原作をただなぞるだけだと、たぶん面白くならない、という。放送当時、クレジットを見たときに、「また難しいのやってるな」と思いました(笑)。

石浜:(笑)そうですね、難しかったは難しかったです。シリーズ構成に入ってくれた方がゲームの大ファンで、作品の魅力の本質みたいなものを理解されている方だったんです。なので、現場の仲間が武器になっているというか、その部分ではすごく強みを感じていましたし、肩の荷がいくつか下りている状態で制作ができたと思います。原作チームも前のめりで、「ちゃんとアニメを作ってくれよ」という感じではなく、一緒に作っている感じがすごくありました。作品をよりよくする手段も提示してもらえたな、と思います。

――それこそキャラクターそれぞれに思い入れを持ったファンがいる作品ですから、ストーリー上後半から出てくる人もちゃんと見せないといけなかったり、それこそ気を遣う部分は多かったんじゃないですか。

石浜:そうですね。「いるだけになっちゃう」をどう避けるのか、常に頭を悩ませていました。各話の演出さんとも、「みんなが揃っていても、いるだけにならないようにするために」と策を練ったりして。たとえば、ゲームでは主人公と誰かがふたりでずっとしゃべっていたシーンでも、アニメではセリフをそこにいる全キャラに割り振ったり。それで言うと、『ホリミヤ』はゲームではないので、原作で完成していて、マンガの中には「いるだけのキャラ」って存在しないんですね。なので、その部分は何も考えずに作れます。『ホリミヤ』の場合、そのシーンの中でセリフがないキャラクターがいても、全然大丈夫なんです。コミュニティとしての居場所が確立しているので、その場にいて表情が変わっているだけでも、まったく問題ない状況が、各所にあります。

――それこそ、石川とか由紀は、そういう感じがありますね。会話の背景にいて表情が変わっているだけでも、意味をちゃんと出してくれるというか。

石浜:そうですね。その場にいて会話を聞いていることが重要であって、絡んでくる必要がなかったりすることもあります。それが、原作の持っている空気感でもあるのかなって思います。

――石浜さんは、監督として視聴者の存在をどのように位置づけているんですか。

石浜:視聴者至上の気持ちで作るようになりました。『ホリミヤ』なら、原作を知っている人はもちろん、原作を知らずにアニメから観てくれる人がいたとして、その人にどう見えているのかを、すごく考えるようになりました。実際、自分のでひとつ具体的な目標がありまして、原作を知らずにアニメ1話を観た人が、思わず原作マンガを購入したい気持ちになってもらえたらなと。原作マンガをどうしても読みたくなるアニメ化って素晴らしいと思うので、そこは目標にしていますね。

――原作が読みたくなる映像であり、終盤になったらキャラクターたちと一緒に過ごす時間がなくなって寂しくなる、と思ってもらえたら最高ですね。

石浜:そうですね。できれば『ホリミヤ』ロスみたいな状態に陥らせたいですよね。おそらく、そこに陥らせたら勝ちなんだと思います。

――過去の監督作品での経験も踏まえて、作り手としてのパワーが強化された状態で『ホリミヤ』に取り組めているのではないかな、と思うんですけども、石浜さん自身のキャリアの中で、『ホリミヤ』はどんな位置を占める作品になりそうですか。

石浜:のちのち、「本領発揮」みたいな形で受け止めてもらえたらいいな、と思いますね。いろいろやってみて、自分の中で一番描きたい世界は学生、特に男の子が楽しそうにしている作品なんじゃないかな、と。それを描くのが楽しいんだなって、最近わかってきたんですよ。なので、『ホリミヤ』のアニメ化のお話が来たときに、すごく喜んだんです。一番やりたかった世界の映像化だったので。自分の好みと合致するという点で、この作品で「本領発揮」感が出ていて、将来的にそういう形で作品が位置づけられていたら、自分としてはすごく嬉しいです。

 とある作品の演出をしたときに、自分としては手応えもまったくわからない状態ではあったんですが、すごく楽しくストレスなく作れたんです。しかも、原作マンガを尊重して、作品全体の中で特に目立つこともなく、美しく収めよう、と思いながら作ったんですけど、放映が終わってから、自分が演出した話数だけ浮いている、なんか違う、という評価をいただいたんですね。そのときに、「あんなに目立たないように頑張ったのに、浮くんだなあ」と思って、もちろん反省もしたんですが、楽しめて作れた分、本質的にやりたい映像感が出てしまうことはあるのかもしれないな、と思いました。そのときに、自分はこのジャンルが好きなんだなって、意識するようになりましたね。

――ちなみに、学生の楽しそうなさまを描くのが楽しいと思う理由は何なんでしょう。

石浜:なんでしょうね。自分では、まったく分析できていないんですよ。自分に合っている・合ってないとは、全然違う次元のものの感じがします。とにかくやっていて楽しめているし、無条件に気持ちよく作れる。『ホリミヤ』もまったく同じで、とにかく楽しいんです。もう、ずーっと楽しい(笑)。自分の中で無理をしてる感じもないですし、今回も原作を映像化するにあたって、全面的に受け取れる感、全面的にこれをそのままアニメにしたい感がありました。ちゃんとマンガっぽいのに、よくよく読んでいくとすごくリアリティのあるキャラクターがたくさんいて。そういうコミュニティのあり方が好きなんだと思います。なので、それを踏まえた上での、「本領発揮」です(笑)。そう見ていただけたら、自分としては本望ですね。

――「青春を描かせたら、やっぱりこの人だよね」みたいな。

石浜:そうそう。いずれそう言っていただけたら、すごく嬉しいことです。

TVアニメ『ホリミヤ』公式サイト

取材・文=清水大輔

石浜真史(いしはま・まさし)
アニメーション監督・演出家、2012年、TVアニメ『新世界より』で初監督。その他の監督作に、映画『ガラスの花と壊す世界』、TVアニメ『PERSONA5 the Animation 』がある。