アイドルマスター 15周年の「今までとこれから」⑫(萩原雪歩編):浅倉杏美インタビュー

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公開日:2021/6/17

萩原雪歩
(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

15年間で出てきていない雪歩の魅力が出せるように、一生懸命向き合って、一緒に歩いていけたら

――『アイドルマスター』での活動全体を通して、特に思い入れがある曲について教えていただけますか。

浅倉:最初にレコーディングしたのが“Kosmos, Cosmos”のゲームサイズだったんですけど、2分の曲を録るのに6時間もかかってしまって。そのときに、『アイドルマスター』に参加して初めての挫折を味わいました。最初だから上手くいかないと思っていたとはいえ、胸がキュッとなるような苦い気持ちが残る体験でした。その“Kosmos~”を、フルサイズでレコーディングをさせてもらったのが、前回の『MA3』に入っているんですけど、その録り直しのときにもう一度一生懸命楽曲と向き合って、「やれるだけのことはやった」という気持ちで臨みました。それまで、『アイドルマスター』の中で苦手に感じていた曲が“Kosmos~”だったけど、レコーディングをし終えて、萩原雪歩の曲として新しくリリースさせてもらえたことで、自信がつきました。

 やっぱり、どうしても歌がもともと得意ではないと思いつつ『アイドルマスター』に参加したので、レコーディングをするときに、「上手く歌えなかったらどうしよう。私が上手く歌えないだけならいいけど、歌があまり上手じゃないことで、雪歩のアイドル性も否定されてしまったらどうしよう」という恐怖心が、根強くあって。あと、前任者の方が歌っている曲もあるから、どうしても比べられたりもしますし。それを乗り越えるまでには時間がかかってしまったけど、 “Kosmos~”をフルサイズで録れたことで、肩の荷が下りたような気がしていました。

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――今回リリースされる『MA4』には、どんな作品にしたいと考えて制作に臨んだのでしょうか。

浅倉:私の中で、『MA3』には集大成みたいな感覚があったんです。だから当時、次の『MA4』が出るとは、微塵も想像していなくて。なんとなく、前作でソロとしては出し切ったつもりでいたので、「『MA4』を録る」と言われたときは、燃え尽き症候群じゃないですけど、「また1から作り上げていかないと」みたいな気持ちがありました。もしかしたら、『MA4』を集大成だと思って録っていらっしゃる方もいるかもしれないですけど、私的には1からのスタート感が強かったです。そして、また新しくスタートするんだったら、今までとは違うものをお見せしたい。たとえばコーラスとか、自分の声でできるものはすべて自分でやり切りたい、と思いました。楽曲の選曲は今まですべて制作の方にお任せしていて、一切口は出してこなかったんですけど、今回「一緒に考えてみませんか」って言われたときに、一緒に考えさせてほしい旨を伝えてみたり。自分が1から関わっていくことで、新たな面を見せられたらいいな、という思いは強かったです。

――新曲の“芽吹の季”は、シンプルに言うと、とても雪歩らしい曲だなって思いました。行ったり来たり、まっすぐは進めてないけどしっかりゴールを見据えてたどりつくような、雪歩感があるなあ、と。

浅倉:今回、作詞・作曲・インストも含めて、山本真央樹さんが作ってくださっていて。12年来の雪歩Pでいらっしゃるんですよね。本当に雪歩が大好きで、雪歩に関わるお仕事をすることをひとつの目標に掲げてくださっていたみたいで。すごくご活躍されている方なのに、熱意を持って「やりたい」と思ってくださっていると、コロムビアさんの中ですごく有名だったらしいです。やっぱり、雪歩愛が強いからこそ、歌詞ひとつとっても、楽曲を見ても、とにかく本当に雪歩のことを考えて作られてる曲だなって思いました。前情報でも、本当にたくさんの思いを込めて書いてくださっている曲なんだと聞いていたので、プレッシャーがすごかったです(笑)。

 私自身も、その気持ちに雪歩として応えたかったし、雪歩として新たな一面が見せられるんじゃないかな、と思いました。真央樹さん自身、壮大な曲を雪歩で作ってみたかったらしくて、今までのソロ楽曲にないような、広がりがあって大作!っていう曲になっています。歌詞も本当に素晴らしくて。雪歩のことが好きな方、雪歩をずっとプロデュースしてきてくれた方には、刺さるものがあるんじゃないかなあって思いますね。歌唱面では難しくはあったんですが、たくさん雪歩を研究していただいているので音域的には無理がない曲で、本当に雪歩のために作られた曲だなって、改めて思いました。

――長い時間をともに過ごしてきた『アイドルマスター』は、浅倉さんにとってどんな存在でしょうか。隣を歩み続けてきた雪歩に、今かけたい言葉とともに教えてください。

浅倉:声優を始めてからたくさんのキャラクターに触れる機会もあって。どの作品にも本当に思い入れがあって大切であることは前提としても、濃い思い入れをたくさん共有しているのは『アイドルマスター』かなって感じています。『アイドルマスター』には萩原雪歩という女の子がいて、その子を私が演じる――シンプルに言えばそうなるんですけど、そこだけにとどまらずに、本当に私自身が成長させてもらったり、自分の考え方や生き方にも関わってくるような、切っても切り離せない作品になってきている気がします。今は、毎週ご提供できるようなレギュラーのものはやっていないですが、『アイドルマスター』で演じる機会は多いし、まったく触れない月はなかったりするくらいなので、生活の一部のようになっています。それだけ、役者にも深く根づく作品だからこそ、やっぱり15周年を経てもまだまだ続いていくような機会がたくさんあって、さらにどんどん世界が広がっていくんだろうなって思うし、役者をやっていてもなかなか出会えない稀有な作品だと思うので、ずっと大切にしていきたいです。雪歩役として、求められることに応えられるように、自分自身も鍛練を怠らずにやっていきたいと思います。

 雪歩に関しては、いわゆる地の声というよりは、作った声でお芝居をしていて、ちょっと芯が強かったり、イヤなことから逃げ出したくなって弱気になる、ネガティブなワードを使いがちだったりする部分は似ていたりもするんですけど、根底の部分では、雪歩はたぶん私とは違うタイプの女の子だと思います。そういう女の子と出会えて、彼女の性格を自分の中に取り込めたことで、考え方が広がりました。これからも雪歩を研究して、もっともっといろんな雪歩を見せていきたいですね。ひとりの人間として見たときに、表情は無限にあると思うので、この15年間では出てきていない雪歩の魅力が出せるように、一生懸命向き合って、雪歩と一緒に歩いていけたらいいな、と思います。


取材・文=清水大輔