原作ファンの3人が、アニメの魅力を熱く語り合う!──TVアニメ『ヴァニタスの手記』水瀬いのり×下地紫野×茅野愛衣インタビュー

アニメ

公開日:2021/8/18

ヴァニタスの手記

吸血鬼(ヴァンピール)に呪いを振りまくといわれる、機械仕掛けの魔導書(グリモワール)「ヴァニタスの書」。この書に導かれ、吸血鬼の青年ノエと吸血鬼専門医を自称する人間ヴァニタスが、運命の邂逅を果たす──!

7月から放送がスタートしたTVアニメ『ヴァニタスの手記』は、19世紀パリを舞台にした呪いと救いの吸血鬼譚。原作者・望月淳さんのコミックを、『鋼の錬金術師』『交響詩篇エウレカセブン』など、数々のハイクオリティアニメを制作したボンズが流麗なアニメーションに仕上げている。

原作者や制作スタッフ、キャストへのインタビューをお届けする『ヴァニタスの手記』特集、今回登場いしてもらったのは、ジャンヌ役・水瀬いのり、ルカ役・下地紫野、ドミニク役・茅野愛衣の3人。原作コミックの大ファンでもある彼女たちが見た『ヴァニタスの手記』の作品世界とは――?

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時を重ねて、好きだった作品の先生の作品に関われたことを、当時の自分に伝えたい気持ちがあります(笑)(水瀬)

──TVアニメ『ヴァニタスの手記』は、原作の持つ空気をしっかり表現しつつ、映像化されたことでより作品世界が豊かになっている印象がありました。ここまで放送された話数をご覧になって、どんな印象がありましたか?

茅野:1話はみんなで観たんです。一緒に観られたのは嬉しかったね。

水瀬:はい。主役のおふたり(花江夏樹・石川界人)が登壇された上映会はありましたけど、わたしたちは観られなかったので、改めて1話をみんなで観たときに、原作が持つ雰囲気――ちょっとゴシックであったり、現代と近未来が融合したような世界観が映像になったのを見て、すごくワクワクしました。1話でノエが街並みを見るのと同じように、わたし自身も好奇心を持って映像を観させていただきました。VRのように、360度見てみたいな、と思う映像美があって、個人的にはキラキラした感情をもらいました。

茅野:確かに、1話のノエの気持ちはすごくわかります。わたしも、一度だけパリに行ったことがあって、そのときも『ヴァニタス』のように、寝る間を惜しんで街中を歩き回りました。何日目かで、疲れ果ててベッドで爆睡したんですけど(笑)。

水瀬下地:(笑)。

茅野:同じようにワクワクする感覚を、『ヴァニタス』を観ていて思い出しました。みんな、パリに魅了されて、行きたくなるだろうなって思います。下地ちゃんはどうだった?

下地:ほんとに、おふたりのおっしゃる通り!

水瀬:ははは。

下地:(笑)本当にパリに行った気持ちになるくらい、繊細で美しい世界でした。原作を読んだときも、先生の描き込みがすごいし、キャラクターはもちろん、背景もすごくきれいだな、と思っていて。アニメで観ると、立体感や色がついて、よりパリに行ったような気持ちになりましたし、キラキラして見えました。

茅野:タルト・タタンとか、「みんなで食べたいね」みたいな話を現場でもしていて、その場でタルト・タタンのおいしいお店を調べたりもしていました(笑)。

──板村監督とシリーズ構成の赤尾さんは、パリに取材に行かれたそうですね。観ていて、街並みもそうですけど、暗がりや闇の表現が、映像的に素晴らしいなあ、と思いました。

水瀬:確かに。

茅野:そう、シャルラタンが、思った以上に怖くて。

下地:怖かった~。

水瀬:オンエアを観たときはゾッとしました、「怖い!」と思って(笑)。

茅野:4話の、上から伸びてくるシャルラタンの姿って、ちょっとしたトラウマになりそう(笑)。目に焼きついて離れない感じでした。

──1話をご覧になったことで、その世界の中でお芝居をすることがより楽しくなったんじゃないですか。

3人:うんうん。

下地:上映会をしたあとにいつものアフレコだったので、みんなよりイメージができるようになったというか、さらにやる気が出たところはあったと思います(笑)。

水瀬:わたしたち、3人とも1話には出てこないキャラクターだったこともあって、観終わったあとに、改めて「わたしたち、これに出るんですね」と(笑)。

茅野:そうそう! 「こ、これに出るんだ!?」みたいな(笑)。

水瀬:「このクオリティの中に自分が入り込んでいくんだ」と思うと、より一層背筋が伸びました。「頑張らなきゃ!」って思うような、予想を超える第1話でしたし、作品のいちファンとして、出られることの喜びを感じました。

茅野:わたしたち、3人とも原作を追いかけてるんです。現場でも、ただのファンみたいに話してます(笑)。

水瀬:最近発売になった最新刊を読んで、改めて先の展開だったり、キャラクターそれぞれが抱えてるものも大切に描かれているので、でもアフレコはまだそこまでに行っていないから、ファン心と役者心の両立が難しいです(笑)。

茅野:ふたりは、オーディションの前からもともと知っていたの?

水瀬:わたしは、望月先生の『PandoraHearts』がすごく好きで、当時学生だったと思いますが、リアルタイムで観ていました。だから、オーディションを受ける際に「あっ!」と思って。意識しすぎて、趣味と仕事で公私混同するとうまくいかないことがあったりするので、フラットな気持ちで臨みました。いつか対面して先生とお話できたらいいな、と思いつつ、時を重ねて、好きだった作品の先生の作品に関われたことを、当時の自分に伝えたい気持ちがあります(笑)。宝物ができたような気分ですね。

下地:わたしは、『PandoraHearts』は知っていたんですけど、観たことはなくて、今回初めて触れました。オーディションには、あえて読まずに臨みましたね。

茅野:わたしも、オーディションに受かってから読みました。でも、どこまで読むかめちゃめちゃ悩んでしまって。『ヴァニタス』は途中からの登場ということもありつつ、若林(和弘/音響監督)さんとのお仕事でもあるので、先を知っていたほうがディスカッションしやすいのかなと思い、読んでいったらまあ面白くて! 最初は「アフレコ台本と同じくらいのペースで」と思っていたけど、一気に最新話まで(笑)。最新刊も、発売された日に読みました。

水瀬:わたしも、予約して買いました(笑)。

下地:久々に、発売日にマンガを買いました。

水瀬:みんなが共通した話題で盛り上がれるのも嬉しいですし、作品に関わっている間柄として盛り上がれるのは、二重の喜びがあります。

ヴァニタスの手記

ヴァニタスの手記

ヴァニタスの手記

とにかく一生懸命、ピュアに、まっすぐに、を心がけています(下地)

──アニメの映像はカッコいいバトルシーンもありつつ、デフォルメされたキャラクターが出てくるコミカルなシーンもあって、だいぶ緩急がついているから、収録も体力的になかなか大変なのでは、と想像しているんですけども。

水瀬:そうですね、特に男性キャラは大変そうな印象があります。

茅野:確かに!

下地:ルカは今のところ、ちょっと男性キャラ、という感じではないですね(笑)。

茅野:ルカはかわいい!

水瀬:かわいい! 「ルカがいなかったらどうなってたんだろう?」みたいなシーンも、多々ありますし(笑)。ルカとジャンヌは、間違いなくヴァニタスたちと出会って表情の変化が増えていくキャラですし、この先も最初は想像できなかったような表情がどんどん見えていくと思います。わたし自身も、演じていて振り幅が広がった気がします。個人的に、ジャンヌ役のオーディションを受けた時点で「これはかなりチャレンジな役だな」と思っていて、自分が得意とするキャラクターではないと思いながらも、挑戦の意味も含めて受けさせていただいたキャラクターでした。受かったときは、事務所のみんなも「ガタッ」となって(笑)。

茅野:(笑)確かに、いのりちゃんのこういうキャラクター、珍しいかもしれない。

水瀬:そうなんです。どちらかというとルカのように、お姉さんが横にいて守られるようなポジションの役が多くて、自らが盾になり守る戦士的な役割の女の子は、初挑戦になると思います。若林さんとレギュラーでご一緒するのも久しぶりで、改めてお会いしたときに、「時間も経ってキャリアも上がって、期待してるよ」みたいな、見えない楔を打ち込まれて(笑)。若林さんは優しく言ってくださったんですけど、個人的には「ヤバい! 心臓が……」となりました(笑)。

茅野:(笑)現場で掛け合いをしていても、すごく楽しい作品です。監督さんも、すごく愛を持って作っていらして、それはアフレコ現場でも毎回感じています。アフレコが終わると、必ず監督が出てきてくれるんだよね。

水瀬:それこそ、監督がSDキャラみたいな感じで――。

下地:うんうん。

茅野:わかる!

水瀬:ぱやぱやしたお花が咲いてるような、優しい方なんです。

茅野:とても穏やかで、みんなでついていきたくなるような方です。スタッフの皆さんが監督を慕って、ついていってるのがわかるので。

水瀬:担当したスタッフの方を紹介してくれるときにも、「この子が一生懸命描いていて」みたいな感じで、気さくに伝えてくれます。監督の肩書きを持ちつつそのやわらかさが、とてもいいギャップで。

下地:いつも褒めてくれるんですよね。第一声が、「今日もよかったです!」から始まってくれます。

茅野:確かに!

水瀬:安心しますね。

──板村監督に、だいぶ前に〈物語〉シリーズでお話を聞いたことがあるんですけど、わりとロジカルなクリエイターさんだな、という印象がありました。現場では、やわらかい方なんですね。

水瀬:でも確かに、けっこう分析はしていたかもしれないです。わたしが「ジャンヌ役は不安で」みたいな話をしていたときに、『化物語』の話題も出ていました。「今までと異なる役が新たな一面を引き出し、いずれはその人の代表作になることもあるので、水瀬さんなりのかっこいい女性役をこの機に」というようなことをおっしゃってくださったんです。そのときに、この業界で長くいろんなものを見てきた方なんだなって思いました。

──奇しくも、両方とも吸血鬼が出てくる作品ですね。

水瀬:あっ、そうですね!

茅野:吸血鬼ものって、あまり女性がやることってないよね?

水瀬:吸血する側よりも、される側のイメージがあります。女性側の衝動で、あまりないですね。

茅野:そう、だからちょっと最初の吸血シーン、経験もなかったし、ドキドキした。

水瀬:この作品の魅力のひとつではあるので緊張したし、何が正解なのかわからずやってます(笑)。

茅野:血を吸われたことがないから、吸われたらどんな感じなのか、吸ったらどうなるんだろう、とか、気になっちゃって。

水瀬:どれくらいの衝動なのかがわからないですよね。苦しかったりもするみたいですし。

茅野:「欲しくてたまらない!」ってなるわけだから、どういう表現になるんだろうって──経験したことがあれば、わたしたちも表現しやすいんですけど。吸血衝動ってないから(笑)。

水瀬:あっても言えない(笑)。

下地:ははは。

茅野:「あります」って言われても「えええ!?」ってなる(笑)。だから、そこは難しかったです。逆に、(石川)界人くんが意気揚々と吸血シーンを演じているところを見て、「すごいなあ!」と思いました。

下地:わたしは、「もしかしたら、ルカも今後……」と思いながら、皆さんの吸血シーンを見ています(笑)。

茅野:(笑)ルカが吸うとなると、どういう感じになるのか――。

水瀬:見たいけど見たくない! わたし(ジャンヌ)であってほしい(笑)。

下地:わたしもジャンヌがいいです(笑)。ジャンヌであれ!

──(笑)吸血シーンは、観てる側にも緊張感が走りますね。

水瀬:ありますよね。「お茶の間、だいじょぶかな?」みたいな(笑)。

茅野:お茶の間って!(笑)。

下地:ははは。

水瀬:どうか、画面も見ていただきたいです。音声だけでもドキドキしますし、そこもこの作品の魅力だと思うんですけど、吸血シーンでは音響効果も粒立つようになっていて、声や吐息が前に聞こえるようになっていて、作品の中ですごく際立ってるんですね。感情が動く瞬間、何かギアが上がる瞬間には、あえて音が削ぎ落とされて、声だけになっていたりして。そこにハラハラしながら、わたしも観ています。

──下地さんが演じるルカにはとても気品、上品さがあって、観てる人もみんなルカを好きになるんじゃないかな、と感じました。彼を演じる上で、大切にしていることはなんですか。

下地:一番は、ピュアでいることを意識していますね。作品の中では、まだ何も知らない子どもなので、あまりこねくり回したお芝居をするよりも、ピュアに、ストレートに表現したほうがいいのかな、と思っています。あとは、「巻き込まれよう」と思いながらやっています。とにかく一生懸命、ピュアに、まっすぐに、を心がけています。

──なるほど。そのアプローチが、1本作品の筋になっている感じもありますね。

下地:そう感じていただけていたら嬉しいです。原作のファンとしては、ルカには傷ついてほしくないという思いもあるんですけど、この先にはたぶん何かが待ってると思うので。その中でも、真摯に向き合うことを忘れずにいてほしいなって思いながら、演じています。

──茅野さんが演じるドミニクですが、赤尾さんはドミの登場シーンをお気に入りとして挙げていました。

茅野:嬉しいです。けっこうドミは難しくって。オーディションのときは、実はもっと男性っぽく演じていたんです。初登場のときも、その感じかなと思っていたら、「男の子っぽく聞こえすぎるので、もっと女性らしくしてください」というお話があって、今の形になりました。それでも、ドミの華やかさ、宝塚の男役の方が纏っているような空気感は出したかったので。声のバランスや年齢感を決めるのに、少し時間がかかりました。ノエといるときとヴァニタスといるときとで、ドミはけっこう変わるんですよね。ヴァニタスには「都合のいい女」って言わせたい、みたいな。一方ノエとふたりの吸血シーンでは乙女な、女性らしいドミがいて。そこにメリハリをつけたいというお話だったので、そこが難しかったです。

ヴァニタスの手記

ヴァニタスの手記

ヴァニタスの手記

ノエとヴァニタスの、合ってるようで合っていない感じのちぐはぐさが、お芝居でも表現されています(茅野)

──この作品のキモのひとつがヴァニタスとノエの関係性、掛け合いだと思います。花江さんと石川さんのお芝居を見ていて感じるのは、どういうことですか?

茅野:ノエとヴァニタスの、合ってるようで合っていない感じのちぐはぐさが、お芝居でも表現されていますよね。掛け合ってはいるんですけど、ノエはノエのゆくままに、ヴァニタスはヴァニタスのゆくままにで、ふたりがうまくバランスを取りながら演じてるんだなって感じます。

水瀬:両方とも予想できない動きをするキャラクターですね。ヴァニタスは、自分の中で答えを見つけて、目的を達成するための最短ルートを行く人で、ノエはそこに人情であったり、人と人とのつながりも優先しながら犠牲の少ない道を行く人、だと思います。ふたりの考え方には違いがあって、でもお互いにちょっとずつ影響されていくキャラクターだと思うので、真逆を行く者同士だからこその空気感があります。そういう意味で、非常にマッチしたカップリングというか、ベストパートナーだなあ、と思いながら見ています。

下地:花江さん、石川さんのおふたりと掛け合いをしたことが今までなかったんですけど、いのりちゃんや茅野さんが、ノエと石川さんが持つピュアさ、少年感はすごくマッチしていると思う、という話をしていて。ノエの、いやらしくないストレートさは、石川さんでないと表現できないんだろうなって感じますし。花江さんのヴァニタスは――ヴァニタスはいつも何が真意なのか読めないですけど(笑)、花江さんが演じるヴァニタスには芯があるし、そのブレなさがすごいなって思います。

水瀬:確かに! なんか、謎の説得力がある(笑)。

下地:おふたりの説得力がすごすぎて、すごいなって思いながらいつも巻き込まれてます(笑)。

茅野:ただの仲良しじゃない感じも、花江くんと界人くんのバランスとして、すごくいいのかもしれないです。ふたり自身との距離感とも、通ずるところがあるのかもしれないですね。

──今後の『ヴァニタスの手記』の楽しんでほしいポイントはどこですか? お三方の、原作ファンならではのご意見をぜひ!

茅野:個人的に楽しみにしているのは、ムルの表情です(笑)。すっごくかわいくて。

水瀬:かわいい!

茅野:舌をペロッとやる姿とか、尻尾の動きとか。原作でもかわいいと思っていたけど、やっぱり動くとかわいさがより増すので、「これは、家に欲しい!」と(笑)。

水瀬:わたしは、ジャンヌが見せるいろいろな感情を楽しみにしてほしいです。これから先、いろんなことが起きていくので……。

下地:起きちゃいますね……。

水瀬:そう、『ヴァニタス』はWEBの予告が面白いんです。もしかしたら気づいてない人もいるのかも。

下地:WEB予告、観てください!

茅野水瀬:(笑)

下地:1個を選ぶのは難しいですね。セリフの掛け合いはもちろんですし、映像もすごくきれいだし、音楽も素敵だし……やっぱり全部です(笑)。

取材・文=清水大輔



TVアニメ『ヴァニタスの手記』公式サイト


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