「一対一」を届けるReoNaのライブが初の映像化。その進化の過程を聞く――ReoNaインタビュー(ライブ編)

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公開日:2021/8/29

ReoNa

 4月29日にパシフィコ横浜国立大ホールで開催されたReoNaのワンマンライブが、「ReoNa ONE-MAN Concert Tour “unknown” Live at PACIFICO YOKOHAMA」(発売中)として、初の映像化を果たした。ReoNaのライブを象徴するワードは、「一対一」である。ReoNaの歌は、パフォーマンスは、ステージ上の歌い手と客席の聴き手の間に、本来は一定程度存在するはずの距離を消し去り、「自分のための歌、楽曲」と感じさせる体験をもたらす。その心地よさ・没入感は、一度経験すると何度でも追体験したくなってしまうのだが、映像においてもその「一対一」の力はまったく損なわれていない。ReoNaが届けるお歌と楽曲の力を、視覚的な情報も含めて存分に堪能できる映像作品、必見である。

 今回は、映像作品と、新たなシングルリリースを機に、ReoNaに話を聞く機会を得た。「ライブ編」では、このたび映像化されたパシフィコ横浜でのライブの振り返りつつ、常にReoNaが掲げてきた「一対一」の意味を改めて問うことで、ライブの進化の軌跡に迫ってみた。

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ライブの瞬間ひとつひとつを、わたし自身にも来てくださった方々にも刻めたらいいな、と思った

――今回映像作品になるパシフィコ横浜での“unknown”ツアーファイナル、3ヶ月以上経っても強烈に記憶に残り続けているライブですが、振り返ってみてどんな体験でしたか。

ReoNa:今回のツアーを通して「ただいま」みたいな気持ちがすごく強かったです。2020年、ワンマンライブは「ReoNa Online Live “UNDER-WORLD”」以外ほとんど開催することができなくて、顔を見てお歌をお届けできるはずの機会が誰のせいでもなく奪われていった時間があって。その時間を超えて、まだ世の中全部が晴れ渡っているわけではない状況の中でも、顔を見てお歌を受け取りに来てくださっている方々がいて、「当たり前じゃないんだな」と改めて噛み締めましたし、「待っていてくれてありがとう」という想いもありました。「ただいま」と同時に、「やっと会えた」が強かったですね。

――今話してくれた背景もそうだし、ツアーファイナルということもあって、気力が充実している感じを、ステージを観ていて受け取ったんです。パシフィコ横浜の日は、どんな覚悟を持ってステージに臨んだんでしょうか。

ReoNa:今までずっと心がけてきたことではあるんですけど、「もしかしたらここにいる誰かが、今日このステージが最後かもしれない」とか「どれだけの思いを持って、これだけの人たちが来てくれてるんだろう」って、今回のツアーでは想像することが多かったです。わたし自身にとっても、ライブが毎回当たり前のように開催できるものじゃないと実感して、改めて一回一回のライブに対する想いはさらに強くなりました。その上で、バンドの皆さんとのチームワークもより固くなってきたこともあって、、ステージ上での連携や集中力が増したと思います。わたし自身も、ライブチーム全体の想いを背負っている意識で臨んでいたので、そういう意味では覚悟はすごく持っていたのかな、と思います。

――ツアーファイナルを観ていて強く感じたのは、「ここで起きていることをひとつも忘れたくないな」「全部持って帰りたいな」ということで。それってたぶん、ステージ上と思いが同一化していたんじゃないかと思うんです。お客さんはみんな同じ気持ちを持っていただろうし、何よりステージ上でも「ひとつもこぼしたくない、全部を忘れたくない」の気持ちでやっていたと思うし。

ReoNa:はい。本当に、一個も忘れたくなかったですね。(ワンマンライブで)あれだけ大きな会場で歌わせていただいたのも初めてで――気持ちとしては、なるべく全席にお客さんが座っている状態で迎えられたらとは思っていましたけど、その上で開催できた喜びはありましたし、あの状況下でも見に来てくださった方がいたからこそ、ライブの瞬間ひとつひとつを、わたし自身にも来てくださった方々にも刻めたらいいな、と思いました。

――ちなみに、あの日のライブで、歌っていて特に気持ちよかった曲は?

ReoNa:なんだろう。「何々賞はこれ」「何々賞はあれ」みたいな曲はあるかもです。一番気負わずに、純粋に淀みない気持ちでお歌を伝えられたのは“unknown”かな、と思っています。目が合った人、声を聴いている人、言葉が届いている人とは本当に一対一で、「あなたに向けて歌っているんだよ」という瞬間を作らせてくれる曲です。あの日は“unknown”は心に曇りがなく歌えていたな、と思います。

――「曇りなく歌えたで賞」?

ReoNa:はい。「曇りなく歌えたで賞」は“unknown”ですね。“unknown”は、いろんな場所で歌うたびに、その場その場の“unknown”があるんですね。ひとつひとつ歌ってきた“unknown”が、ちょっとずつわたし自身にもいろいろな顔をくれているというか、そのたびにいろんなものを吸収させてもらっている気がしていて、すごく不思議な楽曲です。

――“unknown”を歌うごとに、会場の空気から伝わってくるものもあるのでは?

ReoNa:あります。なんだろう、普段わたしたちが使っている話し言葉のような口調で歌っている曲ということもあって、聴いているときに、歌詞の意味がまっすぐに届くからこそ、わたし自身もまっすぐ伝えられるんだと思います。

ReoNa

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Photo by 平野タカシ

これまで以上に、一切手を抜いて歌うことができなくなってきました

――「ReoNaのライブ」を象徴するワードとして、「一対一」があるじゃないですか。“unknown”はまさにそれを体現する曲だと思うんだけど、改めてライブにおける一対一とは何なのか、を言葉にできないかな、と思ってまして。たとえば、ステージからお客さんの顔を見て受け取るものもあったりするわけですよね。それこそまさに、一対一が起きている瞬間でもあって。

ReoNa:そうですね。わたしがお歌を届けて、それを受け取ってくださっている方の表情や、目線だったり、目が合った状態で、お互い見つめ合った状態での一対一は、わたし自身も受け取るものがあります。それに加えて、もうひとつわたしの中で大事なのが、お客さんが「これ、わたしの話だな」って思ってくれることです。わたしが紡いでいる言葉や歌詞にうなずいてくれたり、共感してくれたり――ちゃんと届いていて、ライブの空間にいることすら忘れてくれる瞬間があったらいいな、と思います。お歌や言葉を受け取りにきて、うなずいたり共感したり考えるきっかけになったり、そういう瞬間に一対一で届いていると思いますし、オーダーメイドされたものというか、「あなたの型にはまるように届いている瞬間があったらいいな」ということも、「一対一」と同じように考えています。

――なるほど。たとえばお客さんとの一対一を作れている実感がステージ上で得られたとき、心の中に生まれてくる感情はどういうものなんでしょう。

ReoNa:想像しちゃいます。たとえば涙にぬれている子がいたとして、その人と目が合った瞬間に、その涙はどういうものなんだろう、悲しくて泣いてるのか、嬉しくて泣いてるのか、何かが報われて泣いてるのか、その真意を知りたい気持ちになります。わたし自身も受け取ろうとする感じが、その瞬間にはあったりしますね。もう、もらい泣きしそうになる瞬間もいっぱいありますし。

――ステージと客席の一対一は、それこそ3年くらい生まれ続けてきているけれども、ライブ中に一対一が起きているときに感じることは、変化していたり実感が強まっていたりするんでしょうか。

ReoNa:はい。最初はどうしても不安があって、それは今も消えてないのかもしれないですけど、やっぱり「ちゃんと届いているかな? 今、言葉のひとつひとつや、ライブを楽しんでくれているかな?」って不安に思う気持ちの割合は大きかったです。特にワンマンライブだと、どんなきっかけでわたしに出会ってくれて、どんな想いで来てくれたのかがわからなくて。そういう中で、その日来てくれた方との一対一が、「今日が最後じゃないといいな」と思っていたし、願っていました。今のライブでは、言葉や歌詞、想いに気持ちを割ける割合が大きくできているかな、と思います。

きっと、お客さんの中に「目が合った気がする」と思ったり、逆に「そんなに自分たちのことなんて見えてないだろうな」みたいな人たちがいるのと同じように、ステージ上でも「思った以上にいろんなところを見てくれてるんだな」って感じる瞬間が多いです。そのひとつひとつを取りこぼさないように受け取ってくれてきた方々がいるからこそ、不安もちょっとずつ減っていったと思います。

――お歌や楽曲、作品に対する「器」として届けてきたところもありつつ、「ReoNaという人間」を楽曲にどんどん乗せていくことで、よりエモーショナルに伝わっていく側面もあるでしょうし。

ReoNa:あります。右も左もわからないところから始まって、最初は音楽にあまり詳しくない劣等感がありました。専門的な用語を言われてもまったくわからなかったり、ステージ上やレコーディングのときの所作も、何ひとつ教わってない、知らない状態から始まったので、「音楽って、思っていたより得体が知れないものなんだな」と感じる瞬間もあって。どの空間にいても、ちょっと疎外感のようなものを感じたりした瞬間があって、でもレコーディングやライブでいろんな時間を経験することによって、初めて自分の意見が言えるようになったり、初めて自分の意志を入れられたりしたことを重ねていくうちに、お歌の中にちょっとずつ自分を置ける割合は増えてきているのかなって思います。

――楽曲との向き合い方が深まっていくことで、ReoNa自身の内面に起きた変化はあるんでしょうか。たとえば、ちょうど1年前に、「きっとまだ、お歌の全部はこっちを向いてくれてない気がしていて。まだ、追いかけてる途中なんです」という話をしてくれたことはあったけど。

ReoNa:内面的には……まさに劣等感から始まって、ちょっとずつみんなが味方、仲間になってきた感覚もありますし、以前と比べて、これまで以上に、一切手を抜いて歌うことができなくなってきました。これは課題でもあるんですけど、中途半端なところでやめるとか、ふざけて歌うことができないんです。リハーサルでも本番に近い形でなるべく再現しますし、本番でこういうテンション、こういう声色で歌えたらいいな、と想定して歌います。より、お歌を大切にするようになったと思います。

――大切にするようになったことで見えたこととは?

ReoNa:やっぱり、まわりの人も同じように大切にしてくれることかな、と思います。毎回、わたし自身はリハーサルで全力ですし、それに合わせてミュージシャンさんたちも真剣に、本番さながらに演奏してくださいます。音響の方、照明の方もそうですし、レコーディングでもそうです。同じ分だけ大事にしようとしてくれる人たちが、まわりにいてくれていることを感じます。

――アコースティックライブツアーの“ふあんぷらぐど”も、一対一をより深められた体験だったんじゃないですか。

ReoNa:アコースティックのときに毎回思うのが、バンドのときよりも自分の声の割合が大きくなって、今回だったらギターとピアノと歌で三分の一がわたし、という大きさで。その大きさだからこそ、歌で頑張らないといけない部分があるし、逆にまっすぐ届くものもあるなって、改めて感じました。ステージからの一対一で、お客さんから受け取ったものによって言葉を丁寧に紡ぐ瞬間や、逆に力強く紡ぐ瞬間に、演奏も適応して一緒に届けようとしてくださるので、今届けたいもの、今伝えたいものの密度は、とても濃かったと思います。

――ライブを重ねるたびに一対一はどんどん生まれていくし、今話してくれたようにライブの密度、粒度もどんどん濃くなっている感じはします。3年の時間を経て、ライブが常に進化していると思うのだけど、今後自身のライブをどのように育てていきたいか、ということと、「一対一の先にあるもの」について、話を聞かせてほしいです。

ReoNa:ライブは本当に生ものだと思っているので、実際にその場に立ってみて、初めて口から漏れ出てくる言葉もありますし、だからこそ一歩踏み込んでわたし自身をもっと伝えていけたらいいな、と思います。一対一を作りたいのと同時に、さらにまわりが気にならなくなってくれたらいいな、と思います。溶けていったまわりのものに、ちょっと自分の意識を阻害するものがあると、ライブ中に楽しめなくなっちゃう瞬間もあるかもしれないですけど、仮にそういうものがあっても、それを超えて届けられたらいいな、と思います。みんな、音楽を楽しみたいから聴いているし、癒されたいから聴いているものでもあると思うので、ライブの空間を通して、「はあ~、今日すごく楽しかった」って、笑って帰ってもらえるような日が作れたらいいですね。

――素晴らしい。ライブのMCでも、「思い出を作りたい」みたいなことを言ってたし。

ReoNa:はい、思い出を作りたいです。

ReoNaインタビュー 「月姫編」は9月1日公開予定です

取材・文=清水大輔 写真=北島明(SPUTNIK)
ヘアメイク=Mizuho

●ReoNa(れおな)
2018 年 4 月クールに放送された TV アニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』の劇中歌を歌う劇中アーティスト=神崎エルザの歌唱を担当し、「神崎エルザ starring ReoNa」として、ミニアルバム『ELZA』をリリース、新人としては破格のヒットを記録。ソロシンガーとしては、1stシングル『SWEET HURT』を2018年8月にリリース。2020年10月には、1stアルバム『unknown』をは発表した。10月より、全国7都市を回るライブハウス&ホールツアー、「ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2021 “These Days”」を開催予定。http://www.reona-reona.com/





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