同じ信念を持つふたりだからこそ、背中を預けて戦える──TVアニメ『takt op.Destiny』伊藤美来・日野聡インタビュー

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公開日:2021/10/28

takt op.Destiny
TVアニメ『takt op.Destiny』テレビ東京系6局ネット・BSテレビ東京にて、毎週火曜24時より放送中 (C)DeNA/タクトオーパスフィルハーモニック

『takt op.(タクトオーパス)』は、DeNAとバンダイナムコアーツによる新規メディアミックスプロジェクト。クラシック楽曲をモチーフに、その力を宿して戦う少女「ムジカート」と彼女たちを率いる指揮者「コンダクター」の物語が描かれていく。現在、TVアニメ『takt op.Destiny』が放送中で、今後はスマートフォンゲーム化も予定されている。

原作は、「サクラ大戦」シリーズで知られる広井王子氏。キャラクターデザインにLAM氏を起用するなど、豪華クリエイターの参加も話題を呼んでいる。TVアニメは、MAPPAとMADHOUSEの共同制作だ。

そんな一大プロジェクトを、クリエイターやキャストへのインタビューを通して深掘りしていく特集企画がスタート。今回は、TVアニメでムジカートの巨人役を演じる伊藤美来さん、コンダクターのレニー役を演じる日野聡さんが登場。息の合ったふたりの連携、お互いの演技に対する印象などについて、たっぷり語り合っていただいた。

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原作のある作品と違って、先の展開がどうなるのかわからないのがオリジナル作品の醍醐味です(伊藤)

──『takt op.』は、クラシック音楽をモチーフにしたプロジェクトです。おふたりが、この企画を聞いた時の感想を教えてください。

日野:まず率直に、クラシック音楽の力で異形の怪物と戦い、世界を救うという大まかな内容を最初にうかがい、面白い発想の作品だなと思いました。

伊藤:クラシック音楽、楽譜の力を宿した少女たちが戦うという話を聞いて、すごく斬新だなと思いました。クラシック音楽って普段なかなか触れる機会がない方も多いので、この作品がその入り口になりそうだなとも感じました。

──おふたりは、クラシック音楽は聴くほうですか?

伊藤:あまり触れてこなかったです。

日野:耳にすることはよくあっても、「あ、この曲知っている、聴いたことがある」というレベルです。曲と名前がすぐに合致するかと言われると、そこまでは……という感じですね。

──子どもの頃にピアノを習っていたなど、音楽にまつわるエピソードはありますか?

伊藤:私の母が、絶対音感を持っていて。

日野:へぇ!

伊藤:母は小さい頃からピアノを弾いていたので、娘の私にも何度も教えようとしました。タダでできる習い事のひとつとして挑戦したんですけど、やっぱり親に教えてもらうとうまくいかなくて(笑)。怒られるとすぐ「もう嫌だ!」となってしまって、長続きしませんでした。「ねこふんじゃった」だけは弾けるようになりましたけど(笑)。

日野:僕は高校時代に一瞬だけアコースティックギターに挑戦しましたが、途中で挫折しました。当時、みんながアコギにあこがれる時期があったんですよね。でも、思ったよりもハードルが高くてうまくいきませんでした(笑)。

──普段はどんな音楽を聴いていますか?

伊藤:私はすごく普通なんですけど、J-POP、J-ROCKが好きです。ドラマの主題歌を聴いて好きになって、そこから音楽番組で流れているのを見て気に入って、プレイリストに入れることが多いですね。aikoさん、miwaさんなど女性シンガーを好きになることが多いです。

日野:自分もけっこう女性シンガーを好きになりますね。好きなのはミディアムバラード系ですけど、最近はなかなか聴けなくて。もっぱら子どもと一緒に特撮系の作品の歌や、『おかあさんといっしょ』の歌を聞いています(笑)。

伊藤:なるほど(笑)。

日野:だから童謡が多いです。

──『takt op.Destiny』は原作のないオリジナルアニメですが、その点での醍醐味や難しさはありますか?

伊藤:原作のある作品と違って、先の展開がどうなるのかわからないのが演じる側の醍醐味ですよね。キャラクターも一から作りあげるので、難しさとやりがいを感じています。

日野:全体的なストーリーの展開は、我々にも知らされていない部分があるんです。いまこの取材を受けている段階では、タイタンとレニーも、どうしてこうなったのかまだ明かされていないので、毎回収録が新鮮でドキドキしながら臨んでいます。

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タクトや運命とは違うベテラン感は大事にしたいなと思いました(伊藤)

──おふたりが演じる巨人とレニーに対しては、どんな印象を持ちましたか?

伊藤:タイタンは「巨人」(G.マーラー「交響曲第1番ニ長調」)という楽曲のムジカートなのですが、最初名前だけを見た時は「え、巨人!?」って(笑)。どんな子なんだろうなと思いました。

日野:ムキムキなのかな、とか。

伊藤:デカデカなのかな、とか(笑)。でも、キャラクターイラストを見せていただいたら、逆にちっちゃくてかわいらしくて。その一方で、ちょっと裏が見えないところもあるなと思いました。かわいらしいんですけど、実はムジカートとしては運命よりも先輩で、ベテランならではの余裕も感じます。見た目はかわいいけど、カッコよさもあるなと思いました。

日野:レニーは外見が非常にワイルドなので、最初は勇ましく男らしく役を作っていたんです。でも、セリフは物腰柔らかく、性格的にも母性的というんでしょうか。親が子どもに抱く愛情みたいなものを常に醸し出している人だなと思いました。現場では、監督とお話しさせていただき、修正しながらレニーの人物像を作り上げていきました。

──監督や音響監督からは、どんなディレクションがありましたか?

伊藤:最初のアフレコの時に、キャラクターについて口頭で説明していただいて。それぞれのキャラクターについて「こうなっていく予定もあります」と、少しだけ未来を教えていただき、こちらからも質問をしながら演じていきました。

──「巨人」という曲からは、どんなイメージを膨らませましたか?

伊藤:ゆるやかなところとダイナミックに盛り上がるところがありますし、楽章ごとにいろいろな雰囲気のある楽曲だなと思いました。そういう楽曲の雰囲気と役柄を照らし合わせて、いろいろな面が出てくるキャラクターなのかなと思って。タイタンが登場するのは第3話からですが、第1話と第2話の資料も事前にいただき、イメージを膨らませていきました。運命が淡々としゃべるムジカートだったので、タイタンもそんな感じなのかなと思っていたんですけど、実際は感情の起伏のある人間らしいタイプでしたね。運命との違いも出せたらいいなと思い、監督に確認しながら役を作っていきました。

──演じるうえで大事にしたポイント、ブレない軸として設定したのは、どんな点でしょうか。

日野:見た目のワイルドさと、柔らかな口調のバランスは大事にしましたね。すべてを包み込む親のような雰囲気を出しつつ、非常に前向きで、なおかつD2(音楽を忌み嫌う異形の怪物)と戦う時は頼もしくてシビアな面も垣間見える。そういったメリハリを考えながら演じました。

伊藤:タイタンは、基本はかわいらしくて心和むような話し方の女の子です。でも、レニーと一緒に戦う時にはカッコよさが前面に出るんですよね。ふたりがしっかり連携している感、タクトや運命とは違うベテラン感は大事にしたいなと思いました。

あとは、物語が進むにつれて、タイタンも悪に対する冷たさ、厳しさを見せるシーンがあって、そこは彼女の新たな軸になる部分ですし、監督さんのこだわりもすごく感じました。タイタンのそういった面は、今後も大事にしたいなと思います。

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レニーとタイタンって、見た目は全然違いますがタイプ的に似てるのかなと思っています(日野)

──おふたりは、これまでにも共演経験がありますよね。

日野:ちょっと前だと『五等分の花嫁∬』(2021年3月~放送)では、けっこう現場でご一緒しましたよね。

──お互いの演技に対する印象は?

日野:レニーとタイタンは、ベテラン感のあるコンビですし、お互いにすごく信頼しあっています。今回の収録では、お互いに阿吽の呼吸が表現できているんじゃないか……なんて自画自賛しているんですけど(笑)。

伊藤:私も息の合ったところは意識したいなと思っていました。レニーさんの指示や「イッツ・ショータイム」という声をしっかり聞いてから、敵の前に躍り出ていきたいなとも思って。心を研ぎ澄ませながら、レニーさんの指示を待っていました(笑)。

日野:お互いに息を合わせあったということで。

伊藤:良かったです、通じ合っていることが確認できて(笑)。

──収録現場で、お互いの役柄や演じ方について話すことはありましたか?

日野:つい最近まで、伊藤さんが主役の現場でも共演させてもらっていた事もあって、最初に『takt op.Destiny』の現場に入った時に「今回はこういう関係性の役なんだね」って話しましたよね。

伊藤:そうですね。

──本人を前にして言うのは難しいかもしれませんが、お互いの演技や表現に対してどんな印象を持っていますか?

伊藤:え、緊張しますね……(笑)。日野さんは私が声優になる前から知っていた役者さんなので、初めてお会いした時は「うわ、日野さんだ!」と思いました(笑)。ご本人にはお伝えしませんでしたが、「テレビの中の人だ! 本物だ!」みたいな気持ちでした。

日野さんは、キャラクターに対する愛情や作品への向き合い方がご自身の中でしっかり固まったうえで現場にいらしているんですよね。監督さんのディレクションに対して受け答えする姿も、すごくカッコいいんです。私も日野さんのようにキャラクターに対して熱い思いを持ち、自分の意見をしっかり伝えられる人間になりたいなと思いました。

日野:なかなかこんなに褒めてもらえることはないので、幸せですね(笑)。僕から見た伊藤さんは、お芝居に対するまっすぐさと、台詞のひとつひとつに芯の強さを持つ役者さん。どの作品でご一緒しても、そのふたつを強く感じます。あと、なんと言っても柔軟性が素晴らしい。監督からディレクションが入った時の瞬時の対応力が、とても高いなと思います。毎回、後ろの席から背中を見ながら、「すごいなぁ」と感心しつつ収録に臨んでいました。

伊藤:え、泣きそうです……!!

日野:普段の現場ではこういう話はしないもんね。「あなたの芝居のここ、すごくいいよ!」なんて、そうそう言わないから(笑)。

──おふたりの信頼感も、レニーとタイタンのようですね。あのふたりもタイプは違いますが、お互いを信じあっています。彼らの関係性をどのように捉えていますか?

日野:僕は、レニーとタイタンってタイプ的に似てるのかなと思っています。もちろん見た目は全然違いますけど、二面性っていうのかな、メリハリやギャップがあるという点では近いものがあるのかな、と。あと、ふたりとも精神的にとても大人なんです。そういうところにシンパシーを感じるからこそ、お互いにパートナーとしてあれだけの連携を見せられるのかなと思います。

伊藤:私も、似たもの同士なのかなと思いました。ふたりの信念、目指す方向は同じなのかなと。お互いに話し合っている感じはしないんですけど。

日野:そうなんですよね。

伊藤:でも、自然と同じ方向を向いている。そんなふたりだからこそ、信頼関係が生まれたのかもしれません。

──どういうところが似ていると思いますか?

日野:簡単に言うと、“柔”と“剛”の使い分けでしょうか。タイタンも普段は語尾に「たん」をつけるようなかわいらしい一面がありますが、D2のように許せないものと対峙した時にはクールな冷徹さを感じさせます。レニーも普段は物腰が柔らかくて父性や母性を感じさせるような人柄ですが、いざ戦いとなると瞬間的にスイッチが入る。そういうところが似ているのかなと思います。

あとは、詳しいことは我々も知らされていないのですが、おそらく同じ目的を抱いているらしいんですよね。ふたりともお世話になった方がいて、その方が助かっていてほしいと思っている。そういう点が共通しているんじゃないかと思います。

伊藤:日野さんがおっしゃる通りだなと思います。ふたりとも二面性があるんですよね。

日野:タイタンは、基本かわいらしいんだけどね。

伊藤:レニーもタイタンも、誰もが好きになっちゃうキャラクター。でも、ここぞという時に見せるシリアスさ、シビアさは似ているなと感じました。

──一方で、タクトと運命はコンダクターとムジカートのコンビとしてはまだ新米です。おふたりからは、このコンビはどう見えていますか?

伊藤:まだまだ乗り越えるべきことがたくさんあるんだろうなと思います。レニーさんがふたりにコンダクターとムジカートのことを指導してあげたり、それにともなってタイタンが運命に身振り手振りで戦い方を教えたりしていますが、ふたりのポテンシャルはすごく感じ取っているんですよね。タクトと運命がいっぱいいっぱいにならないように、いい塩梅で教えてあげているなと思います。

日野:まさにその通りですよね。レニーから見るとタクトは子どものような存在。先ほどもお話したとおり、父性や母性を感じながらタクトに接しているのかなと思いました。同じくタイタンは、何も知らない運命ちゃんを育てるように一から戦い方を教えてあげて、まるで師匠のよう。先生のような役割であり、親子のようでもあり、兄弟のようでもある。そういった距離感の関係性だなと思います。

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「この時代に生きててよかった!」と思えるほど、迫力あふれる映像になっています(日野)

──このインタビューは放送前に行っているため、まだ完成した映像はご覧になっていないそうですが、第2弾PVでバトルの映像を観たご感想は?

伊藤:やっぱりバトルシーンが素晴らしかったです! こちらに向かってくるような迫力あるカット割り、スピード感にドキドキしました。思わず見入ってしまうような映像でしたよね。レニーとタイタンも……

日野:一瞬出てきたよね。

伊藤:そうなんです。動くふたりが観られたこともうれしかったです。

日野:日本を代表する二大アニメーションスタジオが制作しているので、「この時代に生きててよかった!」と思えるほど、迫力あふれる映像になっていますよね。我々が初登場するときの収録でも、一瞬だけ色つきで動くシーンがあって、これは凄まじいなと思っていました。PVを拝見して、早く完成した映像を観たいという気持ちが高まりましたし、すごく興奮しました。

伊藤:音楽もすごかったですよね。

日野:バトルシーンと音楽がどう融合しているのかも楽しみ。本当に楽しみなことだらけですね。

──おふたりから見どころを紹介していただけますか?

日野:最初の数話では物語の全体像がつかめないと思いますが、話数を重ねるごとにさまざまなことが解き明かされていきます。キャラクターひとりひとりも魅力的なので、関係性を楽しみつつ、この物語がどうなっていくのか、同じ世界にいる目撃者のような感覚で観ていただけると、よりのめり込めるのではないかと思います。

伊藤:バトルシーンをはじめ、映像をたっぷり堪能してほしいなと思います。それぞれが抱えている事情、これから起こってしまう出来事などにも細かい設定もあるので、話数が進むにつれてキャラクターの新たな一面が垣間見えるはず。私たちと一緒に、この物語を楽しんでいただけたらと思います。

──劇中では、レニーがタクトに「音楽って何のためにあると思う?」と問いかけるシーンがあります。おふたりは、音楽は何のためにあると思いますか?

伊藤:レニーが言ったように、人の心に寄り添ってくれるものかなと思います。みんなを幸せにしてくれる楽曲もあれば、つらい時に共感できる楽曲もある。人の感情に寄り添ういろいろなジャンルの曲が世の中にはたくさんあって、それぞれが心のよりどころになっているんじゃないかと思います。

日野:自分も伊藤さんと同じような意見ですね。音楽は、ふと心を休ませてくれる存在。心に活力を満たす手助けをしてくれるものかな、と。

──おふたりはクラシックにはそれほど詳しくなかったそうですが、この作品に携わったことでクラシック音楽に対するイメージは変わりましたか?

日野:このアニメ以外にも、クラシックに関する作品に携わったことがあるのですが、高尚なものというイメージが強いクラシックがアニメーションやゲームと融合すると身近に感じられるんですよね。「そこまでかしこまらなくても楽しめるんだよ」と教えてくれるのも、この作品の魅力のひとつだなと思いました。

僕個人も、今は「あ、聴いたことがある」「この曲のタイトル、知ってる」という段階ですが、「この曲ってどうやって作られたんだろう」「どのような歴史があるんだろう」と勉強できたら面白いだろうなと思うようになりました。

伊藤:クラシックって、聴きに行くにもドレスコードがしっかり決まっていて、敷居が高い。でも、少しずつ調べていくと、楽曲と作曲者の背景、当時の時代背景がリンクしているんですよね。この時代にはなかなかない、波乱万丈な人生を送っている作家さんもいて面白いなと思いました。私もまだまだ知識が浅いのですが、ちょっとずつクラシックを楽しみたいと思っています。みなさんにとっても、このアニメがクラシックに触れるきっかけになったらうれしいです。

取材・文=野本由起


『takt op.』公式ポータルサイト
TVアニメ『takt op.Destiny』公式サイト

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