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『夜明け告げるルーのうた』は、なぜアヌシー映画祭グランプリを獲得できた?【アニメ映画が面白い!第10回】

2000年代で日本初の長編グランプリ獲得

 この6月、日本のアニメ業界にうれしいニュースがフランスから届いた。湯浅政明監督の映画『夜明け告げるルーのうた』が、アヌシー国際アニメーション映画祭の長編アニメーション部門コンペティションで、クリスタル賞に輝いた。
 アヌシーは、世界で最も歴史が古く、かつ最大規模のアニメーション映画祭として知られている。クリスタル賞は長編部門の最高賞でグランプリにあたる。
日本作品が長編部門でグランプリを受賞するのは1995年の高畑勲監督『平成狸合戦ぽんぽこ』以来22年ぶり、93年の宮崎駿監督『紅の豚』を含めてもアヌシーの57年の歴史で3度しかない。
2000年以降、日本から細田守監督『時をかける少女』、原恵一監督『カラフル』『百日紅-Miss HOKUSAI-』、西久保瑞穂監督『ジョバンニの島』と多くの映画がアヌシーでアワードを獲得したが、いずれも審査員賞や観客賞であった。『夜明け告げるルーのうた』のグランプリ獲得は、まさに快挙だ。

『夜明け告げるルーのうた』の表現は生々しい

 『夜明け告げるルーのうた』は、なぜこの快挙を実現したのだろうか? それは本作の表現の持つ生々しさだったのでないか。それがアニメーション映画祭という性格にもうまくはまったと思える。
本作の生々しさには、二種類ある。ひとつはキャラクター造形や絵の動き。たとえばバンドのライブでキャラクターたちが踊りだすシーンの極端なデフォルメ、それは観る者の予想を裏切り変化し続ける。主人公がクライマックスで歌いあげる時の表情、そこにはアニメーションの原初的な魅力が満載だ。
ストーリーもまた生々しい。作中で描かれる少年と人魚の少女ルーとの交流、そのなかでの少年の成長はファンタジーとしては王道であるが、同時に主人公の内面の描き方は、時に刺々しく、痛々しい。どこか私小説的な味わいがある。
やはり日本からコンペ出品された片渕須直監督『この世界に片隅に』も、今回アワードの有力候補であった。2016年にもアヌシーでプレゼンテーションし、好評を博した『この世界の片隅に』のほうが、当初はより注目が高かった。しかし、『夜明け告げるルーのうた』はこれを覆した。
『この世界の片隅に』の魅力は、見事に計算し尽くされた端正さにある。今回は、湯浅政明監督の野生がこれを凌駕したのかもしれない。

全てのボーダーを超え融合を続ける湯浅政明監督

そしてもうひとつ。湯浅監督のボーダレスさだ。あらゆるボーダーを軽く飛び越える作品づくりが、共感を得たのでないか。ももともと湯浅監督は、海外クリエイターからとりわけ人気が高い。独自のアニメーションの動くきは、国境を越えて知られてきた。
しかも、湯浅監督が乗り越えているのは国境だけでない。ジャンルも越境している。これまでにない表現を追求する作品には、作家性が色濃く表れ、どこかインディーズを思わせる。
一方で、『夜明け告げるルーのうた』、『夜は短し歩けよ乙女』の配給は、国内最大の映画会社東宝の映像事業部。テレビアニメ『ピンポン The Animation』はフジテレビで地上波放送。次回作は往年のヒーロー「デビルマン」を題材にNetflixで配信する『DEVILMAN crybaby』だ。常に大きなビジネスの最前線に立っているのも湯浅監督だ。
そこでは強い作家性と商業性が同居している。アートとビジネス、相反して見えるふたつが巧みに融合する。

それはアートと商業、個人とスタジオ、アニメーションの様々なボーダーを超えることで、過去数年急成長を遂げたアヌシー国際アニメーション映画祭の在りかたとどこか通じる。だからこそ『夜明け告げるルーのうた』のグランプリは、アヌシーらしい選択でもある。
湯浅政明とその作品は、従来の枠にとらわれない新しい時代のアニメーションなのだ。『夜明け告げるルーのうた』は、アニメーションの次世代に向けた新しい動きを象徴する。まさにそれがグランプリに輝いた理由である。

『夜明け告げるルーのうた』

映画『夜明け告げるルーのうた』公式サイト

<文・数土直志>
ジャーナリスト。アニメーション関する取材・執筆、アニメーションビジネスの調査・研究をする。「デジタルコンテンツ白書」、「アニメ産業レポート」執筆など。2002年に情報サイト「アニメ!アニメ!」、その後「アニメ!アニメ!ビズ」を立ち上げ編集長を務める。2012年に運営サイトを(株)イードに譲渡。


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