「スポーツ毒親」の恐るべき実態! 勝つためなら指導者の暴力・パワハラ・セクハラも容認?

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公開日:2022/9/9

スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか
スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(島沢優子/文藝春秋)

 スポーツ毒親――インパクトのある言葉だが、何を意味するかご存じだろうか? 近年、ジュニアスポーツや中高生の部活における指導者の過剰な体罰・暴行・性的虐待などが問題になることがあるが、そうした行為の裏にいるのがこの“毒親”たち。「全国大会のため」「勝つための試練」「スポーツ指導には厳しさが必要」と信じ込み、子どもを護るどころか自ら率先して追い込み、さらには暴行などの事実があれば隠蔽すらするという。異常としか思えない状況だが、なぜこんなことになってしまうのか――このほど登場した『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(島沢優子/文藝春秋)は、そうしたスポーツ毒親の生々しい実態を徹底取材で明らかにしていく衝撃のノンフィクションだ。

 各章のタイトルを見るだけでも、その内容のえげつなさが伝わってくるだろう。

第1章 子どもに土下座させる監督に服従し続けた親たち――全国上位の少年バレーボールクラブ
第2章 口止め誓約書を書かせた親たち――大分少女バレーボール暴力事件
第3章 性虐待に鈍感な親たち――高校女子バスケットボール部セクハラ事件
第4章 不正に手を染める高校生ゴルファー――親に抑圧される子どもたちの辛苦
第5章 少年球児をうつ状態にした父――大阪府「お父さんコーチ」の懺悔
第6章 少年野球当番問題――来られない親に嫌がらせをする母親たち
第7章 毒を制した親たち――暴力指導を向き合った全国柔道事故被害者の会

 たとえば第2章の「大分少女バレーボール暴力事件」は、地域の小学生女子のバレーボールチームをまかされている監督が、「気合が足りない」と小6の少女を夜のグラウンドを走らせた上に平手打ちしたことが告発された事件だ。実はチーム内では暴力を含む監督の行き過ぎた指導が常態化していたが、「全国大会を目指す指導の一環」と誰も異議を唱えるものがいなかった。暴力が表沙汰になったことでチームは健全化に向けて動き出したのかと思いきや、実は毒親の恐ろしさが発揮されるのはこのあとのこと。保護者たちは「誰がリークしたのか。問題になれば全国大会に行けなくなる」と犯人探しを始め(当然、被害者の親子はターゲットになり吊るし上げにあった)、あげくは暴力を隠すための「口止め誓約書」まで保護者間で強要するのだ――。

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 なんとも唖然とする状況だが、どうもスポーツの世界では親が子どもに注ぐ目の色が変わりがちなのかもしれない。野球でもサッカーでも子どもたちの試合で子ども以上に親が熱心に応援するのはよく見る光景だし、本書に登場する親たちも大半は「普通」の親ばかり。それが「全国大会出場」が射程圏内になることでヒートアップし、いつのまにか子どもの人権を無視した毒親になってしまっているのだ。各章にはそれぞれ自らの過ちに気がついた元毒親たちの証言があることに救われるが(実は本書の著者もかつて自身がスポーツ毒親だったという)、「それにしてもなぜここまで?」という不条理な思いは残る。

 今年4月、こうした世情を踏まえ日本スポーツ協会は軟式野球など5競技でスポーツ少年団の全国大会中止を検討する方針を表明した。小学生の全国大会そのものがなくなることで、本書のような毒親も少しは減ってくるかもしれない。だが悲劇を繰り返さないためには、「親は暴走しかねない」ことを社会で共有しておくのも大事だろう。その意味で本書が大きなヒントになるのは間違いなさそうだ。

文=荒井理恵

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