本好きな子どもから大人までおすすめ! まんがと図解で学べる『ドラえもん探究ワールド 本の歴史と未来』

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公開日:2023/1/14

ドラえもん探究ワールド 本の歴史と未来
ドラえもん探究ワールド 本の歴史と未来』(藤子・F・不二雄:著、藤子プロ、印刷博物館、日本書籍出版協会:監修/小学館)

 イヌやネコとは? 食料とは?言葉とは? 心とは? 世の中にあふれる素朴な疑問や知識について、ドラえもんのまんがと記事で探究学習ができる「ドラえもん探究ワールド」シリーズの第16弾『ドラえもん探究ワールド 本の歴史と未来』(藤子・F・不二雄:著、藤子プロ、印刷博物館、日本書籍出版協会:監修/小学館)が2022年11月に発売された。

 本書はタイトル通り「本」がテーマ。本についての情報を、さまざまな角度からまんがと図解で子ども向けに分かりやすく解説する。まず5000年にも及ぶ人類の「記録」の歴史を振り返ることからスタート。人類は文字を作り、粘土板や木や骨などの記録媒体を生み出したのちに紙を発明した。その後、印刷技術を手に入れた人類は記録を本という形で伝播するのだ。さらに現代の本がどうやって作られ、読者のもとにどのように届くのかを解説。流通、印刷、書店の仕事やまんが家、編集者といった本にかかわる職業なども詳しく紹介している。


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 またドラえもんのまんが部分は、ページやコマを抜粋しているだけではなく、各エピソードの全編を掲載している。非常に懐かしく、読みごたえがあった。さらに「第5章 まんが原稿ができるまで」には、藤子・F・不二雄氏が残した貴重なネームや下描きも収録しているというファンにはたまらない内容で、子どもから大人まで、本に興味があるすべての人におすすめできる1冊だ。

ドラえもん探究ワールド 本の歴史と未来

 

ドラえもんの名エピソードと解説ページで楽しく「本」を学ぶ

 ドラえもんには「本」にまつわるエピソードがいくつもある。ご存じの通り、のび太はまんがが大好きだし、ジャイアンの妹のジャイ子はまんが家志望だ。また日頃はまんが以外の本なんて読まないのび太が、寝るのも忘れて小説に熱中する話もある。

 本書は章の最初にこれらのドラえもんのまんがが掲載されており、そのあとの解説ページに誘導される構成になっているので、自然に探究学習が行えるようになっているのだ。息子がいる本稿ライターは、子どもが学習として読むのに理想的であると感じた。

 では収録しているドラえもんのエピソードをいくつか紹介しよう。

・人間ブックカバー(第1章 本の歴史①記録)

ドラえもん探究ワールド 本の歴史と未来

 字だけの本を開くと1ページも読まないうちに眠ってしまうのび太。見かねたドラえもんは人間に被せると読んだことがある本を口述してくれるひみつ道具「人間ブックカバー」を出す。出木杉君に本になってもらい話を聞いているうちに、のび太はいつしか物語のとりこに……。興味を持ちさえすれば本は読む人の心を動かすことができる、という令和の現代にも通じる話だ。

・あやうし!ライオン仮面(第5章 まんが原稿ができるまで)

ドラえもん探究ワールド 本の歴史と未来

 連載まんが「ライオン仮面」の続きが知りたいドラえもんは、自らタイムマシンで未来へ行き雑誌を買ってくる。その内容をのび太たちへ話しているところを、続きが思い浮かばず悩んでいた「ライオン仮面」の作者・フニャコフニャ夫先生が聞いてしまう……。子どもの頃の私が、まんが家の仕事のハードさを初めて知ったエピソードである。

・悪魔のパスポート(第9章 読者に本が届くまで)

ドラえもん探究ワールド 本の歴史と未来

 見せるだけでどんな悪いことをしても咎められないひみつ道具「悪魔のパスポート」を手に入れたのび太。それなりに悪事をはたらき、最後に書店で代金を払うことなくまんがを持ち帰る。だがそこで「本屋さんが350円も損をする」と考えたのび太は意外な行動に出て……。たかが数百円でも、子どもと書店にとっては少額ではないことが暗に示されており、ラストのトホホ感と相まってぐっとくる内容だ。解説ページでは、本の値段には、作者と書店に支払われる金額が含まれていることが記載され、当たり前だが見落とされがちなことをあらためて気づかせてくれる。

ドラえもん探究ワールド 本の歴史と未来

 

大人が出版に関する実用的な知識を得られる

 本書は第1章~第4章で「本の歴史」を紹介し、第5章からは「本ができるまで」そして「読者に本が届くまで」を解説している。特にこの第5章からの解説が驚くほど詳しい。編集者の仕事、台割(だいわり)、校正・校閲、上製本、A判B判の違い、エディトリアルデザイン、組版(くみはん)、印刷の種類、製本方法、取次(とりつぎ)、そしてISBNコードまでをも網羅し、それぞれ平易な言葉で説明されているのだ。

 これらは本の企画から、制作、出版、流通までという「出版社から読者の手に渡る流れ」に合わせて書かれており、出版業界への就職を目指す人の入門書としてもおすすめできる。

ドラえもん探究ワールド 本の歴史と未来

 

ドラえもん探究ワールド 本の歴史と未来

 一気に読みきった私は、あらためて「紙の本」はいい、という感想を持った。本書の最終章にも解説されているように、今は電子書籍や電子媒体が当たり前の時代である。確かに保管スペースが要らずスマホさえあれば読めて便利だが、電子データは電気がなければ読めなくなってしまう。反面、紙の本は保管方法さえ気を付ければ、長い間いつでも好きな時に読むことができる。

 クローゼットに箱詰めにしていた本を、ちゃんと本棚に並べて大切にしようと思った。はるかな未来、とまではいかなくても、目の前にありさえすれば、いつか子どもや孫が、ふと手に取る日がくるかもしれないから。

文=古林恭

©藤子プロ・小学館

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