【ダ・ヴィンチ2016年7月号】今月のプラチナ本は 『暗幕のゲルニカ』

今月のプラチナ本

更新日:2016/7/1

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『暗幕のゲルニカ』

●あらすじ●

 人類史に名を刻む天才画家パブロ・ピカソと、彼が遺した傑作『ゲルニカ』。故郷スペインのゲルニカ爆撃を主題としたこの名画には「反戦」の強烈なメッセージが込められ、ニューヨークの国際連合本部ロビーにはそのタペストリーが飾られていた。
 だが、2003年2月、イラクへの武力行使が国連で可決されたその日、『ゲルニカ』は突然姿を消してしまう。
 戦禍の悲劇を覆い隠すような暗幕をかけられて─。
 誰が、『ゲルニカ』を消したのか? 『ゲルニカ』は誰のための作品なのか? 
 現在と第二次大戦中を舞台に解き明かされていくピカソと『ゲルニカ』の真実。手に汗握る、アートサスペンス。

はらだ・まは●1962年、東京都生まれ。関西学院大学および早稲田大学卒業。国内の美術館、ニューヨーク近代美術館での勤務を経て、2005年『カフーを待ちわびて』でデビュー。12年には『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞受賞。

暗幕のゲルニカ

原田マハ
新潮社 1600円(税別)
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

 

ゲルニカという武器で、何と戦うのか

本書の巻頭にピカソの言葉が掲げられている。「芸術は、飾りではない。敵に立ち向かうための武器なのだ。」─では「敵」とは誰なのか、何なのか? 20世紀と21世紀、ふたつの空爆で幕を開けるこの物語は、ピカソは何と戦おうとしていたのかという問いかけを底にはらみながら進んでいく。『ゲルニカ』。空爆を受けた町の名を冠した絵は、ピカソという「創造主」が世を去ったのちも、地上にとどまり戦い続ける。そして「敵」を持つ絵は、守る者を必要とする。この絵を、「武器」を、守らなければならないのは誰か。ピカソ亡きあと、この絵は誰のものであるべきか。国際謀略サスペンスとして一級のエンターテインメントでありつつ、絵画という芸術の持つ力を、小説という芸術によって描き出した圧倒的な作品。読めば絵画を見る目が変わるはず。

関口靖彦 今号では谷川史子先生の特集を担当。清濁あわせ呑み、そのうえできちんと前を向く、そんな谷川作品の魅力を一端でもお伝えできていれば、年来のファンとして幸いです。

 

底知れないアートの力に突き動かされる人々

一枚の絵画をテーマに、史実とフィクションを織り交ぜながら過去現代を行き来する構成は『楽園のカンヴァス』さながらだが、本作はそれに加えて平和への強い願いが込められている。反戦のシンボルとして見たものを釘付けにするあの得体のしれない『ゲルニカ』の迫力は、ピカソのやり場のない強い怒りが表出したものと、今回知った。『ゲルニカ』と運命的な出会い方をした主人公の瑤子も同様の悲しみと怒りに突き動かされている。「芸術は武器だ」と公言し、絵筆一本で戦ってきたピカソ。それは直接的に人を傷つけたり殺めたりすることはないけれど、長きにわたって人々の心を翻弄する。そうした底知れないアートの力をサスペンスフルに描いた本書。エンタメとして楽しみながら、そこにさまざまなメッセージを感じ取ることができるだろう。

稲子美砂 窪田正孝さんの特集、コンパクトながら、密度濃いものとなりました。アンケートも多数の方に熱い回答をいただき、大感謝です。今後、さらなる拡大版をやりたい野望も芽生えました。

 

小説と絵画の魅力をがっつり味わえる

『楽園のカンヴァス』はタイトルと装丁があまりにもお似合いすぎてジャケ買いをした。そして『暗幕のゲルニカ』もまた、同じ理由で手元にある。美術館で絵画にふれる時間に興味が持てない私なのに……。そんな思いで読み始めた本作は、絵画の持つ圧倒的な力を私に教えてくれた。ひとつの絵が、時代の象徴になり、人を動かす。そして長い時間を経てなお、強烈なメッセージを放ち続ける。この本を手に取ってしまった私も、そんな絵画の魅力に呼ばれたのかもしれない。

鎌野静華 今年の夏は昨年行ったベトナムのビーチを再訪予定。スパにベトナム料理にオーダーメイドの服。天国……! あと2カ月ダイエットがんばろー。

 

天才と名画に体温を与えた才女たち

最も印象的だったのはピカソを捉えようとするドラ・マールの視点だ。ドラは自らも写真に長けた芸術家であり、彼への感情は愛ではなく「あの無制限に湧き溢れる創作の泉に、常に身を浸していたい」欲望だと分析するが、若き愛人はピカソにどんな影響を及ぼしたのか。もう一人の主人公、瑤子も夫をテロで失いながらキュレーターとして分かちがたくピカソと結びつき、それが原因で時代に翻弄されていく。覚悟を持って自らの存在を見つめ続けた二人の女性から目が離せなかった。

川戸崇央 高山一実さんの連載小説「トラペジウム」第二話「西テクノ高専」が掲載! 紗倉まなさんの初小説『最低。』も4刷出来。ぜひご一読ください。

 

芸術の力、その大きさを改めて思う

カバーの写真は、ピカソの『ゲルニカ』。現代のニューヨークで生きる主人公と、ピカソが生きていたスペイン・パリを舞台に、この一つの絵画をめぐって、それぞれの物語が交錯しながら描かれていく。『ゲルニカ』をテーマにしたこの小説から強く訴えてくるのは、「戦争の悲劇」だ。著者の作品はいつもページをめくる手が止まらなくなり、知的好奇心も満たしてくれる。さらに今作では芸術の力の偉大さと、覚悟をも感じた。読み進めながら、何度もカバーを見返した。

村井有紀子 『おそ松さん』イベントに伺い、豪華声優勢のエンターテイメント力に圧巻! しかしグッズを買えなかったのは遅刻してきた高岡のせい(恨み)。

 

一枚の名画をめぐる壮大な美術ドラマ

ピカソが『ゲルニカ』を描き生きた当時と、現代(9・11後)のニューヨークという2つの時間軸が交互に進むストーリー展開。戦争・暴力・憎悪に絵筆一本で立ち向かったピカソが『ゲルニカ』に込めた思いは、様々な陰謀や希望に満ちたドラマに牽引されて、現代に引き継がれる。ピカソという芸術家の素晴らしさや『ゲルニカ』の存在意義みたいなものをひしひしと感じる一冊。名画一枚で戦争やテロはなくならないだろうけど、アートが持つ力ってやつは、私も信じたい。

地子給奈穂 先日、家族で宮島・厳島神社に行き、幻の白い狸を目撃。地元の人も半年に1回見かけるか否かくらいレアらしい。何かいいこと起こるかしら♪

 

大天才の業

第二次大戦末期と9・11以後の現代。時代が変わっても繰り返される悲劇に対し、「反戦」の精神的支柱たりうる『ゲルニカ』と言う傑作、ひいてはアートの底力を感じた。だが、それ以上に印象的であったのは、パブロ・ピカソという偉大な天才のカルマ。瑤子やドラをはじめ、多くは語らない彼の「創造主」的才能に魅入られてしまった人々の振り回されっぷりが凄い。時代も国境も関係なく、人間の運命を翻弄し、やがて国家をも揺るがす。大天才の業の深さにしびれる。

高岡遼 編集部に後輩の新人がやってくるという噂を耳にしていたのですが、単なる噂でした。引き続き、下っ端としてがんばっていきたいと思います。

 

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