【ダ・ヴィンチ2018年1月号】今月のプラチナ本は『リウーを待ちながら』(1~2巻)

今月のプラチナ本

2017/12/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『リウーを待ちながら』(1~2巻)

●あらすじ●

舞台は富士山の麓、自衛隊駐屯地がある美しい町・横走市。横走中央病院に勤める内科医・玉木涼穂は、吐血し昏倒したある自衛隊員を治療する。しかしその隊員を皮切りに、同じ症状の患者が次々と運び込まれ、死亡していく事態に。病院には患者が押し寄せ、みるみるうちに事態が悪化するなか、アウトブレイク寸前であることに気づいた玉木とペストの研究者・原神らは、アウトブレイクを止めるべく奔走するが―。緊迫の医療サスペンス!

あかと・あお●2010年、アフタヌーン四季賞冬のコンテストにて準入選。他の著書に『ネメシスの杖』『インハンド 紐倉博士とまじめな右腕』がある。医療サスペンスのホープとして注目されている。

『リウーを待ちながら』書影

朱戸アオ
講談社イブニングKC 各630円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

ノンフィクションとなりうるフィクション

ペストが、キルギスに派遣された自衛隊員に感染。彼らの帰国によって日本にもたらされる。このいかにも現実に起こりそうな設定がおそろしい。そしてペストを取り巻く人々の反応も、実にリアルだ。感染して帰国した自衛隊員が、責められる。「悪いのは病気をここに持ってきた人達でしょ」。彼らは職務として「人助け」に行ったのに。怖いのは、周りに責められるだけでなく「悪いのは自分ですから」と自責すらしてしまう〝空気〟だ。そして感染エリアにかつて住んでいただけで、現住地で迫害される市民たち。愛する家族を失った人が出会う〝幽霊〟たち。混乱に乗じて金儲けを企む者たち。東日本大震災後の報道を考えれば、これらもまったくフィクションとは思えない。抗いがたい恐怖を前に、人はどう戦い、あるいは目をそらすのか。この物語の行く末は、きっと現実につながっている。

関口靖彦 本誌編集長。タイトルにある「リウー」とは誰なのか。そして「ゴドーを待ちながら」をもじったタイトルならば、リウーは現れないのか。本作を読んだのち、あらためて考えさせられました。

 

誠実さという武器はどんな力を発揮するのか

ペストは天災ではないけれど、為す術もなく、人が驚く早さでバタバタ死んでいく状況を見ると、地震や津波に遭遇したときのような、人類の脆さを感じてしまった。細菌が厄介なのは、その存在が見えないところ。最前線で治療にあたる医師が感染してしまう可能性も大いにあり、本作の横走市のように封鎖という対処は単純だが、リアルなのかもしれない。日常が浸食されていくなか、人々がパニックをおこさず淡々と生活を続けていくのはあきらめなのか。本作で強靭な意志を持ってペストに立ち向かう玉木医師は、病院では孤軍奮闘状態。疫検の原神という協力者が現れるものの彼女のタフネスはいったい何に支えられているのか。「ペストと戦う唯一の方法は誠実さということです」―煉獄の只中にある彼らは、この言葉を拠り所にどんな対応策を考え、ペストに立ち向かっていくのだろうか。

稲子美砂 〝今年の顔〟企画で念願の高橋一生さんにインタビュー。表紙のセレクト本以外にも本をテーマに縦横無尽に語り尽くしていただきました。溢れんばかりの本への愛。気になる本、続出です。

 

自分の住む街がこんなことになったら……

刻々と迫るパンデミックの恐怖。国から見捨てられ閉鎖された街に取り残されたら、平静を保てるだろうか。実際にこんなことが起こったら、映画『アウトブレイク』のように、村ごと消滅させられるんじゃないか……。そんなことを思いながら読み進めた。そんななか、潤月とコウタのやりとりにほっとする。オビの「絶望するのはいい。だが、絶望に慣れてしまうことは危険だ。」という言葉。オビ文が指し示すほどの恐怖を読み進めるための光が潤月だった。彼女がいてくれてよかった。

鎌野静華 横走市のモデルは、たぶん私の出身地だな〜と思いながら読んでいました。駅とかラジオ局とかそっくり!! リアルで恐怖が倍増です……。

 

死と隣り合わせの町で、裸になる

ある町で、死に至る病が流行っている。これはその中に身を置いた人たちの物語だ。ある者は患者を救うため寝る間も惜しまずに働き、ある者は死地で美味そうに煙草を吸い、ある者は偶然仕事で接触した感染者のせいで息絶え、ある者は頑なに野菜を作り続ける。展開はスピーディーでドラマティックだが、それ以上に町の日常を描いた物語でもある。だからこそ、描かれていない多くの生と死にも思いを馳せてしまう。明日僕は死ぬ、そう知っていれば満足のいく最期を迎えられるのだろうか。

川戸崇央 今月のトロイカでは本誌の紙(オリジナルです)を作る北海道の工場まで行ってきました。いまあなたが触っている紙のルーツ、ぜひご一読ください!

 

人を絶望から救うのは人の誠実さ

富士山の麓に広がる町で伝染病が発生し、またたく間に感染が拡大。今作、このスピード感が圧倒的。隔離された町で人々は抑圧され、SNS等には、想像力に欠けた言葉が溢れる。悲愴感漂う2巻、人が次々と亡くなっていく「絶望」に「慣れる」という描写がある。その後、「いい事があったの」「泣いているように見えるけど」「それがいい事なの」と涙しながら、主人公が返す言葉に、読み手も救われるはずだ。そうか。いつだって、誠実さこそが絶望から人間を救うのだ。

村井有紀子 担当作の星野源さん『いのちの車窓から』エッセイ・ノンフィクションで1位&『騙し絵の牙』も小説部門ランクイン。ありがとうございました!

 

見えない脅威に抗いうるもの

細菌は目では見えない。そのシンプルな恐ろしさを、思い知らされる作品だ。秀逸なのは、姿かたちもないまま日常と非日常の境界を瓦解させる細菌に対して、人間の対抗策が物理的な境界で市を封鎖してしまう、というところ。人の無力さがなんと際立つことか。だが、もちろん救いの兆しもある。現場で生と死に寄り添う医師たちの逞しさだ。作中に登場する「戦う唯一の方法は、誠実さ」という言葉は尊い。目に見えない力を信じて戦いつづける、そんな彼らを応援せずにはいられない。

高岡遼 気付けばまたBOTY(ブック・オブ・ザ・イヤー)の季節。今年は例年にも増して気合が! 来月号からは大人気イラストレーターloundraw氏の新連載も。どうぞお楽しみに!

 

絶望とは、死に至る病だといいますが

「絶望するのはいい。だが、絶望に慣れてしまうことは危険だ」という帯文にシビれる。絶望は、慣れてしまえば結構ラクで、慣れないほうがずっとしんどい。でも主人公の玉木医師は決して慣れない。増え続ける死者を前に打つ手を探し続ける。その姿はあまりにまぶしく、諦めに逃げたがる怠惰さを叱られている気分になる。病も死も、人間であるからして免れないこと。自分も家族も例外じゃない。では来るべき絶望といかに戦うか。フィクションと割り切れない、ずしりとした読後感。

西條弓子 ブック・オブ・ザ・イヤーを校了しても年末なんて嘘だろ?という想いが拭えません。でも私にはまだクリスマス(ケーキ)を選ぶという一大行事がある!!

 

 

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