手塚治虫の真髄は短篇にあり!「漫画の神様」が遺した“今こそ読むべき”珠玉の11篇とは?

アニメ・マンガ

2017/12/10

『手塚治虫この短篇がすごい!』(双葉社)

 映画的視点による自由なコマ割りやカメラワーク、擬音や効果線など、現代の漫画で使われている手法のベースは手塚治虫が確立したと言われている。漫画界にビジュアル革命をもたらした同氏の功績は計り知れないが、「漫画の神様」と呼ばれる理由は他にもある。そのひとつがユーモラスで生命賛歌にあふれたドラマ性の高いストーリーだ。

 『鉄腕アトム』『火の鳥』『ブッダ』をはじめ、生涯に描いた原稿は15万枚以上と言われるほど、同氏の作品は圧倒的な数を誇る。それだけに「気になってるけど何から読めばいいのか分からない」と二の足を踏む人も多いだろう。恥ずかしながら筆者もその一人だ。でも、そんなビギナーに絶好の入門書がある。『手塚治虫この短篇がすごい!』(双葉社)は、手塚プロダクションの監修で「すごい短篇」を集めた珠玉の傑作選だ。

 本稿では本作に収められた11篇の短篇から、ぜひ読んでほしい5作品を独断と偏見で紹介したい。

■『雨ふり小僧』(月刊少年ジャンプ1975年9月号)

 古傘の妖怪と少年が交わした約束をめぐる寓話的ファンタジー。田舎育ちのため学校でいじめられていたモウ太が、妖怪「雨ふり小僧」と交わした3つの約束。すべての願いを聞き届けたあと、モウ太を待ち受けていたのは残酷な罰……ではなく、意外な結末だった。巻末の解説によると、落語家の故・立川談志が一番好きだった手塚作品だそうだが、物質的な豊かさを得る一方で忘れてはいけない何かを思い出させてくれる切ない物語だ。

■『サスピション/ハエたたき』(コミックモーニング1982年10月21日号)

 前述の『雨ふり小僧』とは打って変わり、皮肉でブラックユーモアに満ちたSFサスペンス。妻の殺害を企てていた男が、自ら設計した家庭用調理ロボットを使って完全犯罪を目論むが……。人間の邪な心がロボットを犯罪に加担させるという展開もさることながら、読み進めるごとに男の粗忽で詰めの甘い一面が描かれており、因果応報的なラストに向けてきちんと布石が打たれている。改めて同氏のストーリーテリングに脱帽させられる。

■『るんは風の中』(月刊少年ジャンプ1979年4月号)

 少年がポスターに写った少女に恋をする青春ドラマ。自我を持ってしゃべりだすポスターの少女「るん」に初めは驚いたが、現代でいう二次元嫁だと思えばしっくり。学校や家庭から孤立して「死にたい」と悩む少年を、るんが励まし、成長させていく展開は、時代が今になっても深く共感できる。その上で、「しょせん私はポスターでしかない」と自覚しながら、少年の自立を促そうとする彼女の最後の行動が、切なくもさわやかな余韻を与えている。

■『カノン』(週刊漫画アクション1974年8月8日号)

 2000年に『るんは風の中』などと共に実写ドラマ化された名作のひとつ。30年ぶりの同窓会の知らせを受けて、廃校となった小学校を訪れた加納(カノン)。校舎に入ると、かつての仲間たちがまるで「あの頃」と同じ姿で出迎えてくれるのだが……。加納の脳裏に浮かぶ30年前の「あの頃」、それは戦時中の凄惨な記憶だった。手塚自身の体験が色濃く反映されているという本作。戦後日本を目まぐるしく生きてきた男が、かつての悲劇をノスタルジックに回想していく不思議なファンタジー。

■『ユニコ ふるさとをたずねて』(リリカ1978年5月号)

 あのサンリオがかつて発行していた漫画誌『リリカ』で連載していた少女漫画『ユニコ』。その第5章にあたるエピソードも本書に収録されている。日本初の左綴じ&横文字組みという珍しいデザインで、アニメっぽいコマ割りで描かれたストーリーが独特で面白い。一説では手塚漫画を「萌え」の元祖と呼ぶ人もいるが、本作の主人公・ユニコもそのひとつだろうか。中性的であどけない小さな一角獣のユニコがとにかくかわいすぎる。

 他にも本書には『ゴッドファーザーの息子』や『トキワ荘物語』といった短篇から、『ブラック・ジャック』や『火の鳥』など人気長篇で描かれた異色作まで収録。どの作品も読みごたえがあって、普遍的なテーマで描かれた名作は、時代を超えて色あせない魅力があることを再認識させてくれるはずだ。

 手塚治虫の生誕90周年を迎える2018年を前に、本書から手塚ワールドに入ってみてはいかがだろうか。

文=小松良介