嫌な上司の指示にも意味がある? マンガでビジネスの本質を理解する「決算書の読み方」

ビジネス

公開日:2018/3/14

『とにかくわかりやすいMBA流決算書の読み方』(かんべみのり:著、大沢豪:監修/朝日新聞出版)

 一生懸命考えて書き上げた企画書を上司に見せると、ほめるどころか怒り始めた。徹底したコストカットを指示する上司が、得意先との接待を頻繁にしていて、言動の矛盾に腹が立つ。

 企業に勤めると、どうしても上司や会社の意向に不満を持つことがある。なぜ上司はそんな指示ばっかりするのか? もう少しゆるく仕事がしたい。そんな不満が心の中に渦巻くビジネスマンにぜひ読んでほしいのが、『とにかくわかりやすいMBA流決算書の読み方』(かんべみのり:著、大沢豪:監修/朝日新聞出版)だ。

 本書は決算書の読み解き方をマンガで分かりやすく紹介している。さらにMBA(=経営学修士)を取得した漫画家のかんべみのりさんと税理士・大沢豪さんが「社長の視点」から決算書を解説しているので、読みこめば「ビジネスの本質」を理解できるはずだ。決算書の読み解き方も大事だが、まずはそこからご紹介しよう。

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■分かっているようで分かっていないビジネスの本質

 私たちにとって会社とは「毎日通うところ」「お給料をもらうところ」だ。人によっては「嫌な上司のご機嫌うかがいをする場所」なんてことも。だが、会社のトップである社長から見ると景色がガラリと変わる。社長にとって会社とは「お金を調達して」「商品を作るために投資して」「作った製品を売って」「なんとか利益を上げて私たちに賃金を分配する」場所だ。

 「お金を調達する」といっても、今の時代の銀行は簡単に貸してくれない。納得のできる経営計画やお金の使い方を説明できなければ、お金は集まらないし、すぐに枯渇してしまう。そうなると「投資」ができない。投資ができないと「商品」も作れない。商品がないと「売る」ことができない。待っている運命は「倒産」一択だ。「給料」どころの話ではない。

 いざお金が集まっても、商品作りがいい加減だったり時代に合わないモノを作れば、当然売れない。もちろん取引先との関係も大切にする必要がある。もしこれらをないがしろにしたら、待っている運命は、やはり「倒産」一択だ。

 だから社長をはじめとする上司たちは、私たち部下に厳しく接する。企画書にダメ出しをするのも、取引先にいい顔して接待するのも意味があるのだ。仕事ができるようになっても、経済活動の本質を理解しないと、目の前の作業の本質を理解できない。たとえ上司が本当にイヤな奴だったとしても、その指示は的を射ているかもしれない。本書は私たちが分かっているようで分かっていない「ビジネスの本質」を一から教えている。まさしく『MBA流』である。

■決算書を読み解けばビジネスの本質を理解できる

 ビジネスの本質をつかむためには、やはりお金の流れを理解しなければならない。それを理解する方法の1つが決算書、つまり財務三表を読み解くことだ。この3つの表はどれも「ある企業のお金の流れ」を説明している。それは「ビジネスのお金の流れ」でもあるので、読み解くことができればビジネスの本質を理解することにつながる。財務三表をマスターして損はない。

 ここでは「損益計算書(P/L)」「貸借対照表(B/S)」「キャッシュフロー計算書(C/S)」のうち、「損益計算書」をご紹介しよう。

 損益計算書を簡単に言うと、決算期にあたる1年間のうちに、商品をどれだけ売ってどれだけ利益を得たのか表にまとめたものだ。しかしその利益にも様々な種類があるため、私たちを混乱させてしまう。

 そもそも利益とは

 利益=売上-費用-税金

 のこと。費用と簡単に書いたが、「販売費および一般管理費(販管費)」「売上原価(原価)」「特別損失」「営業外費用」などが存在する。損益計算書とは、利益からこれらの費用を引いた「引き算の結果」を表したものであり、下の5つに分かれる。

(1)売上高から売上原価を引いた「売上総利益」
(2)売上総利益から販管費を引いた「営業利益」
(3)営業利益に営業外収入と営業外費用を足し引きした「経常利益」
(4)経常利益に特別利益と特別損失を足し引きした「税引き前利益」
(5)そして残った利益から税金を差し引いた「当期純利益」

 この5つの中で重視すべきなのが(2)と(5)だ。たとえば、あるメーカーに5兆円の売上高があったとする。「うおー超絶ヤベー企業だー」と感じるが、そこから原価や販管費を差し引いた結果、1000万円の営業利益しか残らなかったとすれば、どうだろう。一方、ある小売店に2000万円の売上高があり、同様に差し引くと1000万円の営業利益になった。果たしてどちらの企業の方が「稼ぐ力」があるだろう。それを教えてくれるのが「営業利益」であり、一番大切な「本業で稼ぐ力」がわかるのだ。

 当期純利益とは、すべての費用と税金を差し引いて残ったお金のことなので、当然多い方がいい。私たちが給料をもらって、固定費やら交際費やら消費して、残ったお金を預金したり来月のお楽しみに回したりするイメージに近く、当期純利益として残ったお金を使って、会社の投資や株主たちのリターンに回していく。ここで赤字を出してしまうということは、売上が目標に達していないか、経費がかかりすぎているかなど、会社に何らかの問題があるということだ。会社の経営の何を見直すべきかが確認できるのが損益計算書であり、社長たち経営者は1年に1回行われる決算で当期純利益がしっかりと黒字になることを目標に、常に会社をかじ取りしているのだ。

 だが、損益計算書を読み解いても知ることのできない情報がある。負債や純資産のバランス、会社の命「現金」の流れなどは読み解くことができない。そこで登場するのが「貸借対照表(B/S)」「キャッシュフロー計算書(C/S)」だ。これらも本書で分かりやすく解説している。

 財務三表を読み解けば、私たちが毎日なあなあで行っているビジネス活動に「経営の視点」を加えられるようになる。あの表は数字の羅列ではない。ビジネスの本質が隠されている。それを理解することこそ「デキるビジネスマン」であり、その第一歩が本書につまっているのだ。

◆試し読みはこちら
「ソノラマ+」:http://sonorama.asahi.com/series/gigatown.html

文=いのうえゆきひろ