おばあちゃんがBLにハマって、女子高生と友達に? 心温まる異色マンガ発売

マンガ

公開日:2018/5/15

『メタモルフォーゼの縁側』(鶴谷香央理/KADOKAWA)

 75歳のおばあちゃんがBLにハマる……という斬新な設定の『メタモルフォーゼの縁側』(鶴谷香央理/KADOKAWA)。無料Webマンガ媒体「コミックNewtype」にて大好評連載中の本作が、単行本となって発売された。

 この奇抜な設定が、読む前はちょっと馴染めなかった。おばあちゃんがBLを理解できる? そもそも読む気になる? BLには過激なシーンもあったりするので、そういうのを好むおばあちゃんって、ちょっとイヤじゃないかな、と思ったりもした。

 とにかく、BLとおばあちゃんは、「絶対に合わない」「混ぜるな危険でしょ」と思っていたのだが……。

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 想像以上に、面白くて、心が温まって、どこかノスタルジックな気分にもなれて……いいお話だった。おばあちゃんの周りをゆっくり流れる時間が、なんとも心地よい。そして、登場人物たちが抱える「小さな孤独感」に、心を寄り添わせながら読める物語だった。

 あらすじをご紹介しよう。

 女子高校生の佐山うららは、書店でバイトをしている際に、自分も大好きな作家のBLマンガを購入する老婦人、市野井雪(いちのい・ゆき)に出会う。おばあちゃんがBLマンガを買ったことに、最初は驚いたうららだったが、二人はいつの間にか「BLマンガについて語り合うお友達」に。

 コミュ障というわけではなく、うららは学校に仲の良い友達がいなかった。おそらくマンガかアニメの話で盛り上がっているのであろう女子グループのテンションには、「キャラじゃないしな……」と付いていけず、もちろん、朝からキレイに髪を整えていたり、彼氏がいるような目立つグループにも入れない。

 うららは、「好きなマンガのことを話せる相手がほしい」とは思うものの、友達のいない現状を深刻に悩んでいるわけではなく、どこか楽観的に「諦めている」ような女の子だった。

「自分だけ他の人より、時間の流れが遅いように感じることがある」

 うららはそんな「小さな孤独感」を抱えつつ、日々を過ごしている。

 一方、老婦人の雪は、2年前に夫が亡くなり、今は習字教室の先生をしながら一人暮らし。毎月決まって行く場所は病院だけ。お金に困っているわけでもなく、社会から完全に疎外された存在でもない。けれどふと、「ひとり」の寂しさを感じることがある。

 丸ごとのかぼちゃを買って来て、調理しようとした際、自分一人の力で切れないことに、「かぼちゃのひとつすら……」と自らの老いを深く意識することも。

 ある時、雪はBLだと知らず、「絵がキレイ」というだけでマンガを買ってしまう。読んでから男の子同士の恋愛だと気づき、75歳にして忘れかけていた「ときめき」を覚えるのだ。

 そんなうららと雪が出会い、BLを通して距離を縮めていく。

 女子高校生とおばあちゃんの友人関係は、はたから見れば不自然かもしれないが、うららと雪にとっては、二人がお互いに感じていた「小さな孤独感」「深刻ではないけれど、どうしようもないさみしさ」を埋め合える仲間だった。その架け橋としてBLがあっただけなのだ。

「おばあちゃんがBLにハマる」というのは、本作において一つのきっかけでしかない。だからこそ読者は、この斬新過ぎる設定に気おくれせず、「無理やり感」も得ず、むしろ「この作者も、実はかなりのご高齢なのか?」と思わせられるような、細かに描写される老婦人の日常に、「リアリティ」と「懐かしさ」を感じ、いっそう本作に魅了されるのだと思う。

 また、雪がBLを好きになった理由は「(登場人物の男の子たちを)応援したくなっちゃうのよね」と、あくまでプラトニックなところに視点がいっているのもいい(今のところは?)。男の子同士のキスシーンに「あら……」と胸キュンしたり、ラブシーンも普通に読んでいるのだが、結局「人を好きになる気持ち」に雪が一番惹かれていることが分かり、より多くの人が彼女に共感できるのではないだろうか。

 BLが好きな女性はもちろん、そうじゃなくても、男性でも、「最近、忙しいな」と感じているのなら、ぜひ読んでみてほしい。ホッと肩の力が抜けていくような、心が温かくなる作品だった。

文=雨野裾