『ダ・ヴィンチ』2018年7月号「今月のプラチナ本」は、花田菜々子『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

今月のプラチナ本

2018/6/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

●あらすじ●

夫に別れを告げて家を飛び出した書店員・花田菜々子。疲れた日々の中、ふと思い立って出会い系サイト「X」に登録する。プロフィール欄には「今のあなたにぴったりな本を1冊選んでおすすめさせていただきます」と書いて──。エロ目的の男、自作を披露するポエマー、とびきりキュートな遊び人系女子……。これまで絶対に出会わなかったような人に会い、相手にぴったりの一冊を提案する日々を通して、自身の大きな変化を描く、実録私小説。

はなだ・ななこ●1979年東京都生まれ。「ヴィレッジヴァンガード」に勤めたのち、「二子玉川 蔦屋家電」ブックコンシェルジュ、「パン屋の本屋」店長を経て、現在は「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」店長。編著書に『まだまだ知らない夢の本屋ガイド』。

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』書影

花田菜々子
河出書房新社 1300円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

世界全体も出会い系サイトみたいだったりして

「出会い系サイト」って、私はなんとなく怖い。知らない人といきなり話すなんて! でも著者の花田さんには、知らない人と出会わなければならない理由があった。夫と別居し、仕事は先行きが見えない。好きなことを選んできたはずなのに。「狭い人生……。もっと知らない世界を知りたい。広い世界に出て、新しい自分になって、元気になりたい」。そう切実に願ったとき、花田さんの手にあったのは本だった。新しい世界を求めている人どうしが、本を介して出会うことができた。「ここにいる人は、みんな『どこかへ行く途中』の人だ」「みんなが不安定さを礼儀正しく交換し、少しだけ無防備になって寄り添ってるみたいな集まりだった。と思ったけど、もしかしたら世界全体もほとんどそうだったりして?」本書を読んだあと、われわれの手元にも本があることを、より心強く感じるはずだ。

関口靖彦 本誌編集長。本をおすすめする雑誌を編集しているわけですが、本をすすめることの喜びと苦しみ、両方を強く感じる本でした。そして本をすすめる側も、いろいろ受け取っているんだなと。

 

本の力を信じて

現状を打破する方法として、こんなやり方があるのかと。一生お世話になることはないと思っていた「出会い系サイト」もこうした使い方があるのかと。そうした素朴な驚きがまずあった。信頼していた人との関係がいともあっさり壊れると、新しい出会いの場に出向くことすら怖くなってしまいがちだが、本をコミュニケーションツールとして、そこから新たなつながりを作っていこうとする花田さんは、本の力を信じていて、それでずっと商売してきた根っからの「本屋」なのだと思った。選書活動の中で花田さん自身のパーソナリティが明らかになっていくのも面白いし、「出会い系」に集う雑多な人々の生態が知れるところも楽しい。花田さんにとっての「本」のようなものは人それぞれにあって、人生の窮地に追い込まれたときに救ってくれるのは、やはり自分が信じ続けてきたものなのだろう。

稲子美砂 「湊かなえ特集」を担当。10周年記念作品『未来』執筆のために、湊さんが自らに「食事なしベッドなし」という過酷な缶詰を課したというエピソードをうかがって、そのプロとしての意識の高さに震えた。

 

パワフルな本読みさん発見!

「本を人に薦める」というのは、その本を読んだとき自分はどう感じたのか?を思い出し内面を見つめるちょっとしんどい作業だと思う。そしてまったく知らない人と会う、という外部からの刺激も、刺激があるからこそ体力とともに心も疲れる。それを1年間で70人もこなした著者は凄いと思う。そりゃ本人になんらかの変化はあってしかるべきだ。能町さんの帯文にある「凡人(と思っている人)全員が刺激される強烈な自己啓発本」という言葉が本当にぴったりの書籍だった。

鎌野静華 部屋にある、ずっと手つかずになっていた荷物の整理をはじめた。どのくらいずっとかというと、引っ越しをしてからずっとだから……4年…。

 

マンツーマン書店員の人間観察記

誰かと出会うことを、書棚で待っているもの。それが本であるとすれば、花田さんは想像以上に沢山のものを投げうって、そのサポーターであることを選び続ける。その行為をただ好きだからやっているという潔さが、花田さん自身を導いてゆく。誰かと出会いたいと願う「X」の利用者たちも、花田さん自身も、少なからず混迷の中にある。だからこそこの本は、青春時代に読んだ旅行紀のように私を揺さぶった。ヴィレッジヴァンガードで一番売れた商品についてのくだり、秀逸過ぎです。

川戸崇央 仕事でマレーシアに行ってきた。現地で働き始めた友人が生まれ変わったように明るい表情をしていたので、浴びるほどビールを飲ませてやりました。

 

本をすすめていくうえでも参考になる本

知人に〈本をすすめる〉って大変だ。その対象者の趣味嗜好を考えて、面白い!と思ってくれそうな作品を選びたいから。本をすすめるって、相手のことを懸命に想い選んだ「贈り物」にも似ていると思う。本書では著者が出会い系サイト「X」に登録、元書店員の経験値を生かし、そこで出会った人に本をすすめていく。個人的に遠藤さんとの出会いが羨ましかった。何も気を使わず、本音で話せる異性の存在って貴重だから。また、本書の「本のすすめ方」理論は参考にしたい!

村井有紀子 江ノ島へ。神社で参拝(我が願い叶ってほしい!)しながら、「やっぱ海ってイイなあ」としみじみ。あ〜また引越ししたくなってきました……。

 

書評であり、エッセイであり、冒険小説

かつて鬱陶しい文学青年の端くれだったので、初対面の人に「あなたはこんな本を読むべし」と決めてもらいたいかなぁ(もしピンとこなかったらショック)と半信半疑で読みはじめたのだが、完全に杞憂でした。選書も素晴らしいのだけれど、それ以上に、仕事も家庭も家も手放そうとする裸一貫の著者が、未知の人に火傷しそうなくらい近づいて、1冊1冊本を選び出していく姿がとにかく格好いい。岩壁に楔を打つようにして少しずつ拓かれていく著者の日々に思わず元気をもらった。

高岡遼 「島耕作」漬けの素晴らしき日々。あまりにも見つめすぎて「もしかして、好きなのでは?」と、危うく何度か恋に落ちかけました。耕作、恐るべし!

 

わけのわからないヤツと出会いたい!

おとなになると人づきあいが合理的になる。気が合う人や、メリットがある相手とだけ効率よくつきあい、理解ができないヤツは視界から消す。コスパよく居心地いい世界をつくれるようになるのは、必ずしも悪いことではないが、それに慣れすぎるのも、何か貧しい気がする。そんなとき、本書の方法はすばらしく魅力的。本の力を借りて、「わけのわからない他者」に手を伸ばす。なめらかな関係性に慣れた身には、勇気と根気がいる作業。でも大丈夫、私たちには本があるのだ!

西條弓子 本を薦め合う関係、あこがれます。でも、私が薦めた本はおおむね読まれないし、私も薦められた本をなかなか読まない(読め)。

 

 

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