サッカー中継を10倍深く楽しもう!【前編】 「解いて説く」解説者・戸田和幸に注目せよ!

スポーツ・科学

2018/6/19

『解説者の流儀』(戸田和幸/洋泉社)

 FIFAワールドカップロシア大会が開幕し、毎日、熱戦が繰り広げられていますが、見てますか? 見てますね? サッカーボールひとつに、世界中が熱狂しているんだから、楽しまなきゃソンソン!

 でも、あれれ? 日本のサッカー中継を見ていて「騒がしいだけだな」「何言ってるかよくわからない」「イマイチ試合に没入できない」…そんなことを感じることもしばしば。絶対に負けられないのはわかるけど、それ以外のことも伝えてよ! そんな風に感じてるあなた! あなたはまだ、「良い実況・良い解説」に出会ってないだけなのです。

 倉敷保雄アナ、山本浩アナ、沖谷昇アナの「聴いているだけで試合と一体化できる」実況。岡田武史さん、宮澤ミシェルさんの「難しいことが簡単にわかる」解説。ときに早野宏史さんの滑り気味なブリテンジョーク。

 サッカーという主役をもり立てて、視聴者をより深くサッカーの世界に引き込んでくれるプロフェッショナルたちは、どのようにサッカーを言語化しているのか? 彼らは何を視聴者に伝えようとしているのか? それがわかれば、よりサッカーの中継は楽しくなるし、あなたも仲間内で軽く語っちゃったりできるかも? というわけで――

前編・「解いて説く」解説者・戸田和幸に注目せよ!
後編・サッカー中継の見方が変わればサッカーはもっとおもしろくなる!

 全2回で、サッカー中継を10倍深く楽しむためのポイントを紹介しよう。

■「解いて説く」解説者・戸田和幸に注目せよ!

 多くのサッカーファンの間で、解説者として評価が高いのが、戸田和幸氏だ。発売されたばかりの著書『解説者の流儀』(洋泉社)の評判もいい。2002年のトルシエジャパンで「赤毛のつぶし屋」として中盤で猛っていた彼からは想像もできないかもしれないが、とにかく、解説を聴いていて「しっくりくる」。一体、何が他の解説者と違うのだろうか?

1.主役は「サッカー」、解説は視聴者のために

解説者とはなにか? 文字通り、「解いて説く」仕事だ。
視聴者がサッカーというスポーツを理解し、楽しんでもらうため、今起きている現象を「言語化する」仕事である。

 戸田氏は「解説者の仕事」をこう定義する。視聴者に、主役である「サッカー」を伝え、楽しんでもらうという意識がとても強い。

 ゆえに、戸田氏の解説は、「自分の知識をひけらかさない」し、「選手のプライベート情報や裏話などの“無駄話”はしない」し、「どちらかのチームを贔屓することなくフラットなスタンス」が貫かれている。これは、案外できない人が多い。

 テレビ的には、スター選手のマル秘トークは美味しいかもしれないが、見たいのは「サッカー」であって「暴露トーク」ではない。試合の流れと無関係にダラダラ話を続けている間にゴールが決まろうものなら、目も当てられない。だから「無駄話」はしない戸田氏の解説は安心して聴けるのだ。

 また、サッカーファン以外の人が中継で引っかかるのが「専門用語」。「フリック」「5レーン」「デュエル」「ボックス」「ダイアゴナルラン」…ナンノコッチャ!?と思う人も多いだろう。

 戸田氏は場合によって、サッカーファン以外の視聴者にも「伝える」ために「分かる言葉」に置き換える。「ボックス」は「ペナルティエリア」、「ダイアゴナルラン」は「斜めに走る」、「デュエル」は「球際」などのように。

「サッカー」という主役を、より視聴者に伝える工夫が、そこにはある。

2.言葉は少なめ、回数多め――テクニカルにリズミカル

 戸田氏は、1試合の解説のために、両チームの直近の試合を最低2試合ずつ(計4試合)チェックし、分析の詳細をノートにまとめる。選手の特徴、監督の思考・戦術、チームの状態、etc.…。解説者に限らず、人間は色々知れば、色々話したくなる生き物だ。

 しかし、自分の話を延々と続けていれば、サッカーはその瞬間にも展開していくし、コンビを組むアナウンサーの実況も妨げてしまう。解説者は「話すタイミング」を見極め、「コンパクトな説明」を瞬時に組み立て出力することが求められる。

伝えたい情報量が多いため、話す量も増えるが、一度に話す文章はできるだけ短くするよう心がけている。だから、話す回数は自然と増す。

 入念な下準備をすることで「今日の試合で起こりうる事を想定してある」からこそ、「急に来た」ときでも慌てず、的確で短いコメントを発することができる。

 予め論理的に組まれたコメントは当然理解しやすいし、(1)でも触れたように、専門用語も必要最低限しか使わないので、視聴者にはスッと解説が入ってゆく。非常にテクニカルで、リズミカルな解説は、こうして生まれているのだ。

3.なぜ?の嵐――「解いて説く」からよくわかる!

「今のプレーどうですか?」「そうですね、効果的だと思います」

 解説ではなく「感想」を述べるだけの「感想者」でしかない人も珍しくない。しかし、戸田氏は、「なぜ効果的なのか?」を解いて説く。

「なぜこの選手はそのプレーを選択したのか?」「監督はこの選手を起用し、どんなことを目論んでいるのか?」など、そのチームがなにをしようとしていて、そのうえで選手たちはどんな役割を与えられようとしているのかという前提をもとに、それぞれのパフォーマンスを評価し、言語化していく

 戸田氏は、現役時代はサッカーのゲーム全般を見通すポジション・MF(ボランチ=中盤の底の舵取り)だった。「感覚でプレーできる才能はなかった」と語る戸田氏は、常にサッカーのあらゆる局面・結果に対して「なぜ?」という疑問を抱き、論理的に考察することを続けた。本人曰く「理屈っぽい」性格は、「戦術」をぶつけ合う「思考のスポーツ」であるサッカーの解説に役立っているのは言うまでもない。

4.ゴールシーン以外の見どころも教えてくれる!

僕は、得点シーンや失点シーンだけを切り取り語ることはしない。なぜなら、得失点には必ず「起点」が存在するからだ。その起点がどこにあるかは、そのときどき、状況によって変わる。(中略)僕が考える起点とは、その局面へと動き始めたところだ。

 サッカーを見ていると、どうしてもスーパーゴール、スーパーセーブなど派手なところに目が行くが、シュートに至る過程にもサッカーの醍醐味やおもしろさがある。

 また、途中まで圧倒的に強かったチームが、たったひとつのプレーで流れが変わり、逆転負けしてしまう場合もある。その「起点」がどこだったのか? 何がポイントだったのか? 我々素人にはわからないことも、戸田氏はこだわり、指摘し、教えてくれる。

 戸田スタイルの解説を聞くだけで、またひとつサッカーがわかってしまうのだ!

 というわけで、戸田氏の解説の魅力を「解いて説いて」みたが、伝わっただろうか? 次にサッカーの中継を見る時には、解説者の話し方、視点の置き方にも注目して見ていただきたい。もし、その試合の解説が「戸田和幸」だったら、大当たりです!

 次回は上級編(?)として、「ここがヘンだよ日本のサッカー中継! サッカー中継の見方が変わればサッカーはもっとおもしろくなる!」をお届けします。

文=水陶マコト

後編は【こちら】