「僕を奴隷にしてください」マゾな社長が平社員の犬になりたがるラブコメが色々とおかしい

マンガ

更新日:2019/6/13

『この男は人生最大の過ちです』(九瀬しき/ソルマーレ編集部)

 九瀬しき著『この男は人生最大の過ちです』(ソルマーレ編集部)、王道少女漫画かと思ったら、どうやら少し違ったようだ。

 物語は、愛犬を亡くし傷心中の主人公・佐藤唯がバーで愚痴る場面から始まる。自身が勤める製薬会社の薬がどれも効かなかったことから「何やってんだよ研究員」「使えねえよ」「もっと頑張れよ」「生き返る薬開発してくれ」と酒を煽りながら嘆いていると、隣の見知らぬ男性に声をかけられる。

「それより手っ取り早い薬お教えしましょうか? あなたが過剰摂取すればすぐにでもその犬に会える薬ならいくらでもありますよ」

 初対面の男性に、遠回しに「死ね」と言われ、佐藤は呆気にとられる。その後も続くひどい暴言の数々にキレた佐藤は、帰り際男性の足を引っ掛け転ばせて「わざとでーす」という捨て台詞とともに去るのだった。

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 翌朝出勤すると、職場に社長が来ていると、ちょっとした騒ぎが起きていた。彼女が勤める製薬会社は大企業なので、そうそうお目にかかる相手でもない。社長の顔すら認識していない佐藤は、彼の顔を見て驚く。昨日自分がバーで転ばせた男だったのだ…。

 ここまで読んで、「ああ、ここで男性が『面白い女だな』と心惹かれるストーリーかな」と想像していた私は、その後の展開に面食らってしまった。

 確かに社長は佐藤のことを好きにはなるのだが、それには特別な理由があった。彼の心を射止めてしまったのは、彼女にバーで加えられた暴力と暴言、どうやらそれ自体だった。普段社長という立場にいる以上、そういった扱いとは程遠い世界で暮らしている社長にとって、彼女は稀少かつ性癖にドストライクだったのだろう。彼女の前に跪き「僕を奴隷にしてください」と告白。それから彼の猛アタックの日々が始まる。

 社長のあまりに強引なアピールは、彼女をたびたび怒らせる。相手の都合を考えていないことを指摘され「支配されたいんじゃなく支配させたい」「リードしたがる奴隷なんていらないんだけど私」と突き放されるも、その次に彼が繰り出すアクションは、なぜか「キス」。いくら嫌なことを言っても、それが彼のスイッチを入れてしまう。社長の独特すぎるペースに、彼女はついつい振り回されてしまう。

 彼の歪んだ愛情表現により、ちょっとしたときめきシーンも台無し。クリスマスにひとり寂しく部屋でテレビを見ている彼女の家の前に社長が車で来てくれた、という回も、奴隷という立場から自分からは連絡ができないまま5時間立ち尽くしていたというから、怖すぎる。

 なかなかいい雰囲気にならないまま、攻防戦が繰り広げられるが、物語が進むにつれて少し様相は変わってくる。どうやら彼女もまんざらではなさそうな表情を見せているし、社長のさらに歪んだ、闇の部分が見え隠れするようになるのだ。

 どこか道化のごとく本心を見せない社長だが、果たしてこれからどう佐藤と距離を詰めていくのか。なんだか、今以上に気持ち悪くて怖い面を見せてくれそうな気がして続きが楽しみな作品だ。

文=園田菜々